6月12日、11週0日。(妊娠11週0日)

 きょうでちょうど、11週めをむかえる。きのうから、きこえなかった心音のことばかり気にしている。もうひとつ、気になっていることがある。おなかの張りだ。朝からつよい張りを感じたことは、いままでなかった。超音波ドップラーをつかっていたときに、冷やしてしまったからではないだろうか。いまさら後悔したって、あとのまつりだ。くよくよするな。そう自分にいいきかせながら、仕事場にむかった。でも、やっぱり、気になってしまう。そうすけは元気でいるだろうか。いつもより早めに出勤したら、だれもいなかった。そうだ、今週末に会社まるごと引越しをするんだっけ。資料やら、書類やら、ダンボール箱が積まれている仕事場をとびだして、外で打合せや企画をしている人もたくさんいる。これはチャンスだ。病院で企画を考えよう。さっそく近くの病院に電話で予約を入れた。夕方の打合せまでにもどれば、なんとかなる。

「妊娠11週めなんですが、朝から、おなかが張っているみたいで。紹介状はありませんが、診ていただくことはできますでしょうか」
「初診ですか」
「はい」
「11時までに受付で手つづきいただければ、だいじょうぶです」
「いまから、30分以内に行きます」
「ありがとうございます。ただ、早くきていただいても、すでに予約を入れていらっしゃる方を優先しますので、2時間ほどお待ちいただくことになるかもしれません。それでもよろしいでしょうか」
「かまいません」
「では、お待ちしております」
さっそく病院に向かった。
 受付で手つづきをすませて、婦人科のコーナーに行くと、カウンターにいた若い女性がテキパキと応対してくれた。
「すみません、ただいま予約が混みあってまして、1時間ほどお待ちいただくことになります」
2時間ほどかかるときいていたので、ラッキーだ。
「食堂に行ってきます」
「もどったら、ここでもういちど声をかけてくださいね」
「わかりました」
待っているあいだに、納豆定食をたべて満腹になってしまった。企画を考えるつもりだったのが、眠気を覚ます方法ばかり考えていた。

「もどりました」
10分ほど前にもどって、40分ほど待った。トータルで1時間30分待ったことになる。それでも、そうすけに会えるならたやすいもんだ。
「こんにちは」
診察室に入ると、肌のきれいな女医さんが、にっこりむかえてくれた。30代前半くらいだろうか。きのうからの経緯を話したあとで、さっそく超音波検査がはじまった。いつもより、ドキドキしてしまった。
「ちからを抜いてくださいね」
「すみません」
「ああ、動いていますね。元気ですよ」
活発に動いているそうすけに会えた。うれしいな。
「40ミリですね」
「よかった」
「順調ですから、この調子で」
今回は質問することをノートに書いてきた。それを見ながら話すのが恥ずかしくて、ひとつひとつ、思いだしながらきいてみた。
「11週めですが、仕事場にはいつごろ報告するといいですか」
「つわりがひどければ、早めに話して、まわりに協力してもらうのもいいですよね。でも、体調がよければ、安定期に入ってからでいいと思いますよ」
「すこし様子をみようかな」
「気もちがラクなほうを、選んでください」
「以前ホットヨガにかよっていましたが、安定期に入ったら、マタニティヨガをはじめようと思っています。高齢ですけど、だいじょうぶですか」
「もちろん。でも、ムリはしないでくださいね」
「はい」
「しんどいなと思ったら、すぐに休みましょう」
「7月の後半に宮古島に行く予定だったんですが、やっぱり飛行機での移動はやめたほうがいいですか」
「旅行ですか」
「はい、友だちに会いに行こうかと」
「体調がよければ、だいじょうぶですよ。そのときのコンディションにもよりますよね。飛行機については、体験者の声など、ご自身でも調べてたしかめてみてください。けっきょく決めるのは本人ですから」
「わかりました」
「ムリはしないでくださいね」
「いろいろ気になることがあって、いま週1のペースで超音波検診をうけていますが、これって、じつは、よくないんでしょうか」
「だいじょうぶですよ」
「ほかに、気をつけたほうがいいことはありますか」
「とくにありません」
「そうですか」
「あ、ひとつだけ。心配しすぎないこと。いまを、たのしんでくださいね」