Diary

にんしん日記

44歳で妊娠、45歳で出産した神戸 海知代の妊娠・出産・子育てせきらら体験記。
妊娠を知った2014年6月6日からまる1年、1日も休まずつづった記録です。

12月18日、いちばん身近な奇跡。(妊娠38週0日)

 正午、コピーライターズクラブの幹事会に出席するため、表参道の事務所へ向かった。11時から大崎広小路にある保育園の見学会があったので、完全に遅刻してしまった。見学会が終わって時計を見ると、11時59分。どこでもドアがあったら間にあうのに。タクシーにのるか一瞬迷ったが、きっと電車のほうが早いだろうと思い、駅をめざして歩いた。ウォーキングにもなって一石二鳥だ。保育園の見学会もきょうでさいごになる。これ以上候補を出しても申請できない、という数まで保育園を見た。あとは、考えて決めるだけだ。

 幹事会が終わって、今年中に確認するものはすべて確認して、すがすがしい気もちになる。みんなにたっぷり、おなかをなでなでしてもらった。おおげさかもしれないが、思いのこすことはない心境だ。なかよしの先輩女子が、もしよかったらおさんぽ&お茶しようよ、と誘ってくれた。18時に新宿で予定を入れているそうなので、新宿までぶらぶら歩くことにした。途中気になる店をのぞいたりしながら、気の向くままに歩いた。2時間ほどかけて新宿まで歩きながら、いろいろなことを話した。先日の衆議院選挙のことや、先輩が買った新しいソファーのことや、大学時代のゼミのことや、仕事やプライベートのこれからのことや。わたしも先輩も、仕事をしながら長いあいだ不妊治療をしていた。そして治療を途中でやめた。いま、わたしは妊娠している。先輩は、夫婦ふたりでの生活をたのしむことに決めた。どちらも体験できるならこんなにすばらしいことはないだろうが、子どもを産める期間はそこまで待ってはくれない。なにかを選んで、なにかをあきらめなければならないこともある。なのに、子どもを産むか産まないかについては自分で選択することができない。もどかしいかぎりだ。

 不妊治療をどこでやめるのか決めるのは、むずかしい。治療をやめたら自然妊娠した、というケースもあるけれど結果論にすぎない。不妊治療と仕事の両立もたいへんだが、パートナーから理解と協力を得るのもひと苦労だ。妊娠を女性ひとりひとりの問題としてとらえているかぎり解決することはできないだろう。妊娠はいちばん身近な奇跡だ。と、いまあらためて思う。

12月17日、見学ラッシュ。(妊娠37週6日)

 10時45分。五反田駅から歩いて5分ほどにある保育園の見学会に参加した。わたしのほかにも、たくさんのお父さんやお母さんがきていた。数えてみると、14組だった。見学ラッシュだ。そのうちの10組は、赤ちゃんを連れてきている。0歳から1歳くらい。わたしとおなじようなプレママの参加者は、意外にすくないようだ。7組ずつの2チームにわかれて、園内を見学することになった。1チームめがよばれて、園長さんに案内されて部屋を出た。わたしは2チームめ。きゅっと結んだポニーテールがチャーミングな先生が案内役をつとめる。この人が副園長さんなのかな。若々しくてかわいらしいけれど、あきらかにわたしよりも年輩のようだ。説明がわかりやすく、スッと耳に入ってくる。

 この保育園は、昭和45年に開園している。このあたりではいちばん古い保育園で、実績もありそうだ。22時までの夜間保育も実施している。たくさんの希望者がやってくるのも納得できる。園庭はひろくないけれど、すぐそばに公園があって、たくさんの子どもたちがあそんでいる。公園の端から端まで元気な声がとびかっている。たのしそうだな。3歳から5歳児の子どもは、みんな外に出てあそんでいるようだ。1階には3歳から5歳児の部屋が、2階には0歳から2歳児の部屋がある。0歳児の部屋は陽あたりのいい場所にある。自然光をたっぷり浴びて、とても気もちよさそうだ。2階から1階へ階段をおりているときに、ちょうどおさんぽからもどってきた子どもたちとすれちがった。

