Diary

にんしん日記

44歳で妊娠、45歳で出産した神戸 海知代の妊娠・出産・子育てせきらら体験記。
妊娠を知った2014年6月6日からまる1年、1日も休まずつづった記録です。

3月8日、だっこしてだっこ。(生後74日)

 きょうは、さむくて風もある。おさんぽ日和ではないが、午後、そうすけをベビーカーにのせて出かけることにした。行き先は、歩いて15分くらいのところにあるベビー用品の専門店。来週の木曜、復職前面談のために会社へ行くことが決まったが、ベビーカーだと電車の乗り継ぎが不安なので、だっこひもにすることにしたのだ。おなじ買うなら、そうすけにも試着してもらって、だんなにも、わたしにも、つかいやすいだっこひもを購入しよう、というわけだ。

 前回のおさんぽで、あんなにはしゃいでいたそうすけも、きょうはさむさのせいか目を閉じたままじっとしている。ベビーカーを押して、足早に移動した。週末は、車や人の動きにとくに気をつけなければ。店に入ると、むわっと人の熱気がきた。そうすけも起きた。さっそく、だっこひも売り場へ。口コミナンバーワンのメーカーが出している、対面だき、腰だき、おんぶ、前向きだき、360度全方位で赤ちゃんをだっこできるという、だっこひもを試着してみた。店員さんに説明してもらいながら試着した。まだ首がすわっていないのでインサートも必要ですね、とうながされ、インサートにそうすけをのせてくるんだ。やわらかいのにしっかりしている。対面だきにトライする。太くて長い腰ベルトを、面ファスナーでぴったりとめて、安全ベルトでカチッと固定する。腰痛ベルトをつけている感覚だ。インサートごとそうすけをだきかかえて、だっこひものなかにストンと入れる。そのままそうすけを支えながら、肩ひもに腕をとおして、首の後ろにある胸バックルのストラップをとめる。これで装着完了だ。店内をぶらぶら歩いてみる。このままどこまでも歩けそうだ。

 だっこひものなかのそうすけは、ごきげん、ごきげん。店員のおねえさんに満面の笑みで、よろこびを伝えようとしている。この笑顔を見てしまったからにはおねえさんも大絶賛、ほかのだっこひもを試着することもなく、そのまま買うことに決めた。これでいいのだ。色は、これからむかえる夏も暑くるしくならないように、とグリーンを選んだ。だっこひもで帰りたいくらいだったが、授乳室でおっぱいをあげて、おむつもかえて、バタバタと店を出た。

3月7日、お気に入りの椅子。(生後73日)

 また、背中スイッチが起動した。そうすけを寝かせたとたん、顔いっぱいに口を開けて泣いている。ああ、ふりだしにもどっちゃった。気合いを入れなおしてだっこする。このごろ、こんな状況をくりかえしてばかりいる。ぐずったときにだっこして、あやして寝かせると、すぐにまたぐずりだしてしまうのだ。寝かせるよりもすわらせてあげたほうがごきげんみたいだ、と、だんながいう。首がすわりつつあるのをそうすけも実感していて、よろこんでいるんじゃないかと。なにをひらめいたのか、だんなが新しいグッズをとりよせた。宅配便の大きなダンボール箱が届いた。出てきたのは、やわらかいポリウレタンでできたベビー用の椅子だ。あざやかな黄色がかわいい。椅子にはちょうど股のあたりにもポリウレタンでできたでっぱりがあって、すわると腰をすっぽりとつつんで固定してくれる。うーん、よくできているなあ。これなら、ここちいい。

 さっそく、ぐずっているそうすけを、すわらせてみる。あれあれ、たちまちぐずりがおさまった。ニコニコだ。まだ首が完全にはすわっていないので、すこしのけぞっている。えらそうだ。ちっちゃな王さまにも見える。アタッチメントのテーブルをつけてみると、どうだろう。ごきげん、ごきげん。いまは必要ないけれど離乳食をたべるようになったら、大活躍しそうだ。いっしょにごはんをたべるところを想像するだけで、ワクワクしてくる。いまはそのテーブルの上に、ガラガラやお気に入りのおもちゃを置いてみよう。しばらく様子を見ていたが、残念、おもちゃを手にとることはなかった。というよりも、できなかった。首がすわっているわけではないので、どうしても重心が後ろにズレてのけぞってしまうのだ。がんばって手をのばしても、おもちゃにはとどかない。そうすけが、また泣いた。この椅子を活用するには、ちょっと早すぎるかも。

