7月6日、子ども先生。(妊娠14週3日)

 髪を切りに行った。1か月ぶりの美容室だ。いつもかよっているところではなく、ホテルに併設されている新しい店へ向かった。いつもお世話になっている美容師さんが、独立したのだ。わたしだけでなくいろいろな人が、変化の時期をむかえている。席につくとまず、妊娠していることを伝えた。
「おーっ、おめでとうございます」
「ありがとうございます」
美容師さんは、二児の父親だ。4歳と1歳になるふたりの娘さんをもつ、お父さんだ。わたしよりもずっと若いが、ずっと先輩だ。きょうは、いろんな話をきいてみよう。きっと、彼ならではの子育て論があるにちがいない。

「子どもには、ホント、日々教えられていますよ」
「子どもに、教えられる」
「そうなんです、子どもは、親の鏡ですよ」
子どもがやっていることすべてが、お父さんとお母さんの日ごろの言動をもとにしている。ここはお父さん、ここはお母さん。と、はっきりわかるくらいだという。だから、子どもをしかっているときには、自分もしかられている気もちになるんだ。と教えてくれた。そんな気もちになるんだなあ。
「だから、自分を反面教師にするんですよ」
「そりゃまた、極端ですね」
「ま、自分がいやだったことは子どもにはしない、とかね」
「なるほど、そういう意味ですかー」
美容師さんは自分の生まれ育った町にいまも暮らしているが、自分のかよっていた幼稚園ではなく、別のところに決めたそうだ。
「母親がすごく反対してね。そこに決めるんだったら、孫の送り迎えはしないからって。手伝わないからって」
「おばあちゃんは、孫にも息子とおなじ幼稚園にかよわせたかったんだ」
「おとなから見ると、環境いいんですよ」
「おとなから見ると」
「そう。清潔にするのがモットーだから」
「きれいな幼稚園、かあ」
「きれいなママもいっぱいですよ」
「なんか、想像できますねえ」
子どもには、いっぱいあそんでほしい。ちょっと汚しただけでも神経質になるような幼稚園ではなく、思いっきり自由にあそべるところにしよう。と考えたそうだ。いま娘さんがかよっている幼稚園では、たとえば、バケツにたっぷり入った絵具に両手をひたして、床いっぱいひろげた紙にペタペタ絵を描いたりしてあそんでいる。たのしそうだなあ。お友だちが誕生日をむかえたら、みんなの手のひらで描いた絵でお祝いするそうだ。おかげで、みんながなかよしなんだそうだ。すきなことができて、友だちもたくさんできる。子どもにとってこんなにうれしい環境はないだろう。

「神戸さんは、仕事つづけますよね」
「そう、ですね」
「そうなると、保育園や、幼稚園も、じっくり考えたほうがいいですよ」
「距離や、時間で、考えていたなあ」
「それも大切ですよね」
「完全に、親の都合で考えてたかも」
「気もちわかりますよ」
「でも、かようのは親じゃなくて、子どもですもんね」
「そうそう、そうなんですよ」
目からぽろぽろうろこが落ちる音がした。わたしよりもずっと若いが、ずっと先輩のお父さんにたっぷり教わった。はい、参考にさせてもらいますよ。