12月24日、イブの子誕生。(妊娠38週6日)

 「ママの体力も、だいぶなくなってきましたし、赤ちゃんも、いちばんせまいところに長時間いるので苦しそうです。なので、赤ちゃんが無事に出てこられるように、病院のスタッフがお手つだいしたいと思います」
助産師さんがていねいに説明してくれました。つまり、吸引分娩をします、ということになる。自然分娩はあきらめる、ということでもあります。子どものからだに影響が出てくるのはつらいし、かみさんのメンタルからいっても、帝王切開をしてほしい、麻酔を打ってほしい、と懇願するようになってきているのでこの選択には納得できる。病院の提案を受け入れることにしました。

 数分後、助産師がひとり、医師がふたり入ってきました。医師のひとりはマンガ「コウノドリ」に出てきそうな若い男性でした。彼は麻酔も担当し、子宮口をひろげる機器もあつかっていました。シュッ、と緑の手袋をはめたときの表情と視線に、まさにプロフェッショナルを感じました。さいごの内診と機器のとりつけは彼が行い、かみさんのさいごの悲鳴が病室にひびきました。

 ほんの数分のあいだに、トイレのつまりをとりのぞくラバーカップのような器具に、そうすけの頭が吸いついて、かみさんのM字開脚越しに出てくるのが見えました。かみさんが、痛いー、いやだー、とあばれるため、わたしが両手を握りしめておさえなければならず、そうすけの出産の瞬間を動画におさめることはできませんでした。12月24日0時15分。そうすけは、天皇の誕生日ではなく、クリスマスイブを選びました。イブの子を選んだのだなあ。

 ついに、生まれました。生まれたばかりのそうすけを、カンガルーケアしているあいだに「コウノドリ」に出てきそうな若い男性の医師は胎盤を子宮からとりだし、傷口を縫合しました。かみさんの顔はまたもやこわばっていましたが、プロフェッショナルは紳士的に、そしてスピーディーに、ムダなく産後の対処をしていきました。

 そうすけがカンガルーケアになれてくると、助産師さんが、ではおっぱいをあげましょう、と、そうすけの口にかみさんの乳首をつっこみました。まだ意志をもって吸っているという感じではないけれど、すこしずつ母乳をのんでいるように見えました。そうすけの体重、身長、体調がすみやかに計測され、体重2630グラム、身長46.5センチ、ぺーハー正常、肝機能正常の元気な子であることが認められました。総出産時間は胎盤の摘出時間までカウントされるので、23日の14時の陣痛からはじまったこの出産は、10時間19分かかった、ということになりました。長かったような、短かったような。

 吸引分娩で、かつ、小さな子宮筋腫がたくさんあるかみさんは、お産による出血もかなりありました。1300ccあまり出血、500cc以上の出血があるお産は、大量出血したお産と判断されるそうです。まずは貧血状態を回復するため、数本の点滴を同時にはじめました。点滴をしながら、かみさんに夕食がとどけられ、深夜の晩餐がはじまりました。出産中は、ゼリー飲料をふたつとスポーツドリンクを500ミリリットルのペットボトルに1本しか口に入れていなかったので、深夜2時すぎにもかかわらず、かみさんはものすごいいきおいでたべはじめました。見たことのないエナジーがみなぎっていました。

 その後、分娩室のあとかたづけと入院ベットの手配をする助産師さんのかたわら、そうすけと、かみさんと、一家三人ですごす、はじめての夜を味わっていました。かみさんとの話が盛りあがると、そうすけはかまってくれと泣きだす。そうすけをあやすと泣きやんで、またかみさんと話すと、そうすけが泣きだす、というサイクルを、なんども、なんども、繰りかえしていました。

 点滴が終わって、これから入院する部屋まで荷物をもって移動して、部屋をととのえ、そうすけとかみさんを寝かせて、病院を出たのは午前4時でした。家にもどって、おとといかみさんがつくった手料理をつまみながら、缶ビール2本をのみほしました。真夏のゴルフやホットヨガのあとのビールをしのぐうまさとここちよさがのどをつたわっていったことは、いうまでもありません。