 とはいえ、この椅子が活躍する日まではあっという間だろう。すでに、足を入れるところによゆうがなくなるほど、太ももがぷっくら、からだもどんどん大きくなっている。いま着ている肌着もぴちぴちで、そうすけが足をいきおいよく動かすとボタンがはじけてはずれることも。腕も気がつけば、7分袖みたいに見えるではないか。その成長のスピードに目をみはるばかりだ。

3月6日、ほしがる本能。(生後72日)

 おっぱいをあげながら、ぼんやり考える。いまは、昼2時間おき、夜3時間おきのペースでのんでいるけれど、4月の入園に向けて、授乳回数を調整したほうがいいのだろうか。保育園に入ると、昼も夜も3時間おきにあたえると書いてある。先生にきいてみたところ、だいじょうぶですよ、個人差があるのでそこは様子をみながらやっていきます、といわれてひと安心した。冷凍母乳をもってきてもいいそうだ。とはいえ、1回あたり140ccから180ccのミルクをのむ時期に、1日ぶんの冷凍母乳を準備するのはムリだろう。実際にやればできるもんなのかな。わたしには、提供しつづけられる自信がない。保育園はミルク、家に帰ったらおっぱいにチェンジしようか。そうすると、そうすけがおっぱいをのまなくなったりするのだろうか。さびしい。それはいやだな。

 母乳には、催乳感覚(さいにゅうかんかく)といわれるものがあって、2時間から3時間ごとに新鮮な母乳がわきでるしくみになっている。赤ちゃんはこの催乳感覚を察知していて、新鮮な母乳がわきでる2時間から3時間ごとに母乳をほしがる本能があるという。いのちのしくみは、すばらしい。もちろんこれは、赤ちゃんの体内時計がしっかりしているときのことで、生活のリズムが乱れるとたちまちその能力が発揮できなくなる。おっぱいをあげるときに、時間を決めてあげるのがいいか、泣いたときにあげるのがいいか、どっちがいいのか、と議論になることがあるけれど、催乳感覚を察知する赤ちゃんの本能からいえば、どちらも正しいことになる。だんなは泣いたらあげる派、わたしはタイミング派だが、夫婦げんかにならずにすんでよかった。

 ぼんやり考えながら、おっぱいをのんでいるそうすけを見ていたら、ふと目があった。こころのなかを見透かされたようでドキッとする。ごめん、ごめん。いまはおっぱいに集中しよう。そうすけがしきりに、髪をかきあげるしぐさをしている。かきあげるほどの髪の毛がないのに。しばらく見ているうちに、やっと理由がわかった。このしぐさ、わたしとおんなじだ。いま、まさに前に垂れてくる髪をかきあげていた。するどい観察力をもっているのだ。

3月5日、復職へ向けて。(生後71日)

 保育園も無事に決まり、いよいよ復職へ向けて準備をはじめる。4月中に入園すること。原則として入園日が復職日となること。区が定めたこれらのルールをふまえ、保育園とも相談して4月30日をその日に決めた。月齢が小さいので1日でも成長してからのほうがいいだろう、とタイミングを話しあった。復職日を決めたら、その2か月前から1か月前までのあいだに上長と面談をして、配属や勤務形態などを確認する。まずは面談の日時を決めるため、上長にメールを送った。メールのかしこまった文章と、それを書いているわたしのゆるゆるの恰好に、ギャップがありすぎてつい苦笑してしまう。出産前からのび放題の髪をたばねて、ブラトップ1枚だ。よくいえばアスリート、ありのままにいえば原始人。そうすけからのオーダーがあればいつでもおっぱいを差しだせるように、常にスタンバイしている。退院して家にもどってからは、ほぼ毎日こんな姿ですごしてきた。それが180度かわることになるのだろう。そうすけは、つきあってくれるかな。不安はつきないけれど、はたらくママみんながのりこえてきた道だ。ふたりめの子どもを出産した先輩ママが教えてくれた。
「あずけてよかったって思える日が、きっとくるよ」

 子育てをしながら仕事をするのは、人生ではじめての体験だ。いままでによく似た経験はなかっただろうか、と、あたまのなかを探してみる。部活動にはげみながら、受験勉強をがんばる。どっちもいつも気が抜けないところは似ているかも。恋愛に夢中になりながらも、翌朝提案の企画に集中する。どっちも大事に育みたい気もちは、似ているかも。が、なにに置きかえても正直なところ実感がわかない。半年後のわたしは、ちゃんと両立できているのだろうか。

