6月13日、上司に報告。(妊娠11週1日)

「やっぱり、信頼できる人に話そうかな」
「それがいいね」
職場への報告は、安定期までひかえるつもりだった。そう思っていたら、たまたま、きのうの夜、だんながマタニティ雑誌の元編集長だった友人とのんできた。そのときに、早めの報告をすすめられたらしい。日本の企業は、まだまだ妊婦に対する理解が足りないところも多い。自分から率先してリスクを避けるくふうをしたほうが得策ですよ、というわけだ。たしかに、そうかもしれない。高齢出産だからぎりぎりまで言いたくない、という気もちとせめぎあう。どうしよう。でも考えてみれば、高齢初産に安定期はないだろう。ただでさえハイリスクの妊娠であることは、まちがいない。これからなにかと迷惑をかけることがあるにちがいない。おない年の経験者は残念ながら近くにはいない。いざというときにすぐわかる人がいてくれると心づよい。相談しよう、そうしよう。

「あの、ちょっと、いいですか」
さっきまでオフィス引越しの注意事項をアナウンスしていた上司に、声をかける。いわなくちゃ、と思うと、ついつい顔がこわばってしまう。
「入館カード、なくすなよ」
「気をつけないと、ですね」
「で、なぁに」
「じつは、わたし、妊娠しまして。いまちょうど11週めです。予定日は来年の元旦になるそうです」
一気に話してしまった。緊張がほどけた。おたがい、笑った。
「おめでとう」
上司が手をさしだしてきた。がっつり、握手した。
「よかったな、で、いいんだよね」
どこまでも気をつかってくれる。やさしい上司だ。
「よかった、です」
「いくつだっけ」
「44です。母からもラストチャンスっていわれちゃいました」
「あははは」
「仕事はつづけたいと思っています」
「ムリするなよ」
「ありがとうございます」
このあと、報告しなければならない人が、いっぱいいる。なかには報告しにくい人もいる。高齢妊娠をネタにしそうな、おしゃべりな人もいる。
「つぎの検診、いつなの」
「来週の土曜日です」
「1週間後か」
「12週めに入りますね」
「まだ時間がある、な。その検診が終わってから、上にいおうか」
「はい、そうします」