6月21日、両手でピース。(妊娠12週2日)

 きょうは、婦人科検診の日。6時に目が覚めた。検診は10時から。もうすこし寝ていようかな、お風呂に入ろうかな。のんびりお風呂であったまっていくことにしよう。ゆっくり時間をかけて、湯船につかった。ゴクラク、ゴクラク。風呂からあがると、すでに、だんなが服を着がえて待っていた。夫婦で健診に行くのは、きょうがはじめてだ。うーん、まだ、早すぎると思うんだけど。緊張しているのかな。サッカーの試合を観ながら、出かける時間まで待った。

「お名前でよびますので、お待ちくださいね」
受付で整理番号を受けとったが、そう看護師さんからいわれる。なにかあったのかな。呼出のモニターを見てみると、わたしたちの番号だけなかった。 
「待っていて、いいんですよね」
不安げな顔を見て、看護師さんが察したらしい。笑ってこたえてくれた。
「妊婦健診はいつも、こうなんですよ」
あぁ、そうだったんだ。よけいなことを考えそうになっていた。思いこみはよくない。わかってはいるけれど。まだまだ経験が足りない。

いつもとはちがう診察室に案内される。ベッドが置いてあった。
「横になって、お待ちください」
そうか、きょうから、経腹エコー検査なんだ。妊娠中期からおこなわれる超音波検査で、おなかの外からプローブをあてる方法。家庭用超音波ドップラーとおんなじしくみだ。ゼリーをおなかにぬり、プローブをすこしずつすべらせるようにあてながら調べていく。ゼリーがちょっとひんやりするくらいで、痛みはまったくない。だんなはそばで椅子に座ってモニターを見ている。
「あ、見えますね」
白い影がモニターに映ったみたいだ。モニターはだんなに向いていて、わたしからは見えない。身をのりだそうとしたら、あわてて先生にとめられた。
「待って、待って。あとで見せるから」
すみません。と、ふたたびベッドに横たわって、先生とだんなの会話をきいていた。そうすけは、きょうも元気にしているようだ。
「動きましたね」
「こんなふうに、短い周期で寝たり起きたりするんですよ、赤ちゃんは」
「あっはは、動いた、動いた」
先生とだんなが、盛りあがっている。あの、わたしも見たいんですけど。ひととおり会話が終わったところで、こちらにモニターが向けられた。
「元気ですよ」
よかった、よかった。でも、そうすけは、じっとしている。
「あれ、寝ちゃったのかな」
「さっき、あんなに動いていたのにね」
「寝ちゃいましたね」
だんなが見たときには、元気に動いていたのに。そうすけのパフォーマンスは次回の検診まで、おあずけになってしまった。

「そうすけ、どんなふうに動いていたのかな」
しつこく質問するわたしに、だんなは、よろこんでこたえてくれた。
「両手でピースしていたよ」
「両手でピース」
「こんなカンジ。いえーい」
そんなこと、できるのだろうか。でも、そう見えたんだから、きっと、そうだろう。見たかったなあ、両手でピースのそうすけを。
「シャドーボクシングって話していた意味が、わかったよ」
「そんなしぐさだったんだ」
「でも、きょうは、ピースしていたよ」

 かばんのなかには、会社に報告するための診断書と、分娩する病院への紹介状が入っている。病院は、だんなとも相談して、広尾にある日本赤十字社医療センターへお世話になることにした。麻酔科やNICUが充実している産科のほうがいいよ。と、先輩からのアドバイスもあって決めた。きょうのそうすけの超音波写真を、穴があくほど見た。両手でピース、見たかったなあ。