7月10日、遺伝カウンセリング。(妊娠15週0日)

 アルゼンチン対オランダ、しびれる試合だった。両者ゆずらず0対0のまま120分を終え、PK戦の末アルゼンチンが勝利した。だんなは、朝からおおよろこび。ロッベン選手がよろこんでいる姿も、見たかったな。もう3位決定戦を戦う気もちはない、というが、気もちをきりかえてまたガシガシ走ってほしい。この試合で思うぞんぶん走れなかったぶんも、走ってほしい。

 きょうは、遺伝カウンセリングの日だ。恵比寿のクリニックに、10時から予約している。広尾の日赤医療センターでは予約を入れることができなかったため、提携しているところを探して連絡をとった。だんなもいっしょにカウンセリングをうけてくれる。心づよい。受付で健康保険証を提出する。母子健康手帳はなくてもいいそうだ。問診票を記入して、番号札を受けとった。
「2番の方、お入りください」
「あ、はい」
わたしたちの番がきた。カウンセリングルームに入室すると、女性の担当者がひとり座っていた。30代前半くらいだろうか。幼い顔立ちなのに、たいへんしっかりした話し方をしている。信頼できそうだな、と感じた。手もとには検査の目的について説明をするためのシートがおいてある。カウンセリングはこの説明もふくめて1時間みっちりおこなわれた。

 ヒトのからだは、小さな、小さな、細胞があつまってできている。その細胞のなかには、両親から受けついだ染色体がある。お父さんとお母さんから23本ずつで23組、合計46本の染色体を受けついでいる。23組のうちの1組は、性別を決める性染色体という。女性はX染色体を2本、男性はX染色体とY染色体を1本ずつもつ。染色体異常は大きく2種類あって、1つは、染色体の数がふえたり減ったりする、数の変化。もう1つは、染色体のかたちがかわる、構造の変化だ。羊水検査では、染色体の数の変化や構造の変化の多くについて、正確に分析することができる。だから、これまでにもたくさんの女性が羊水検査を受けてきたわけだ。
 とはいっても、染色体異常は赤ちゃんの病気のほんの一部にすぎない。羊水検査で、すべての病気を診断することはできない。生まれてくる赤ちゃんのだれもに病気をもつ可能性はあるのだ。赤ちゃんの約3%から5%は、なんらかの治療が必要だといわれている。染色体異常の赤ちゃんは、0.92%。この0.92%を知りたいと思うかどうか、だ。また羊水を採取できても、胎児の細胞をきちんと培養できない場合が、約0.2%ある。さらに、羊水を採取したことがきっかけで流産や死産にいたる可能性も、約0.2%から0.3%あるといわれている。これらすべてをふまえて、羊水検査を受けるのかどうかをしっかり考えて決めましょう、そのためのカウンセリングだったのだ。

 わたしたちの結論は、100%決まっていた。検査をうける。ちゃんと準備をしたいからだ。わたしたちふたりを親に選んでくれた赤ちゃんに、わたしたちができる最高の環境を準備したい、と思う。その気もちは、はじめからゆるがなかったが、説明のなかで染色体異常の例をいくつも見ていると、胸がざわざわしてくるしかった。事実から逃げてはいけない。いままでも受けとめてきたんだし、だいじょうぶ。そう自分のなかで、繰りかえしていた。