10月18日、音の世界。(妊娠29週2日)

 キーボードが、ほしいなあ。と思いながら、家電量販店をぶらぶら。独身のころにも電子ピアノを買ったことがあるけれど、大きすぎて引っ越しのときにもっていくのをあきらめてしまった。こんど買うなら、できるだけシンプルで持ち運びがしやすくて音がよくて鍵盤の手ざわりがいい、そんなキーボードがお手ごろ価格で見つかるといいなあ。店頭展示品をためし弾きしていると女性の店員さんが近づいてきた。お買い得の商品があれば教えてもらおう。
「あの、キーボードと電子ピアノのちがいはなんですか」
ああ、ついちがうことをきいてしまった。
「鍵盤のタッチがちがうんですよね。電子ピアノはピアノのタッチ。キーボードは、板バネのようなものをつかっているからかるいんですよ」
「なるほど。値段はどうちがうんでしょう」
ききたいことに、ちょっと近づいた。
「タッチと鍵盤数、あとは音質の差だったり、機能だったり。たとえばこのキーボードには、本体に録音機能がついています」
録音機能か。そうすけに、なんどもきいてもらえるなあ。
「鍵盤数は、目的にあわせて選ぶといいですよ。ロックとかのバンドでつかうなら、61鍵あればだいじょうぶ。クラシック系なら、やっぱり76鍵はほしいところですね。お客さまは、どんな目的ですか」
「クラシック系ですね」
ピアノがわりに弾くつもりなので、クラシック系でしょう。それにしてもあらためて見ると大きいなあ。部屋のどこに置けばいいんだろう。などと、ぼんやり考えていたら、店員さんが日ごろの業務にもどっていった。すぐに買う気はないと察したのだろう。ためし弾きで満足できたのできょうは帰ろう。

 帰りにCDショップに寄って、ピアノ曲集のCDを買った。だいすきな湯山昭さんの『音の星座』と『お菓子の世界』。お菓子の世界は、ピアノを習っていた学生のころになんども練習したなあ。家に帰ると、さっそく風呂に湯をためてつかりながらきいた。なつかしい。自然に鼻歌が出る。そうすけも、ゆっくり動いている。ピアノの音がここちいいのだろう。妊娠28週をすぎたころになると、おなかの壁をとおして外の音や声がきこえるようになる。羊水のなかなのでくぐもった音だけれど、イントネーションや音の質感もわかるようになるという。そうすけは、どの曲がすきなのかな。たしかめてみようかな。