「こんにちは」
子どもたちにあいさつをしながら、ふと、どの子も鼻水をたらしているのが気になった。そういえばあいさつに返事がなかったのは、鼻がつまっていたからかもしれない。鼻水をたらして、ほっぺは真っ赤、でも、目はきらきら。これを元気がいいね、ととるか、鼻水くらいふこうよ、ととるか。ビミョーだ。わたしだったら、ふいてあげたくなるなあ。実際に子育てをしているうちに、かわってくるのかもしれないけれど。こういう感覚のちがいは、のちのち影響しそうな気がしている。逆に、ふきすぎて肌がただれる、これもこまりものだが。

12月16日、きゅんときた日。(妊娠37週5日)

 朝から雨が降っている。冷たい雨。いまにも雪にかわりそうだ。こんな日に子どもを保育園に連れていくのはたいへんだろうなあ。いままでは気にしたことがなかったけれど。見学会にかようようになってから、以前とくらべてすこしずつ見方がかわってきたように思う。たとえば駅に向かう道のりも、どんなルートを選べば人とぶつかりにくいか、段差がすくなくてすむか、排気ガスを吸わずにすむか、ついつい気になってしまう。いつも見なれている近所の風景も、そうすけの目線で見ればまったくちがってくる。

 午前11時、歯のクリーニングに行った。さむくて出かけるのをためらっていたら、電車に乗り遅れてしまった。恵比寿駅で電話する。すみません、いま駅に着いたところです、急いで向かいます、と伝えたところ、いつもの歯科衛生士さんが、急がなくていいですからころばないようにゆっくりきてくださいね、と気づかってくれた。このひと言に、きゅんときた。小さな歩幅でぺたぺた急ぐ。長めのダウンのコートを着ていたので、まるでペンギンみたいだ。歯科医院に入った瞬間、からだがまるごとあたたかい空気につつまれた。

「右の前歯と2本めの歯のあいだが磨けていませんね」
「ああ、そこ、いつものところですね」
「歯ブラシを立てて、横から磨くといいですよ」
「あ、ホントだ、きれいになりますね」
歯みがきは大切だ。歯ブラシをつかって練習しながら、みがけていないところを念入りにチェックする。45年も生きていると、歯にもいろいろ支障がでてくるものだ。わたしは右の前歯と2本めの歯のあいだにむし歯があって、治療をうけたことがある。左の前歯は、寝ているときの歯ぎしりのせいで、よく見ると縦に亀裂が入っている。この先まだまだ、歯とのおつきあいがつづくと考えると、ダメージは最小限におさえておきたいところだ。気をつけておこう。

 クリーニングが終わって帰ろうとしていたら、なんと、歯科医院のみなさんがそろってロビーに見送りにきてくれた。どうか元気な赤ちゃんを産んでくださいね、神戸さんのことだからきっとだいじょうぶですよ。と歯科医の先生にいわれて、またまたきゅんときてしまった。先生は、12月31日の大みそか生まれだそうだ。はい、きっと元気な赤ちゃんを産みますね。

12月15日、数か月のちがい。(妊娠37週4日)

 午前10時。大崎駅から歩いてすぐにある、保育園の見学会に参加した。わたし以外に3人のお母さんが予約を入れていたが、1人がキャンセルをしたので、3人での参加になった。プレママは、わたし1人。あとの2人はそれぞれ、生まれて半年の男の子、4か月の女の子のお母さんだった。
「立派なおなかですねー。予定日はいつですか」
「来年の元旦っていわれています」
「わあ、めでたいですねえ」
「あはは、ありがとうございます」
元旦が予定日だと話すと、リアクションはだいたい2つにわかれる。めでたいですねえ、と、たいへんですねえ。病院ってお正月にも開いているんですよね、と感想とも質問ともつかないコメントをくれる人もいる。わたしもはじめての体験なので、実際のところどういう状況なのかよくわからない。たしか年末年始は12月29日から1月3日が休診日だったときいている。ま、そのときがきたらわかるだろう、と気楽にかまえている。以前入院していた人のブログを読むと、年越しそばやおせち料理も出てくるそうだ。たべてみたい。

