Diary

にんしん日記

44歳で妊娠、45歳で出産した神戸 海知代の妊娠・出産・子育てせきらら体験記。
妊娠を知った2014年6月6日からまる1年、1日も休まずつづった記録です。

11月28日、産休前さいごの日。(妊娠35週1日)

 産休前さいごの1日。朝の通勤ラッシュとのたたかいも、きょうまでだ。と思えばちょっぴりさびしくもなる。それにしても、今朝はいちだんと混んでいる。いよいよ師走がはじまるからかな。銀座線をわざと1本のりすごして、つぎにやってきた電車にのった。が、おなかをまもるのが精いっぱい。だいじょうぶですかと近くにいた女性が防波堤になってくれた。ありがとうございます。ひと駅だからがまんできたが、これでしばらくじっとしているのはたいへんだ。

 仕事場についたら、まずメールをチェックした。きょうの19時までにパソコンを会社へ返却しなければならない。午後に日赤医療センターの検診が入っているので、それまでにできることはなるべく済ませたい。週明け12月1日から掲載するWEB原稿の返事がまだきていない。ぎりぎりまでやりとりすることになりそうな予感。できることからかたづけよう。休暇中にチームで共有しておきたい資料をつぎつぎにメールに添付して送って、就業管理システムに入力をする。この就業管理が手間がかかってとてもニガテだ。が、いまはそんなことをいっている場合ではない。集中してやると、意外に早く終わった。いつもこのくらい集中できればいいのになあ。デスクトップにまだあるデータをCD‐Rに保存して、お世話になったみなさんにごあいさつを送ってしめくくるつもりだったが、CD‐Rがないのでごあいさつを先に書く。思ったより時間がかかってしまって、ここで検診に出かける。そうすけはどこまで大きく成長したのかな。

 日赤医療センターに着いて受付を済ませると、まずは採血へ。課題になっていた、甲状腺ホルモンのバランスは改善されただろうか。採血が終わると血圧と体重をはかり、検尿を提出して、医師の診察を待つ。きょうは、どのくらい待つだろう。心づもりはしているが、なるべく早めに終わって仕事場にもどりたい。と思っていたら気もちがつうじたのか、すぐ診察室によばれた。
「こんにちは」
「神戸海知代さん、ですね」
きょうは、若い男性の医師が担当だ。30代前半だろうか。独身かな。どんなきっかけで産婦人科医をめざしたのかききたくなるくらい若く見える。いのちが生まれる瞬間をまもりたい、とか、あつく語ってくれるかな。妄想がひろがる。診察に集中しなければ。まずは経腹エコー検査から。ベッドに横になる。
「ここが、あたま」
「おっ、でっかくなりましたね」
「ここが、ろっ骨」
「きれいに、ならんでいますね」
ひとつひとつがうれしくて、いちいち合いの手を入れてしまう。大きくなったなあ。先生がサイズを測っているあいだ、じいっと見とれてしまった。
「ここが顔なんですけど。手でかくしているのかな」
「シャイですねえ」
「ポーズを決めているみたいですねえ」
あごに手をあてて、ハードボイルドを気どっているのだろうか。と、そうすけがゆっくり動きだした。先生はサイズを測っているが測りにくそうだ。
「よし。順調です」
「ありがとうございます」
血圧、尿タンパク、むくみ、異常なし。羊水の量も、異常なし。内診で産道の状態を確認、こちらも異常なし。採血の結果、甲状腺ホルモンはまだ改善の余地があるということで、つぎの検診まで投薬をつづけることになった。

 仕事場にもどったタイミングで、ちょうど原稿の返事がきた。やりとりしながらあいまをぬって、CD‐Rにすべてのデータを保存。19時をちょっぴりすぎてしまったが、なんとかパソコンを返却できた。おつかれさま。来週からいよいよ産休がはじまる。帰り道、駅まで歩きながら母と電話で会話した。

11月27日、ふと思いたって。(妊娠35週0日)

 仕事帰りにふと思いたって、まつ毛カールへ。前回の施術から2か月近く経っている。まつげにもバラつきがめだってきた。目ぢからをアップしてしっかりととのえて、産休前のさいごの1日をすがすがしくむかえよう。と冷静に考えられたらいいけれど。いまにもスキップしてしまいそうなくらい、気もちがワクワクしている。いまの仕事場で18年間はたらいてきたが、長期休暇をとるのは今回がはじめてだ。新婚旅行も行きそびれていたんだよね、ホント。この体験は、神さまがくれたチャンスだとつくづく思う。そうすけといっしょに、ちからをしっかりたくわえよう。ありのままの世界を、ぱっちり目を開いて見つめるのだ。

