8月27日、親はたのしい。(妊娠21週6日)

 お得意先で打合せをしたあと、アートディレクターのTさんとランチをたべながら話した。彼は12歳になる息子さんのパパだ。こんなふうにゆっくり話すのはひさしぶりだなあ。開口いちばんに、Tさんから質問がきた。
「男の子、女の子、どっちだったの」
「どっちに見えますか」
「男の子、かなあ」
「あたり」
「ふふふ、男の子かあ。そうか、そうか。おめでとう」
Tさんは、たのしそうだ。息子さんが生まれた日のことを、思いだしているのだろうか。12歳の息子をもつ親の実感は、いまのわたしには想像できない。よちよち近くを歩いているだけでも、イメージがわかないくらいだ。12年ものあいだ成長を見まもりつづけてきたTさんは、いま、どんな心境だろう。
「12歳はね、ちょっと距離を感じるかなあ」
「いっしょにお風呂入ったり、とか、しないんですか」
「ない、ない」
「そこでぶらぶらしてないで、早く服着なさい、とか」
「ないない。風呂からあがったときには、もう着がえているよ」
「裸族は、いまどきないか」
うちの実家は、父をはじめ、みんな裸族だったなあ。わたしも、あけっぴろげな性格だ。下は下着をはいて、上はTシャツという格好でよく過ごしている。ズボンが足にまとわりつくのがいやで、はいていても、ついついぬいでしまう。
「まぁ12歳だからね。お年ごろ、なんだろうね」
「親ばなれされた気分、ですかねえ」
「ちっちゃいころが、なつかしいよ」
「たった12年なのに」
「そうだよ。急に、わあっと成長しちゃうんだよ」
「見のがさないようにしないと」
「すっごくかわいい時期があるから、大切にしたほうがいいよ」
「いつですか」
「1歳から2歳の歩きはじめたころでしょ、3歳から4歳くらいの動きまわるころでしょ、小学校に入る直前も。入ったあとも、すごくいい」
それって、ぜんぶっていうことですよね、Tさん。親は、たのしそうだ。