 上長から返事がきた。面談ですが、来週の午前中でいかがですか。都合のよい曜日を教えてください。と書かれてあった。たしかに復職が目の前に迫ってきたのを感じる。週間天気予報をたしかめて、天気がよさそうな12日と10日を希望した。そうすけといっしょに行こう。子どもを連れていってもいいですか、とたずねたら、上長がそうすけのぶんの入館証を手配してくれた。こんな機会はほかにないのでいまからドキドキ、たのしみになってきた。

3月4日、おさんぽ日和。(生後70日)

 ぽかぽか、陽ざしがここちいい。東京の最高気温は18度、4月上旬並みのあたたかさだという。4月上旬といえば、桜が満開をむかえるころ。桃の節句の翌日だとは、とても思えない。しかし残念ながら、この陽気は週末までつづかないらしい。いまこそ、おさんぽのチャンスだ。14時、くまさんのアップリケがついたロンパースに着がえて、ベビーカーで出発した。そうすけの席から景色がよく見えるように、あたまの上にかぶっているシートをずらしてみた。

 きょうのそうすけは、開放的だ。両手をひろげて、空にかざしている。うす目を開けて、それを見ている。ベビーカーにも、なれてきたのかな。目黒川のほとりを、カタカタ軽快な音を立てながら進んでいく。前から、小犬を連れたおねえさんが歩いてきた。ミニスカートにブーツが、かろやかだ。おねえさんがにっこりほほ笑みながら、そうすけを見る。ぱっちりと、そうすけの目が見開いた。からだのどこかに美人センサーでもついているのだろうか。

 ベビー用品の専門店に立ち寄って、たんぽぽコーヒーとベビーマッサージの本を買った。レジのおばさんが、ベビーカーのそうすけに声をかけた。
「いっぱいマッサージしてもらってね」
「うん、ありがとう」
そうすけを代弁して母親のわたしがこたえると、レジのおばさんがびっくりしていた。授乳室でおっぱいをあげて、そばに置いてあるベビー体重計でそうすけの体重を測った。5.64キログラム。大きくなったなあ。ぼーっと見ていると、そうすけが体重計の上で泣いていた。あわてて抱きかかえた。

 あとは、銀行と、薬局と、パン屋さんに寄っていこう。銀行のATMに近づいたら、そうすけの反応が、かわった。目をまんまるにして、あたりを見まわしている。アトラクションを体験しているみたいだ。たしかに、銀行は非日常な空間かもしれない。薬局は店内が明るく、商品があふれているので、まぶしそうにしている。店員のおにいさんが、店がせまくてごめんねと、そうすけにしきりにあやまっている。むすっとしているそうすけが、ちっちゃな社長さんのようだ。パン屋さんでは、まだたべものを口にできないからか、まったく興味がなさそうな顔をしている。が、レジのおねえさんと向かいあったとたん、じいっと、熱視線を送っているのであった。おそるべし0歳児だ。

3月3日、2枚の写真。(生後69日)

 ひさしぶりにSNSにコメントを書いた。前回書いたのが出産した翌日だったから、2か月以上が経っている。仕事であるお得意先のSNSを手がけていて、すくなくとも1日に1回はチェックしている。数分あれば投稿できるのはわかっているけれど、自分のことになると後まわしになってしまっていた。それでも、気にかけてメッセージをくれる友人がいてうれしかった。お礼の返事を書くつもりで、また、そうすけの元気な日常を見てもらうつもりで書いた。

ちびすけが生まれて、あっという間に3月です。
出産から今日まで珍道中の毎日ですが
なんとかここまできたのは
みなさまのはげましのメッセージのおかげです。
ありがとうございます。
ちびすけといっしょに宝物にしますね。
小さいちびすけの写真は
12月31日、はじめておうちで沐浴をしたとき。
大きいちびすけの写真は
2月26日、朝風呂をたのしんでいるところです。
いつも見ているとわかりにくいけれど
すこしずつ、たしかに
成長しているんだなあ、と実感します。

先日、品川区から保育園の内定をもらいました。
4月末から、復帰します。

 そうすけの写真に、たくさんのメッセージが寄せられた。しっかりした赤ちゃんになってきたね。男の子らしい凛々しい顔になってきたね。すくすく成長してうれしいね。みんながそうすけの成長を目を細めて見まもっている。そんな様子がそばにいるように思いうかぶ。そうすけが大きくなったら、みんなからとどいたメッセージをひとつひとつ読んでもらおう。どんな感想を抱くのか、いまからたのしみだ。2枚の自分の写真を見ながら、おどろくにちがいない。