「先ほどお電話した神戸です」
「わぁ、立派なおなかになりましたねえ」
「あはは、ありがとうございます」
「ご気分がわるくなったら、すぐにお知らせくださいね」
「だいじょうぶです、ありがとう」
だいじょうぶ、ありがとう。そうすけには、ほんとうに感謝している。いままでに、いちどもつらいめに会ったことがない。きょうもまつ毛カールをたのしませてもらっている。パーマ液のにおいで気もちわるくなることもない。高齢出産を気づかってくれているのかなあ。と、あらためて思う。もし、そうすけがおなかのなかにいたころのことを教えてくれるなら、ひとつのこらず話をきいてあげたい。早く会いたい。でも、ずっといっしょにこうしていたいとも思う。

「予定日はいつですか」
「来年の元旦だっていわれています」
「いそがしそう」
「思いきりおさわがせしそうなカンジですよね」
「わたしの友人も4月に出産予定なんですよ。4月1日のエイプリルフール」
「えっ、4月1日が予定日ですか」
「1日ちがうだけで学年がかわっちゃうから、どうしようって」
「きっと、男の子なら4月生まれ、女の子なら早生まれ希望でしょう」
「そう、そう、そう」
「男の子ならからだが大きくてたよりがいのあるほうがいい。女の子なら1日でも若くてかわいらしいほうがいい。でも、ぜんぶおとなの理屈ですよね」

11月26日、産前休暇前面談。(妊娠34週6日)

 いよいよ産休まであと3日。午後2時から上長との面談がある。年明けに組織改編があるため、人事局の人にも立ち会ってもらう。こういうのはなにかと緊張する。どうせなら、たのしい打合せにしたいものだ。そこで、仕事で手がけた制作物を見てもらってコメントをもらうことにした。これなら、おしゃべりもはずむだろう。はずまなかったら、さびしいな。はずまなかったら、それは、そのとき考えるとしよう。動画やウェブがすぐに見られるようにパソコンをスタンバイして、グラフィックは色校正や出力を用意した。準備にワクワクする。びっくり箱をしかけている気分だ。つくったものを見てもらうのは、たのしい。やっぱりこの仕事がすきだなあ、わたし。おもしろがってくれると、うれしいなあ。

 人事の担当者が先にやってきた。長ぐつをはいている。オフィスの照明を浴びてつやつや光る長ぐつが、とても新鮮だ。ブーツじゃなくて、ブーツっぽい長ぐつなのだ。きょうは朝から雨が降っていたので、迷わず長ぐつをはこうと決めたそうだ。彼女のまじめな人柄が、かいま見える。仕事場に着いてからムレやすいことに気づいて、ずっと後悔をしているのだと教えてくれた。でも、つやつやの長ぐつがすごくチャーミング。かわいい長ぐつですね、とほめると、ムレの不満も消えてしまったようだ。人のこころは、うつろいやすい。

 数分後、上司がやってきて、さっそく面談がはじまった。人事がつくった確認シートを見ながら、やりとりをすすめていく。出産予定日はいつか。来年の1月1日。産前産後休暇の取得は、どうしたいか。来春から保育園に入れるかどうかでかわってくるが、なるべくすみやかに復帰したい。職場復帰の意思はあるか。あります。復帰を希望する場合、どのようにはたらきたいか。いまのペースで仕事をつづけたい。育児休業の取得はどう考えているか。保育園が決まるまではとりたい。復職後のはたらき方のプランはどうか。そうすけが保育園に慣れてきたところでフルタイムにしたい。ひとつひとつ確認する。万が一にそなえての緊急連絡先を共有する。これでよし。制作物のお披露目タイムだ。

 面談が無事に終わって、すがすがしい気分。制作物へのリアクションも目のあたりにできて、よかった、よかった。人材育成プログラムもちょうどきのうで終わったところで、あとは仕事場を片づけるだけだ。あしたは家に送る宅急便やトランクルームの手配で、あっという間に1日がすぎるだろう。たっぷりあるはずの時間に、なぜかバタバタと追われている。

11月25日、右手の中指が。(妊娠34週5日)

 出血した。それも、大出血だ。指先にぽつりと、赤いおできのようなものができていたので引っぱったらこうなった。痛みもなかったので、しばらく気づかなかったのだが、ぽたぽたしたたる血を見ておどろいた。ばんそうこうをきつめに貼っても、血はなかなかとまらない。仕事場へ向かう電車のなかでも、吊り革をもつポーズで指を上げたままキープした。それでもとまらない。ばんそうこうが真っ赤に染まっているのを見て、ぞっとした。このままとまらなかったら、どうしよう。仕事場に着いたら、とにかく健康管理室に急ごう。と、こんなときにかぎって、トラブルはつきものだ。田町駅で停車信号が押されているとかで、しばらく待つことになった。混雑もあって電車は13分遅れて新橋駅に到着した。地下鉄へのりかえようと急ぐが、こちらもたいへんな渋滞がつづいている。雨の日はいつもこうなる。もう自然にまかせるしかない。いまにも血がしたたりおちそうな指先を気にしながら、急いで仕事場に向かった。