 保育園は、とてもあかるくてきれいだった。開園して来春4月に2年めをむかえる認可保育園。子どもたちもたのしそうだ。ちょうど先週末にクリスマス会が終わったばかりで先生はへとへと、子どもたちはテンションが高いタイミングなんですよ、という。3歳の子どもたちの部屋に入ると、みんながいっせいにあいさつした。元気がいいなあ。なかには先生にキックしてくる男の子もいる。先生はわざとよろめくポーズをしながらも説明をつづけている。ていねいなリアクションがいいなあ。家から駅までちょっと歩くのと園庭がないのが気になるけれど、入れてくれるならよろこんでかよいたい。そう即答できてしまうほど、認可保育園に入るのはむずかしい。いまの正直な気もちだ。
「わたしたち、いっしょに入れたら、クラスメイトになれますね」
「ホント、そうですね」
ホント、といいながら実感がわかない。だって、そうすけはまだおなかのなかにいるし。数か月ちがうだけでもこんなにちがうんだ、赤ちゃんって。と見ていてあらためて実感する。4か月後、半年後、どうなっているだろう。

12月14日、プレママ友が出産。(妊娠37週3日)

 先日プレママランチで会ったばかりの、友だちの1人が出産した。びっくりしたなあ。こんなにいきなりその瞬間がやってくるなんて。前日の夜にもやりとりをしていたが、子宮口が3センチひらいたので1週間後くらいかもね、と話していたところだった。そういえば、よわい生理痛のような痛みを感じている、とも話していた。それが20時半ごろ。赤ちゃんが生まれたのが、翌日の7時半ごろ。病院に着いてから、たった2時間のスピード出産だったという。予定日よりもちょうど1週間早い出産になる。2人めだから早くなったのかな。

 どんなカンジだったのか。彼女がいうには、夜からずっとよわい生理痛のようなものがつづいていたそうだ。そして破水した。病院へ向かうタクシーのなかでようやく陣痛がはじまってつよくなったという。そんな順番になることもあるんだなあ。出産はとにかく体力勝負だ、と彼女は断言する。たったの2時間が、とても、とても、長く感じられたそうだ。しっかりごはんをたべて、しっかりからだを動かして、しっかり眠る。あたりまえのことを、きちんとしているかどうかでラクにお産できるかどうかもかわってくる。心しておこうと思う。

 午後、いつもどおりマタニティヨガへ。このところ保育園の見学会や妊娠健診でかよえていない。5日間も休んでしまった。きょうは、じっくりからだを動かそう。スタジオが混んでいる。さむくなってきて、からだをあたためにきている人が多いのかな。たくさん人があつまるのは大歓迎だ。みんなのパワーがスタジオに満ちあふれている。実際に、からだが熱気であたたまりやすく、汗をたくさんかける。このごろは、男性もよく見かけるようになった。女性にくらべて筋肉質だからか、思うようにポーズがとれず苦戦している人も多い。それとは対照的によゆうでポーズを決めている年配の女性もいる。性別にも、年齢にも、とらわれない。いつでも、だれでも、はじめられる。それがヨガの魅力だ。マタニティヨガには、休むポーズがあるので、休んでいるあいだにまわりの人のポーズを見て学ぶことができる。こんな体験ができるのも、そうすけのおかげなんだね。まだまだ新しい学びが待っている。どんな発見ができるかな。

12月13日、見まもりたい。(妊娠37週2日)

「うわー、ごぶさた」
「元気にしてたー?」
「うん、元気元気ー」
「大きくなったねえ」
おなかをなでなでされながら、ごあいさつ。ひさしぶりに友人と会う。おない年だけど、高校生の息子さんがいるたよりになる先輩ママだ。産んだころのことなんて、もうすっかり忘れちゃったよー、と彼女は笑う。いまも息子さんと毎日が学びの連続だそうだ。そのへんをいろいろと、教えてもらおう。

