2月26日、お気に入りの歌。(生後64日)

「そうすけちゃん、元気ですかー」
母から電話がきた。受話器越しにそうすけになんども語りかけている。ここでああ、だとか、うう、だとか、返事らしきものがあればうれしいのだが。じーっとだまっている。おばあちゃんの声にききいっているのだろうか。そうすけを代弁しておしゃべりするのもあきてきたので、用件をきくことにした。
「写真、送ってくれてありがとう」
「どう、いいカンジでしょ」
「すごいね、そうすけくんは。もう、にぎにぎできるんだねー」
写真のなかのそうすけは、義理のおねえさんからもらった木製のおもちゃを手にもっている。泣きやまなかったときにぎらせてみたら、ぶんぶん振りながら泣いていた。その1枚だ。写真を見ていると、現場であれだけバタバタしていたのとはちがってとても知的な印象だ。母はすっかり、そうすけの知性のとりこになってしまった。つぎに出てきたセリフをきいて確信した。
「歌をうたったり、絵本を読んだりしてみたらどう」
「歌、かあ。絵本はまだ早いかもね」
後輩の先輩ママからもらった絵本を読んでみたけれど、ほかのことに興味を抱いているようだった。おもちゃとか、動くものが、いまはすきらしい。
「吹奏楽やっていたんだから、いっぱい歌うたえるでしょう」
「えっ、まあ、そうやけど」
ちょっと強引だなあ。でも、吹奏楽やっていたんだから、といわれると、ついその気になってしまった。どんな歌をうたってあげるとよろこぶかな。
「童謡でしょう」
「ええっと、どんなんだっけ」
「森のくまさん、とか、ぶんぶんぶん、とか」
電話のあと、うたってみた。途中までうたって、歌詞を忘れていることに気づいた。あんなに慣れ親しんだ歌も、おとなになったらすっかり忘れている。もういちどおぼえよう、そうすけといっしょに。思いだせないところは鼻歌でごまかしながら、何曲かうたった。いちばんのお気に入りは、大きな栗の木の下で。手遊びするつもりで、おでこ、ほっぺ、鼻、あごをツンツンしながらうたってみたら身をよじってよろこんでいる。たくさん、うたってあげよう。