「わっ、どうしたの」
「包丁で切った?」
「おできをつぶしたら血がとまらなくて」
健康管理室で、さっそく手当てをしてもらう。指先を消毒して、ガーゼで吹きだす血をふきとる。まだとまらない。いちど冷たい水で指を洗いましょう、といわれて、手についている血をていねいに洗い流した。ちょっと気もちがおだやかになった。傷口をおさえてしばらく様子をみてから、ばんそうこうではなく包帯をきつめに巻いた。指が大きなマッチ棒のようになってしまった。大げさに見えるけれど、がまん、がまん。血がとまっても油断しないでね、傷口を刺激するとまた血が吹きだすかもしれませんから。と先生に念を押すようにいわれた。きょうは1日、おとなしくしていよう。のんびりすごそう。

 からだを流れている血液の量、循環血液量は、体重の約12分の1リットルだといわれている。それが妊娠をすると、約1.5倍にふえる。お産のときに1リットルほど出血しても平気なくらいふえるという。血清のふえる量が血球のふえる量よりも多くなるために、実際には血液全体が薄まりながらふえている状態だ。だから、どんどん、さらさら血になる。それで止血しにくかったのだろう。

11月24日、祈願書を出す日。(妊娠34週4日)

 朝起きると、だんなが書斎をかたづけていた。ダンボール箱に本がぎっしりならんでいる。来週の日曜日、書籍の買取サービスがきたときに引きとってもらうぶんだ。そうだ、わたしも整理しなければ。あっという間に週末だ。
「ほらほら、早く祈願書を書かないと」
「あ、そうだった」
「はい、書いて、書いて」
「ごめん、ごめん」
きょう11月24日は、大切な日だ。祈願書を書いて参拝する日。神さまへのおねがいごとをエントリーするチャンスの日、なのだ。日本中の神さまがあつまってきて、人間たちのおねがいごとをかなえるかどうかの会議をする。そのための企画書を作成して提出しなければならない。お正月に神社へ行って祈願するのはじつはまちがい。このタイミングにおねがいしたことへの、許可書をもらいに行くのが、初もうでのそもそもの趣旨なのだ。そう思うと気合いが入るが、わたしはすでに寝坊してしまった。本来、起床は6時まで、部屋を換気して朝日を15秒あびる。新しい下着と服に着がえる。9時に北を向いて、祈願書を2通書く。もう9時をすぎてしまっていた。とほほほ。だんなは、風呂で身を清めて部屋もきれいに整とんしていた。気をとりなおして急いで書こう。

 はじめに、神さまに日ごろの感謝とお礼を伝えて、かなえたい夢を箇条書きにする。さいごに、がんばります、と決意表明をして、住所、氏名、生年月日を書けばできあがり。祈願書を封筒に入れて、表に、平成27年祈願書、と書く。準備ができたらさっそく神社へ。途中で書いた封筒をもってくるのを忘れたことに気づき、だんなが走ってとりに帰る。迷惑をかけっぱなしで、すみません。神前での拝礼にもルールがある。2回深くおじぎをする。2回柏手をうつ。自分の住所と名前、祈願書の願いをとなえる。1回深いおじぎをして、おしまい。もってきた2通の祈願書は自宅にもち帰って、1通は神棚にそなえるか、タンスや机の引きだしに入れる。もう1通はカバンなどに入れてもち歩くといい。これで来年の準備は万端だ。あとは初もうでのときに神さまから、この祈願でこのまましっかりがんばりなさい、と応援してもらえばいいのだ。

 だんなは、わたしがどんな祈願を書いたのかは知らない。わたしも、だんながなにを書いたのかは知らない。でも、おたがいすぐにわかってしまった。参拝が終わって一斉に、おなかのなかのそうすけに話しかけたからだ。
「そうすけ、元気に生まれてくるように、神さまにおねがいしたからね」

11月23日、いつもより多めに。(妊娠34週3日)

 連休の中日。朝ヨガをして、午後はゆっくりすごそうと計画。行きの電車のなかで、どこでランチをしようかな、と考える。いままで行ったことのない店にトライしたいな。だんなもわたしも、おいしいものには目がないのだ。
「行きたい店ある?」
「前から気になっているカレー屋さんが、あるんだけど」
「どこ」
「東京駅のすぐ近く」
「ふーん。スタジオから歩いても行けるね」
「いいおさんぽになるよね」
というわけで、ランチはカレーの店に決定。ヨガをしているあいだも、ずっとカレーがあたまのなかを支配していた。いかん、いかん、集中しなければ。おかげでだんなもわたしも、いつもよりよぶんに動いていたようだ。レッスンが終わったあとに体重をはかったら、思ったよりもぐんと数値が減っていたのでびっくりした。これで、おいしいカレーがますますおいしくなりそうだ。

