3月4日、おさんぽ日和。(生後70日)

 ぽかぽか、陽ざしがここちいい。東京の最高気温は18度、4月上旬並みのあたたかさだという。4月上旬といえば、桜が満開をむかえるころ。桃の節句の翌日だとは、とても思えない。しかし残念ながら、この陽気は週末までつづかないらしい。いまこそ、おさんぽのチャンスだ。14時、くまさんのアップリケがついたロンパースに着がえて、ベビーカーで出発した。そうすけの席から景色がよく見えるように、あたまの上にかぶっているシートをずらしてみた。

 きょうのそうすけは、開放的だ。両手をひろげて、空にかざしている。うす目を開けて、それを見ている。ベビーカーにも、なれてきたのかな。目黒川のほとりを、カタカタ軽快な音を立てながら進んでいく。前から、小犬を連れたおねえさんが歩いてきた。ミニスカートにブーツが、かろやかだ。おねえさんがにっこりほほ笑みながら、そうすけを見る。ぱっちりと、そうすけの目が見開いた。からだのどこかに美人センサーでもついているのだろうか。

 ベビー用品の専門店に立ち寄って、たんぽぽコーヒーとベビーマッサージの本を買った。レジのおばさんが、ベビーカーのそうすけに声をかけた。
「いっぱいマッサージしてもらってね」
「うん、ありがとう」
そうすけを代弁して母親のわたしがこたえると、レジのおばさんがびっくりしていた。授乳室でおっぱいをあげて、そばに置いてあるベビー体重計でそうすけの体重を測った。5.64キログラム。大きくなったなあ。ぼーっと見ていると、そうすけが体重計の上で泣いていた。あわてて抱きかかえた。

 あとは、銀行と、薬局と、パン屋さんに寄っていこう。銀行のATMに近づいたら、そうすけの反応が、かわった。目をまんまるにして、あたりを見まわしている。アトラクションを体験しているみたいだ。たしかに、銀行は非日常な空間かもしれない。薬局は店内が明るく、商品があふれているので、まぶしそうにしている。店員のおにいさんが、店がせまくてごめんねと、そうすけにしきりにあやまっている。むすっとしているそうすけが、ちっちゃな社長さんのようだ。パン屋さんでは、まだたべものを口にできないからか、まったく興味がなさそうな顔をしている。が、レジのおねえさんと向かいあったとたん、じいっと、熱視線を送っているのであった。おそるべし0歳児だ。