12月16日、きゅんときた日。(妊娠37週5日)

 朝から雨が降っている。冷たい雨。いまにも雪にかわりそうだ。こんな日に子どもを保育園に連れていくのはたいへんだろうなあ。いままでは気にしたことがなかったけれど。見学会にかようようになってから、以前とくらべてすこしずつ見方がかわってきたように思う。たとえば駅に向かう道のりも、どんなルートを選べば人とぶつかりにくいか、段差がすくなくてすむか、排気ガスを吸わずにすむか、ついつい気になってしまう。いつも見なれている近所の風景も、そうすけの目線で見ればまったくちがってくる。

 午前11時、歯のクリーニングに行った。さむくて出かけるのをためらっていたら、電車に乗り遅れてしまった。恵比寿駅で電話する。すみません、いま駅に着いたところです、急いで向かいます、と伝えたところ、いつもの歯科衛生士さんが、急がなくていいですからころばないようにゆっくりきてくださいね、と気づかってくれた。このひと言に、きゅんときた。小さな歩幅でぺたぺた急ぐ。長めのダウンのコートを着ていたので、まるでペンギンみたいだ。歯科医院に入った瞬間、からだがまるごとあたたかい空気につつまれた。

「右の前歯と2本めの歯のあいだが磨けていませんね」
「ああ、そこ、いつものところですね」
「歯ブラシを立てて、横から磨くといいですよ」
「あ、ホントだ、きれいになりますね」
歯みがきは大切だ。歯ブラシをつかって練習しながら、みがけていないところを念入りにチェックする。45年も生きていると、歯にもいろいろ支障がでてくるものだ。わたしは右の前歯と2本めの歯のあいだにむし歯があって、治療をうけたことがある。左の前歯は、寝ているときの歯ぎしりのせいで、よく見ると縦に亀裂が入っている。この先まだまだ、歯とのおつきあいがつづくと考えると、ダメージは最小限におさえておきたいところだ。気をつけておこう。

 クリーニングが終わって帰ろうとしていたら、なんと、歯科医院のみなさんがそろってロビーに見送りにきてくれた。どうか元気な赤ちゃんを産んでくださいね、神戸さんのことだからきっとだいじょうぶですよ。と歯科医の先生にいわれて、またまたきゅんときてしまった。先生は、12月31日の大みそか生まれだそうだ。はい、きっと元気な赤ちゃんを産みますね。