3月2日、メリーに首ったけ。(生後68日)

 メリーが、大活躍している。メリー、といっても人の名前ではない。オルゴールがついたおもちゃのことだ。ベビーベッドにとりつけてつかっているものだ。3週間前くらいにつかいはじめたばかりのころはには興味を示さなかったが、音楽にあわせてくるくるまわるマスコットや鏡を、じっと見つめるようになった。おもちゃの動きにあわせて、首をまわして見つめるようにもなった。あおむけに寝かせていると、手足をばたばたさせてよく動く。その動きがダンスをしているようにも見える。もしかして、いっしょに踊っているのかな。だとしたら、おそるべき進化だ。その振りつけはどこから生まれてきたんだろう。生まれながらのリズム感とでもいうべきものだろうか。

 こんなふうに反応が見られると、おもしろい。メリーに入っている童謡のメロディーのなかに、大きな栗の木の下で、の歌もあった。よし、よし。これからはこの歌を、おむつがえのテーマ曲にしよう。いままでめんどうだったおむつがえも、そうすけといっしょにうたって踊れるチャンスになれば、たのしみがふえてくる。毎日子育てをしていると、こんな小さなこともモチベーションをあげてくれるから、ふしぎだ。おむつがえをするたびにいつも泣きだしていたのが、メロディーがきこえると息をはずませて、ダンス、ダンス。うたってあげると、おおよろこび。歌にあわせて、ああ、とか、くうう、とか、高い声でハーモニーをきかせてくれる。まるでむかしから知っているかのようだ。

 まだ生まれてからたったの2か月なのに、世の中のしくみにどんどんなれてきている。その適応力の高さにおどろかされっぱなしだ。けがれのないまっすぐな瞳を見ていると、なんの疑いももたずに生きているんだなあ、とつくづく思う。潔さに、胸を打たれる。おっぱいをのむときは、100%おっぱい。うんちをするときは、100%うんち。よけいなことを考えないから、すぐに順応できる。そうすけといっしょに、45歳からの適応力もきたえなおしたい。

3月1日、バージョンアップ。(生後67日)

 きょうから、3月。いよいよ、春がやってくる。まだまだ、おさんぽに興味がないそうすけも、あっという間に出かけたがるようになるだろう。あたたかくなればなるほど、活動の範囲もひろがるにちがいない。バージョンアップしたそうすけが見られる日も、もうすぐだ。たくさん出かけて、たくさん発見をしよう。お父さんも、お母さんも、いまからたのしみにしているよ。

 そうすけの紙おむつも、バージョンアップした。新生児用から、Sサイズにサイズアップしたのだ。Sサイズは、体重4キロから8キロが目安になる。以前測ってから、もう1か月近くが経つ。そろそろ、保健センターに測りに行こう。新しい紙おむつは、入院していたときにつかっていた新生児用のものとはちがうメーカーを選んでみた。産後ケアのときにためしてみて、そうすけの肌にあっていたからだ。つぎの紙おむつはこれにしようと、だんなも決めていたようで、ひと足先にネット通販で注文していた。大きなダンボール箱がふたつ届いたときには、箱の大きさにびっくり。早くつかいたいなあ、とワクワクしていた。とうとう、その日がやってきたのだ。思ったよりも早くきた。

 新生児用のさいごの1枚を、Sサイズにとりかえる。新生児用は見ためもぴちぴち、おへそがまる見えできつそうだ。うんちもぎりぎり、ギャザーの部分にいまにもとびだしそうだった。新しいSサイズにすると、おなかまわりもゆとりがあってラクラク動きやすい。サイズアップしているので、うんちのもれも気にならない。心ゆくまでふんばっても、これならだいじょうぶなのだ。

 そうすけの身体能力もバージョンアップした。そうすけをすわらせているときに、からだを支えていても首を支える必要がなくなってきた。まだ完全に首がすわっているわけではないが、自分の首をもちあげつづけようといつもがんばっている。左右に首がぶれることも少なくなってきた。すごいぞ、そうすけ。がんばれ、そうすけ。その努力がむくわれる日は、もうすぐだ。

2月28日、きょうのおさんぽ。(生後66日)

