6月7日、セカンドオピニオン。(妊娠10週2日)

 きょうは、土曜日。いつもなら、ホットヨガに行って、帰りにお気に入りの店で遅めのランチをたべているところだ。ヨガのあとにのむビールは、格別のごほうびだ。ぐいぐいからだに吸いこまれていく。この快感は、だれがなんといっても、やめられない。やめられなかった。でも、きょうからしばらくのあいだはおあずけだ。なにをして、すごそうかな。
 婦人科に行こう。
きのう質問したくてもできなかったことが、たくさんある。きのう行った婦人科は2週間後に予約を入れている。連日で行くのもヘンかな。だったら、近くにある別の婦人科にしてみよう。自宅から歩いていける婦人科をネットで検索した。口コミはどうだろう。どうせ行くなら、評判のいいほうがいい。さっそく電話をかけてみた。
「あの、いまから診察にうかがえますか」
「予約がいっぱいでして」
「あしたも、むずかしいですか」
「すみません、2か月先まで予約がいっぱいでして」
「ああ、そうですか」
口コミで評価が高いところは、どこも予約でいっぱいだった。けっきょく口コミが1件もない婦人科に行くことにした。電話に出てきたのは明らかにわたしより年上の女性で、アジアなまりの話し方が印象的だった。
「1時半までオーケーですよ、いますぐ来て」
「はい、行きます」
自宅から歩いて10分ほどの婦人科だった。入口の自動ドアが故障していてメモが貼ってあった。
「自動ドアは動きません。左に引くと開きます」
ものすごくアットホームな婦人科だな。
「こんにちは、先ほどお電話した…」
「神戸さんですね」
白衣を着た50代半ばくらいの髪の長い女性があらわれた。ほかには、だれもいない。先ほどの電話に出たのは、この女医さんだった。
「さっそく、診てみましょう」
診察室に案内されると、すぐに超音波検査がはじまった。
「元気、元気。起きているよ」
モニターに赤ちゃんの白い影が映しだされた。へその緒につながれて、白くて小さな影がふわりふわり浮いている。宇宙遊泳みたいだ。
「心臓とか、ちゃんと動いていますか」
「あたりまえですよ。ほら、そんなこというから、おこってるよ」
白い影が、パンチをしている。シャドーボクシングだ。
「うわ、動いてる」
「20分おきに寝たり起きたりするんですよ。起きててラッキー」
「かわいいですね」
「テディベアみたいでしょ」
しばらくモニターを観察していた。どのくらい見ていただろう。そのあいだ確実に、赤ちゃんに対する愛情がわいている。31ミリ。予定日はやっぱり、来年の元旦になりそうだ。けっきょく質問することを忘れてしまったが、それはそれで満足のいくセカンドオピニオンになった。

 帰りに母へメールを送った。
「セカンドオピニオンに行ったよ。こんどは起きていて、パンチみたいなポーズで動いていたよ。予定日はやっぱり、来年の元旦らしいよ。運動って、どこまでやっても、いいのかな。おとなしくしていたほうが、いいのかな」
しばらくすると、返事がきた。
「もういちどほかの病院で、診てもらったわけね。よかったね。ふつうにすごしたら、いいんだよ。はげしい運動をしたり、飛び降りたり、つまずいて転んだりしないように、気をつけるんだよ。あなたたちの趣味のダイビングは、お休みしたほうがいいよ。海に飛びこむし、からだが冷えるからね。妊娠したからといって、神経質にならなくていいからね。産むまでは、みんな、おんなじ道をとおるんだよ。かぜをひかないように、からだには気をつけなさいよ。とにかく、健康がいちばんだからね」
 だんなにもおなじメールを送ったら、返事がきた。
「よかった。ふたりの家族も最高だけど、もっともっと最高の家族になろう」