8月13日、見えざるちから。(妊娠19週6日)

 おかしな夢を見た。夢のなかで、わたしは出産をしている。どうやら安産のようだ。すぽんっ、と、いきおいよく赤ちゃんが生まれた。夢なのに、はっきりエコー音まできこえる。元気な男の子ですよ、と助産師さんに声をかけられて、ひと安心。と思って見ていたら、なんと生まれてきたのは、赤ちゃんではなく小学生だった。ど、どうやって、おなかのなかにいたの。その子がわたしをじいっと見て、話しかける。びっくりした? ぎゃああ。まるでホラーだ。

 気分転換に、朝風呂に入った。ジャスミンの入浴剤に、お気に入りのCDでゆっくりくつろいだ。風呂からあがると、携帯電話に着信があった。はじめて見る番号だ。留守番電話にメッセージがのこっている。だれからだろう。
「滋賀医科大学、救急・集中治療部の〇〇〇、と申します。松本美代子さんの娘さんで、いらっしゃいますでしょうか。本日、美代子さんが、こちらの病院にいらっしゃいまして、腸炎のため入院いただくことになりました。くわしくは追ってご連絡いたします。それでは、失礼いたします」
母が、入院した? 朝の7時すぎに? なにが、あったんだろう。あわてて医師に連絡をして、状況をきいた。深夜2時ごろ、急に胸がくるしくなったらしい。病院に運ばれてきて診たところ、胸は異常なし。ただ、大腸にひどい炎症が見つかったそうだ。大腸の腸壁がはれて、血管のなかにまでガスが入りこんでいる。このままほうっておくと、大腸に穴が開いて、さらにひどい状態になるという。まずはごはんをやめて点滴で栄養をとりながら、抗生物質で炎症をおさえること。それから、ばい菌に対する薬を投与していくことになる。なぜか母はおなかをさわっても痛がらない。腸炎があることにもまだ気づいていない。母はいま79歳だ。高齢で体力がないぶん、時間をかけてじっくり治療をしたほうがのぞましい。となると、母のモチベーションをたもちながら、いまの状況に向きあっていかなければならない。さっそく兄に電話をした。つながって、ほっとする。ちょうどいま羽田に着いてメッセージをきいたばかりだよ、と、あわてていた。
「おれ、このまま、滋賀医科大学に行くわ」
「あしたのお昼ごろに合流するね」
「からだ、ムリするなよ」
ひさしぶりに家族であつまるのはうれしいが、こんなかたちで会うことになるとは。でも、母の腸炎に兄とわたしを気づかせてくれた、見えざるちからには感謝してもしきれない。1日でも早く、母の笑顔が見られますように。