「赤ちゃんって、自らの意志で生まれてくるんだって」
「自らの意志」
「そう。そうすけくんも、きっと、つよい意志をもっているんだよ」
「つよい意志、かあ」
赤ちゃんがおなかのなかから出ようとするとき、子宮がせまくなり、赤ちゃんの首は、ぎゅうっ、と絞めつけられる。そのうえ、へその緒からの酸素供給もなくなるため、まさに窒息している状況だ。子宮は1分間ほど収縮する、といわれている。そのあいだ、赤ちゃんは酸素をとることができない。それが、なんども、なんども、繰りかえされる。この苦しさを耐えしのいだ赤ちゃんだけがこの世に出てくるのだ。これを耐えられなければ、生きることはできない。

 陣痛をおこすホルモンは赤ちゃんから分泌される、といわれている。もっとも自分にふさわしい日を選んでホルモンを分泌するらしい。セルフプロデュースなのだ。いきなりつよい陣痛をおこすのはからだによくない、ということもちゃんと心得ていて、すこしずつホルモンを分泌していく。予定日をすぎるのにはいろいろな理由があるけれど、赤ちゃんがいまの母体や自分の状態では生まれるときになにか障害がありそうだ、と察知して、ホルモンの分泌をよわめるらしい。赤ちゃんはこんなにつよい意志をもって、この世に出てくるんだなあ。

 どんな人だって、生まれたくて生まれてくる。ときには苦しいこともあるだろう。どうして生まれてきたんだ、と思い悩むこともあるだろう。それでものりこえられるちからをもって、人は生まれてきたのだ。だからこそ、いまここにいるんだ。そうあらためて思う。生まれるちからを信じていきたい。

12月12日、おしるし初体験。(妊娠37週1日)

 午前10時、日赤医療センターで妊婦健診をうける。受付のあと採血をしに行ったら人酔いしそうになった。受付番号を見るとわたしまでに30人以上が待っていた。先に産科へ行って血圧と体重をはかり、検尿を提出する。ついでにNSTルームへ顔を出してみると、いますぐノンストレステストをうけられますよ、とのこと。こちらも先にうけてから、採血にもどることにした。

 NSTルームに入ると、前回とおなじリラックスチェアに座って、おなかにふたつのセンサーをつける。赤ちゃんの心拍をとるセンサーと、おなかの張りをたしかめるセンサー。分娩監視装置から、赤ちゃんの心拍とおなかの張りを記録したグラフがするする出てくる。トン、トン、トン、とリズミカルなそうすけの心音がきこえてくる。しばらく、ゆったりくつろごう。グラフを見ていると、ギザギザの線があらわれた。そうすけが動いている。それにあわせて心拍数も上昇している。きょうもいい調子だ。と思っていたら、そうすけの動きが、どんどんはげしくなってきた。折れ線グラフが子どもの落書きのように粗いギザギザになっている。途中で線がとぎれるほどのはげしさだ。心拍の数値が180を超えた。そうすけ、なにをコーフンしているんだ。エラー音が出て、すぐに助産師さんがやってきた。グラフをチェックしたあとに、おなかの張りはだいじょうぶですか、と質問された。これがおなかの張りなんだ。はじめて気づいた。そうすけのはげしい動きに耐えているだけだと思っていた。おなかの張りを自覚していなかったことを伝えると、これが張りですよ、これからはひんぱんに体験しますよ、と助産師さんがグラフのギザギザを指差しながら教えてくれた。

 採血をして、ロビーにもどって、医師の診察をうけた。きょうは女性の先生が担当だ。30代前半かな。アイドル系のかわいらしい顔立ちに、ショートボブがよく似あっている。まずは、経腹エコー検査から。さっそくはじまった。
「ここが、あたまです。ちゃんと下にきていますね」
「おお、よかった」
「ここが、おなか。ここが、足ですね」
「おお、動いていますね」
サイズをはかりながら、テキパキと診察されていく。いまのところとくに問題はなさそうだ。そうすけのからだは、どのくらい大きくなったんだろう。
「2400グラム。標準ですね」
「ちょっと小さめだけど、いいのかな」
2500グラムを超えてほしい、といつも思っていることが、ついつい言葉に出てしまった。先生は、そんなプレママの気もちをよくわかっているようだ。
「サイズや体重はね、気にしなくてもだいじょうぶですよ」
「個人差でいいんですね」
「そう。大切なのは胎児が元気かどうかです」
「きょうのノンストレステストを見ると、活発そうですね」
「ものすごーく元気です」
「あはは、ですよね。ありがとうございます」
医学的には、2200グラムを超えることがひとつの目安だといわれている。

