7月23日、胎盤よあがれ。(妊娠16週6日)

 分娩をする日赤医療センターで、初診を受ける。8時半ときいていたが、すこし早めにロビーに着いた。まだ、初診窓口は開いていない。もしかして、いちばんのりかも。番号札を受けとり、申込書を記入しながら待った。8時半に窓口が開いたとたん、人がぞくぞくとあつまってきた。なんだ、いちばんのりじゃなかったんだ。広尾という土地柄からか、外国人も多い。わたしとおなじ産科で診察を受ける妊婦さんもいる。赤ちゃんがおない年だというだけで、親近感がむくむくわいてくる。つい、笑顔で会釈してしまう。まったく知らない人なのに。

 受付を済ませて、産科へ。血圧と体重を測り、検尿をとり、名前をよばれるのを待つ。いつもの検診はだんなといっしょにきているけれど、今回はひとりだ。いつもより待ち時間を長く感じる。産科のとなりに小児科がある。元気な赤ちゃんの泣き声がきこえてくる。妊娠する前は、ただの泣き声だと思っていたのに。いい泣きっぷりだなあ、と、ほれぼれしてしまう。からだの奥にあるママさんスイッチが、オンになってしまった。いつ、だれが、どこで、押したんだろう。おなかのなかでそうすけが、リモコンを操作しているのだろうか。

「こんにちは」
「よろしくお願いします」
診察室に入ると、男性の医師が座っていた。おない年くらいだろうか。先生の質問に答えているうちに、なつかしい気もちになった。幼いころからなじみのある関西弁のイントネーション。実家に帰ったみたいだなあ。おっと、話に集中しなければ。ひととおり確認が終わると、経腹エコー検査がはじまった。
「あぁ、動いていますね」
「どうですか」
「元気ですよ」
先生は、そうすけのからだをチェックしている。あたまや足のサイズ、内臓の位置や状態、などなど。緊張する。じっとしていた。そうすけも、じっとしているように感じる。どうやら、大きな問題はなさそうだ。16週だから経過をみなければ判断できないことも多い、とのこと。ひとまず、ほっとした。
「胎盤がちょっと低いですね」
「まずいですか」
「まあ、しばらく様子をみましょう」
前置胎盤になると、絶対安静にしたほうがいいといわれる。ただ、この時期は胎盤が下のほうに見える人もけっこういて、その後、正常な位置にもどる場合も多いそうだ。いまは、ふつうにすごしていいとのこと。胎盤よあがれ、あがれ、と念じながら、すごそう。からだに、祈りがとどきますように。