7月25日、じっと待つべし。(妊娠17週1日)

 いつもより遅めに、朝をむかえた。きのう、尊敬するコピーライターの先輩によるトークイベントがあった。イベントのあとの懇親会まで参加したら、帰りが深夜近くになってしまった。盛りだくさんの1日だったなあ。ためになる話をいっぱいきいて、一気にパワーをもらった気がする。気もちよく眠れたので、疲れも感じなかった。ゆっくり風呂であたたまってから、出かける準備をした。

 その先輩のコピーをはじめて見たのは、小学生のころだった。なのに、いまもはっきりとおぼえている。テレビCMを見るたびに、ナレーションを口真似していた。学校に行くと休み時間になるたびに、クラスメイトといっしょにCMを再現して、あそんでいた。そんな広告を生みだした先輩が、いま目の前にいるだけでもミラクルだ。あのコピーは、どうやって生まれたんだろう。

 広告は、目の前の在庫を減らすためのものではない。と、先輩はいう。広告には、もっと、大きな使命がある。5年後、10年後のブランドを確立させる原動力になること。会社だけではなく、業界全体の課題を解決する、きっかけになること。A社とB社のちがいよりも、本質について語りたい。そのためにはブランドや商品を、だれよりも、よく知っていなければならない。
 実際、先輩は、広告を提案する前に半年かけて取材をしたそうだ。ブランドや商品にかかわるすべてを知りつくそうとした。そうしてあつめたネタで、3年ぶんの企画を考えたという。なんと、ていねいな仕事だろう。わたしのだいすきなコピーもそのなかにあった。しかし、そのコピーが世の中に出るまでには、3年も待った。ほかの企画をかたちにしながら、ずっと、提案しつづけたそうだ。あんなすばらしい広告が、どうして3年かかったんだろう。
 1年めには、新しい価値観のタネをまいた。価値観が定着してきた2年めには、ブランドや商品をおぼえてもらった。そして、3年め。みんなのニーズと合致したタイミングにようやく、あのコピーが発信された。だから、予想を超える効果が発揮できたのかもしれない、と、先輩は当時をたしかめるように話していた。結果をあせらない。のぞみどおりの展開になることを信じて、待つことも大切なんだ。おなかをさすりながら、その言葉をきいていた。