8月14日、母も赤ちゃん。(妊娠20週0日)

 8時ちょうどの、のぞみにのって、京都に向かった。母が入院している滋賀医科大学に行くためだ。兄はきのうから、滋賀にもどってきている。病院の最寄りの駅で、兄夫妻と合流した。母は、自分が入院してしまったことで、ひどく落ちこんでいるそうだ。こんなはずじゃなかったのに、と。きのうから点滴だけで、一食も口にしていないので、いらいらしているのもあるだろう。本調子にもどるには、しばらく時間がかかる。しっかり、じっくり、治さないと。
「こんにちはー」
わざとらしいヘン顔で登場した。ベッドで母が笑ってくれた。思ったより顔色もよさそうだ。よかった。腕には点滴をしているけれど、それ以外は、いつもとほとんどかわらないようだ。ちょっぴり、顔がむくんでいるくらいかな。
「からだの調子はどう」
先に母から、きかれてしまった。
「ちゃんと、たべてるよ。最近は体重がふえすぎて、こまってるよー」
「おなか、小さいじゃないの。見せてごらんよ」
「ちゃんと、出てるでしょー。ほら、ね」
はいていたパンツを下ろして、マタニティショーツ姿になったところで、医師があらわれた。タイミングがわるすぎる。パンツをもどして、話をきく。
「えー、点滴と抗生物質で、容態も落ちついてきました」
「ありがとうございます」
「腸のまわりの細胞が、治ろう、治ろう、と、はたらきはじめています。このまま、様子をみていきましょう」
「先生、いつになったら、ごはんがたべられますか」
せっかちな母のくいしんぼうな質問に、医師はおだやかに答えてくれた。
「まずは、腸の炎症をおさえます。炎症がおさまったら、つぎに、炎症の原因になるばい菌をやっつけます。ごはんがたべられるようになるのは、その先になります。しっかり治すためにも、もうちょっと、がまん、がまんです」
こんなふうにいわれると、つい、がまんしてしまいそうだ。先生、話すのがうまいなあ。79歳の母が、赤ちゃんに見えた。ごめん、ごめん。