「おむつと、おしりふきは」
「もった」
「帽子は」
「かぶった」
「じゃあ、出発」
午後、天気がいいのでベビーカーでおさんぽに出かけることにした。きのうは家から保育園までの道のりだったので、きょうはちがうルートを歩いてたしかめてみよう。目黒川沿いの歩道を、カタカタ軽快な音を立てながら、ベビーカーが進んでいく。そうすけは目をつぶっている。川の向こう側を見ると、白衣を着た先生と生徒たちのグループが自然観察をしている。科学部かな。なにかを発見したのだろう、みんなの笑い声がきこえてくる。たのしそう。そうすけもいっしょに観察しているところを、つい想像してしまう。公園で休んでいこうよ、と、だんなが押していたベビーカーをとめた。この公園は小さいけれど、富士山のかたちをした立派な噴水がある。いきおいよくわきでる水の音を、そうすけにきかせてみる。が、目をつぶったままだ。気もちいいからなのか、寒いからなのか、ただ眠いだけなのか、よくわからない。
「そうすけ、興味がないみたいだね」
「まだ、たのしむには早すぎるのかもねー」
「なれるまで、待ってみよう」
大通りに出て、お店の前も歩いてみた。行き交う人のなかにも、ベビーカーでおさんぽしている赤ちゃんがいた。ふたりぶんの席がならんでいる。ふたご用のベビーカーだ。あれっ、赤ちゃんがひとりしかのっていない。どうしたのかな。と思っていると、ベビーカーを押しているふたごのお父さんが、赤ちゃんをもうひとりだっこしていた。お父さんは、まいったなあ、という表情だ。ひとりの子はベビーカーがお気に入りで、もうひとりの子はだっこをしないときげんがわるくなってしまうのだろう。ふたごでも、キャラがちがうんだな。

 けっきょく、そうすけは家に帰るまで目をつぶったままだった。いや、そう見えてきっと、うす目を開けていたにちがいない。いまは、家のなかのほうがすきなのかもしれない。帰りのエレベーターのなかで、にっこり笑っているではないか。部屋にもどったらあそぼうよ、と、うす目が誘っていた。

2月27日、入園内定面接。(生後65日)

 12時半、保育園の面接と健康診断に行った。そうすけは、服とおそろいの帽子をかぶってごきげんだ。春の陽ざしのもと、ベビーカーにカタカタゆられながらまぶしそうに目をつぶっている。まだ、太陽の光になれていないのかな。肌にあたる風が冷たくて、気もちいい。いい天気でよかったね。もっとあたたかくなったら、いっぱいおさんぽしよう。保育園の前には、たくさんのベビーカーがならんでいた。ほら、そうすけの友だちがきているよ。

 受付を済ませて会議室に入ると、お父さんやお母さんといっしょに10人ほどの0歳児がきていた。みんな大きいなあ。0歳児のなかでも、生後2か月のそうすけが、いちばんのちびちゃんだ。月齢がちがうだけで、こんなに印象がちがって見えるとは。見ためより愛嬌で勝負しよう。副園長先生が、パンフレットを確認しながら説明をすすめていく。やさしい声だ。副園長先生の前にいた女の子が、先生のパンフレットをぐいぐい引っぱりはじめる。となりにいる男の子も、目の前にあるおもちゃをかたっぱしからばたばた倒しはじめる。自由な空気を感じてなのか、みんなが思い思いに動きはじめた。そんななか、そうすけはじっと、目をつぶっている。いや、はっきりとは見えないが、うす目を開けているのかもしれない。だんなが笑いながらその様子を見ている。ふと、だんなの若いころを思いだした。似ている。そうすけと、だんなが。大勢のなかにいるときに、そーっと様子をうかがっているようなところがあったなあ。なにを考えているのかが気になって、いつのまにかいつもそばにいた。そうすけにも、そのDNAが受けつがれているのだろうか。おっと、もうすこしで副園長先生の説明をききのがしてしまうところだった。説明がひととおり終わると、個々にわかれて先生と面談をした。提出書類の確認や、保育園にかようときに必要な準備を教えてもらった。面接だと思っていたものは、このことだった。これって入園決定ですよね、と、念のため先生にきくと、もちろんです、と、はずむような声で返事がきた。このあと健康診断と夜間保育の確認をしますね、と案内されて入園が決まったことをあらためて自覚した。健康診断も無事に終わり、夜間保育については、わたしがフレックス勤務のため復帰して落ちついたタイミングでもういちど時間を確認しましょう、ということになった。そうすけは保育園にいるあいだ、いちども泣かなかった。帰ってすぐ、大泣きしていたが。