8月22日、神戸利休。(妊娠21週1日)

 髪を切りに行った。前回もお世話になったあの美容師さんだ。ホテルに併設されている店に向かうと、受付の前に立って、にこにこ出迎えてくれた。
「こんにちは、元気そうですね」
「どうも、どうも」
先輩パパの美容師さんに、きょうは、どんなことをきこうかなあ。と思っていたら、先に話題をふってくれた。今回のテーマは「名づけ」についてだ。
「もう、名前とか考えているんですか」
「仮につけた名前をよんでいるうちに、愛着がわいてきちゃって」
「なんていう名前ですか」
「そうすけ」
「そうすけくん、かあ。えっ、男の子って、わかったんだー」
「そうなんですよ」
「ウチは、男も女も準備していましたよー」
「ダブルスタンバイしたんですか」
「半年前から、考えたんです。途中でザセツしそうになりましたもん」
ザセツしちゃったら、たいへんだ。しそうになったところで済んだから、ほんとうによかった。赤ちゃんの名前をつけるにあたって、美容師さんは、自分なりのルールを決めたんだそうだ。1つめは、なんどもよびたくなる名前。よぶほどに愛着がわいてくる名前であってほしい。子どものころにも、おじいちゃんやおばあちゃんになったころにも、よびごこちのいい名前であってほしい。2つめは、日本でも、海外でも、みんながよびやすい名前。世界のどこにいてもみんなに愛される、活躍できる子に育ってほしい。そうだよなあ。3つめは、漢字ひとつひとつに親からのメッセージをこめた名前。日本語の名前は、表記にも意味があるのだから、一字一字を大切にしてあげたい。うーん、納得。美容師さんがザセツしそうになったのがよくわかる。こんなにたくさんのールがあれば、たしかにたいへんでしょう。最初のころには画数も気にしていたんだそうだ。
「で、本屋にいたときに、パッとひらめいたんです」
「名前辞典を見て」
「いや、アイドルの写真集です」
「だいすきなアイドルだったんですか」
「けっこうすき、ですねえ」
たしかに、アイドルの名前は縁起がよさそうだ。なんどもよびたくなるにちがいない。海外でも人気が出そうな名前。そのへんもきっと、意識しているにちがいない。けっきょく漢字は一字一字見なおして、ちがう表記にしたそうだ。
「神戸さんの息子さんの名前、ひらめいちゃいましたよ」
「えーっ、ききたい、ききたい」
「神戸利休、とか」
「かんべりきゅう」
「神戸という字には、和の文化を感じるんですよね」
「おもしろい。ほかにもありますかー」
「神戸正宗、とか。いや、政の字のほうがいいかな」
「かんべまさむね、歴史の教科書にのっちゃいそうな名前ですね」
「そうそう、出てきそう」
神戸利休、か。利休くんには、どんな人生が待っているだろう。名前を考えているとワクワクする。子どもの未来に思いをはせる、前向きな時間だ。