2月28日、きょうのおさんぽ。(生後66日)

「おむつと、おしりふきは」
「もった」
「帽子は」
「かぶった」
「じゃあ、出発」
午後、天気がいいのでベビーカーでおさんぽに出かけることにした。きのうは家から保育園までの道のりだったので、きょうはちがうルートを歩いてたしかめてみよう。目黒川沿いの歩道を、カタカタ軽快な音を立てながら、ベビーカーが進んでいく。そうすけは目をつぶっている。川の向こう側を見ると、白衣を着た先生と生徒たちのグループが自然観察をしている。科学部かな。なにかを発見したのだろう、みんなの笑い声がきこえてくる。たのしそう。そうすけもいっしょに観察しているところを、つい想像してしまう。公園で休んでいこうよ、と、だんなが押していたベビーカーをとめた。この公園は小さいけれど、富士山のかたちをした立派な噴水がある。いきおいよくわきでる水の音を、そうすけにきかせてみる。が、目をつぶったままだ。気もちいいからなのか、寒いからなのか、ただ眠いだけなのか、よくわからない。
「そうすけ、興味がないみたいだね」
「まだ、たのしむには早すぎるのかもねー」
「なれるまで、待ってみよう」
大通りに出て、お店の前も歩いてみた。行き交う人のなかにも、ベビーカーでおさんぽしている赤ちゃんがいた。ふたりぶんの席がならんでいる。ふたご用のベビーカーだ。あれっ、赤ちゃんがひとりしかのっていない。どうしたのかな。と思っていると、ベビーカーを押しているふたごのお父さんが、赤ちゃんをもうひとりだっこしていた。お父さんは、まいったなあ、という表情だ。ひとりの子はベビーカーがお気に入りで、もうひとりの子はだっこをしないときげんがわるくなってしまうのだろう。ふたごでも、キャラがちがうんだな。

 けっきょく、そうすけは家に帰るまで目をつぶったままだった。いや、そう見えてきっと、うす目を開けていたにちがいない。いまは、家のなかのほうがすきなのかもしれない。帰りのエレベーターのなかで、にっこり笑っているではないか。部屋にもどったらあそぼうよ、と、うす目が誘っていた。