 採血の結果、甲状腺ホルモンの分泌はまだかわらないので、投薬をつづけることになった。つぎの検診は1週間後の12月19日。出産予定日がじわじわ近づいてきているのを実感する。検診のあと家に帰ってから出血が見られたので、念のため病院に電話をして確認した。これは、おしるしとよばれる出血で、内診がきっかけでもよくおこるものらしい。様子をみて出血の色が鮮血のようになったり量がふえてきたりしたらまた連絡をください、とアドバイスをもらった。しばらくしたら落ちついたのでほっとした。おつかれさま、そうすけ。

12月11日、いよいよ正産期。(妊娠37週0日)

 正産期をむかえた。とくにかわったことはない。もう、いつ生まれてきてもだいじょうぶだよ、そうすけ。でも、もうすこしいっしょにすごしていたい。いつものように、マタニティヨガのレッスンに行く準備をはじめた。ヨガのポーズをとっているときにも、ごはんをたべているときにも、ぐっすり眠っているときにも、ずっと、すべてをそうすけと分かちあいながらすごしてきたので、コンビでいるほうが自然になっているのだ。いったん外の世界に飛びだしたら、好奇心の向くままに、どんどんとおくへ行ってしまうんだろうなあ。それはそれでうれしいけれど。まるで、嫁入り前の娘をもつおやじの心境になっている。

 家を出る前、洗面台で髪をといているときだった。右のわき腹、ろっ骨の下あたりに、がつん、と衝撃が走った。あまりに突然のことだったので、その場にうずくまってしまった。ぎゃあ、というよりも、うぐぐっ、とうめきたくなるような深い痛み。そうすけにちがいない。おねがいだから、この角度でキックするのはやめてね。こういうのには、よわいんだから。ずしっ、と重い痛みがつづいている。脂汗まで出てきた。しばらく横になって休むことにしよう。きょうは大事をとってヨガもお休みしよう。どうか、キックがくせになりませんように。しばらくしたら気分も落ちついてきたので、風呂で汗を流すことにした。

 風呂に入っているときにも、またおなじところをけられた。湯船のなかでしばらくじっと耐えていた。反応してよろこばれたら、こわい、こわい。あしたちょうど検診をうけるので、アドバイスしてもらおう。痛みがほんのすこしやわらぐだけでもありがたい。きょうはとにかくリラックスに徹することにした。けられたあたりの肌に蒸気の温熱シートを貼ってみるとぽかぽかして、だんだんラクになってきた。左右シンメトリーに貼ると、さらに気もちよくなってきた。こうして予定日までのりきっていくのだ。そうすけには、ここをキックすると痛くてこまるんだよ、と、なんども話しかけてみた。気分だけでも伝わってくれるとたすかるんだけど。まだまだ保育園の見学会にも出かけたいし、ぎりぎりまでマタニティヨガもつづけたいし。しっかり予定日をむかえられますように。

12月10日、保育園探訪。(妊娠36週6日)

 きょうは、保育園の見学会を3つ入れている。1つあたりに1時間かかるとしても、あいまにゆっくりお茶できるくらいの時間配分。ちょうどいいぐあいに予約がとれてよかった。どんな話がきけるのか、たのしみだ。ネットで事前に調べていても、実際に見ないとわからないことだらけにちがいない。

 1つめの保育園は、昭和49年に開園されたという。歴史と伝統とプライドを感じる。ここを第1志望にしている人も多い。パパとママふたりで見学会にきている家庭も。気合いがちがうなあ。規模が大きくゆとりがあって、園全体におだやかな空気が流れている。子どもたちものびのびと元気そうにあそんでいる。先生の説明がひととおり終わったところで質問タイムへ。パパから熱意のこもった質問がつぎつぎに出てくる。ほかのパパからも。まるでアピールタイムだ。

