10月29日、ひとまわり大きく。(妊娠30週6日)

 夕方、ホテルニューオータニへ。コピーライターズクラブの受賞イベントに参加する。残念ながらわたしは新人賞をもらってからは受賞していないが、運営スタッフのひとりとして壇上に立つ。プレゼンターの補佐をする。この役をつとめてもう7年めになる。受賞者がトロフィーをうけとる瞬間を間近で見ることができる、貴重なチャンスだ。ただただ、うれしそうな人。とまどっている人。自信がみなぎっている人。照れる人。謙遜している人。ほめられたときのリアクションに、その人らしさがあらわれておもしろい。わたしはこの役がすきで、いつもたのしみにしている。今年も依頼がきてほっとした。妊娠しているからやめたほうがいいんじゃないの、といわれるかと思っていたけれど、わたしにやれるかどうかきいてくれたのがうれしい。もちろん、二つ返事でオーケーした。そうすけといっしょに壇上に立てるなんて。しかも、生まれる前から壇上に立てちゃうなんて。すごいなあ、そうすけ。これは、ほかの人には体験できないチャンスなんだよ。記憶のどこかに、すりこまれていくのだろうか。生まれたあとで、そっときいてみよう。お昼にすき焼き定食をたべて、イベント本番にそなえた。ちょっと奮発してしまった。でも、これで気合十分、よしとしよう。

 あららら、授賞式がはじまっているのに、そうすけのしゃっくりがつづいている。ひくっ、ひくっ、と一定の間隔をおいて動いている。下半身がくすぐったくて、身もだえしそうだ。落ちついて、そうすけ。わたしまで、立ちあがってしまいそう。そのまま、トロフィーの授与に突入した。プレゼンターの屈託のない笑顔も、受賞者の緊張した面持ちも、会場にわきあがる拍手も、そして、そうすけのしゃっくりも。すべてが混然一体となってせまりくる。はじめての感覚に足もとをすくわれそうになる。いまこの感覚を共有しているのは、そうすけ以外にはいない。こうなったら、しゃっくりもたのしんでしまおう。とびきりの笑顔でプレゼンターにトロフィーを手わたす。そうすけといっしょに。

 イベントのあと、スタッフ控え室でカンパイをした。心身がすっかり解放されて、ごはんがおいしい。こんなときのビュッフェはきけんだ。どのくらいの量をたべているのか、どんどんわからなくなってしまう。背中が痛くなってようやく満腹に気づいた。あぶない、あぶない。たべすぎないようにしなければ。両手をグーにして背中をぽんぽんしていると、仲間に声をかけられた。
「かんべさん、授賞式のあいだに、おなか大きくなってない?」
「ホント、ホント」
「1日でこんなにかわるなんて」
「あらあ、成長したねえ」
たべすぎてしまったからだろうか。ほんとうにそうすけが大きくなったからなのだろうか。どっちが正解かはわからないが、たしかにまたひとまわり大きくなった気がする。そうすけも、おめでとう。