「急にむかえに行けなくなったときにも、延長してもらえるんですか」
「ケースバイケースですが対応しています」
「延長の手つづきは?」
「なるべく17時ごろまでにご連絡いただけるとたすかります」
「17時までにできなかったらどうするんですか?」
「連絡がきた時点ですぐに先生と相談して対応策を考えます」
ていねいな受け答えを目のあたりにして、この保育園を第1志望にしている人が多いのにも納得した。もともと第1志望ではなかったが、ぐらついてくる。

 2つめの保育園は、小規模保育事業とよばれている保育園。生後57日以上の0歳児から満3歳未満の子どもまでが対象となる。入った瞬間、暗いなあと思っていたら、おひるねタイムだった。部屋があたたかくて静かでここちいい。ゆったり見まもられている安心感がある。先ほどの保育園とはまったく印象がちがっておどろいた。1人の保育士が3人の子どもを徹底して保育する、家庭的で愛情深い保育が特長だという。基本保育料は月額2万円。給食がないため自分で準備しなければならないのと、延長時間が19時までなのが、わたしにとっては課題だ。

 3つめの保育園は、昭和51に開園。ここも実績のある保育園だ。元気にあそぶ子、をパンフレットの1ページめに掲げていることもあって、とにかく子どもたちが活発だ。見学会にきているパパやママにがんがん話しかけてくる。
「こんにちはー」
「はじめまして」
「きょうは、なにしにきてるのー」
「保育園のね、見学会だよ」
「ふーん、入るんだ」
「入れたら、うれしいなあ」
近くにシルバーセンターやふれあいデイホームがあって、そこのおじいさんやおばあさんとの交流もしているそうだ。だから、おとなと話すのにもなれているのかもしれない。駅から歩くが、園庭がひろくて環境もよさそうだ。

 今週から来週にかけて、あと4つの保育園に予約を入れている。きょう見た3つの保育園だけでもこんなに印象がちがっていたとは。調べればたくさんの口コミがあふれているけれど、まずは先入観をもたずに行って、直接話をきいてみようと思う。そうすけにも感想をきいてみたいんだけどなあ、ほんとうに。

12月9日、ママはしあわせ。(妊娠36週5日)

 12時半、恵比寿駅近くのレストランで待ちあわせる。前の会社でお世話になったボス夫妻と同期のコピーライターと4人でランチだ。うまいもんにくわしいボス夫妻が選んだ、肉がおいしいと評判の店にせいぞろいした。同期のコもわたしもワクワクしっぱなしだ。同期のコピーライターは1つ年下の女性なので、40代だが同期の“コ”とよぶことにしよう。彼女はいま12歳の息子さんがいる立派な先輩ママ、ボス夫妻には子どもはいないが、いつも世話しているおなじ12歳の姪っ子さんがいる。話題はやっぱり子育てのネタになる。

「中学受験、どうするの」
「本人とも話したんだけどまったく興味がないのでやめました」
「そうかー。姪っ子はうけるよ」
「やっぱ、そうですよね」
「えっ、中学受験ってあたりまえなの」
「都内はけっこう多いよ」
「いじめとかこわいし。いい環境で学ばせたいからねー」
「多感な時期だし」
たしかに、おなじ目的をもつ学生があつまったほうが人間関係などのトラブルはすくなそうだ。といっても、まだ12歳。そんなに若いうちにカテゴライズしてしまっていいのかな。選択肢をひろげるために受験するんだ、とボスの奥さんはいう。やりたいことをやるための受験。同期のコもそのつもりで息子さんを塾にかよわせていた。中学受験をやめると決めるまでにも、息子さんとのあいだでいろいろな葛藤があったんだそうだ。
「息子さん、なにがやりたいの」
「ゲーム。いま城をつくるゲームに夢中になっているんですよねー」
「親に似て、クリエイター志向なんだね」
「建築とかデザインとかもいいなあ」
「たのしくなってくるよね」
「いっしょに城を見に行ったりしてるの?」
「このまえ、だんなといっしょに皇居に行ったんですー」
「おおっ、江戸城行ったんだー」
休日に皇居をおさんぽする家族、か。すごくしあわせそう。親になるのはたいへんだ、というけれど。息子さんのことを話している顔は笑っている。