「いらっしゃいませ」
「こんにちは」
「ビールとコーラ。あとは…」
「カレー、ルー大盛りタマゴ入りを2つ」
予習したとおりにオーダーをする。これで、よし。おいしいものを、いちばんおいしい状態でたべたい。と、ついつい欲が出てしまう。まずは、のみものとキャベツのピクルスが、しばらくして、カレーが運ばれてきた。思ったよりもずいぶんボリュームがあるなあ。でも、きょうのはらぺこ具合にはちょうどいい。いただきます。あまくてフルーティー。ひと口、ふた口、たべすすめるうちに、辛さがじわじわひろがっていく。吹きだした汗がとまらない。タオル地のハンカチで顔をふきながら、カレーをほうばる。ああ、ゴクラク。おなかが満たされるほどに、そうすけが元気よく動きはじめる。あれれ、いつもよりよぶんに動いているようだ。カレーが辛すぎるからじゃないよね、と、だんなにいったらかるく笑いとばされた。そんなこといったら、いつもカレーをたべているインドの人はたいへんなことになっちゃうよ。たしかに、そうだ。胃がふくらんできたり、からだがあたたまってきたりするからだろう。ただ、香辛料をとりすぎると腸の粘膜を刺激して便秘や下痢、痔になりやすいのでほどほどにしないと。ふぅ。ひと粒のお米ものこさず、いただきました。ゴクラク、ゴクラク。ごちそうさま。

11月22日、おっぱい開通。(妊娠34週2日)

 きのうの検診でうれしかったことがある。助産師さんに、立派なおっぱいですね、と太鼓判を押してもらったのだ。うふふふふ。もちろんこれは大きなおっぱいという意味ではなく、赤ちゃんがのみやすいおっぱいなのかどうかの視点でのチェックだ。経産婦かと思ったくらいですよ、ともいわれた。年齢的にはそう思われても自然なんだけど初産なんです、ほんとうに。マッサージしたほうがいいですか、ときいたところ、37週からでだいじょうぶとのこと。わたしのおっぱいの場合は、早くからケアしすぎると刺激がつよすぎてよくないそうだ。

 いいおっぱいとは、どんなおっぱいだろう。乳頭の長さや直径が0.8センチ以上あるのが標準なんだそうだ。先にふくらみがあって、つけ根はすこしくびれていて、引っぱったときに2センチくらいのびるおっぱいが、赤ちゃんが吸いやすい理想のおっぱい。乳頭の長さや直径が0.5センチ以下で先端が平らな扁平タイプになると、直接授乳がむずかしいこともある。のびがよければいいのだが、わるいときにはマッサージをしておいたほうがいい。逆に乳頭の長さや直径が2.5センチ以上あると、赤ちゃんの口に入りにくいためうまく吸えなかったりする。しっかりマッサージをしてやわらかくしておこう。おっぱいのなかに乳頭が入りこんでいる陥没タイプは、乳頭がいつもかくれているため刺激によわく、赤ちゃんに吸われると傷つきやすい。乳頭吸引器でケアをしておこう。乳房そのものが小さくても授乳には影響しない。が、産後は乳管がつまりやすい。逆に下垂しているおっぱいは、のみ残した母乳がたまりやすいので搾乳するほうがいい場合もある。人生いろいろ、おっぱいもいろいろ。二度とやってこないであろうこの機会だからこそ、しっかりおっぱいと向きあっていたいと思う。

 37週以降にはじめるおっぱいケアについて、助産師さんがていねいに手ほどきしてくれた。乳輪のまわりに5本の指をあてて乳房の奥にぐっと押しこむ。そのまま乳輪部を包むようにつかんで、前に引っぱる。前に引っぱりだしたら5本の指で乳首をかるくしごく。これだけで出た。おっぱいが出た。まだ透明で黄色っぽい色だけど、ちゃんと出た。ついついもっとケアしたくなってくる。

11月21日、NSTってなに。(妊娠34週1日)

 遅めの午後、日赤医療センターへ。きょうの検診は、たしかめることがたくさんある。採血をして血圧と体重をはかり、検尿を提出して、NSTルームへ移動した。NSTとはノンストレステストの略で、ストレスのない状態、つまり陣痛のない状態で検査をして、赤ちゃんが元気かどうか、お産に耐えられるかどうかを調べる。胎児の心拍をはかって調べるので、胎児心拍数モニタリング、とか、モニター、ともいわれる。妊娠後期にほとんどの人がうけている検査だという。どんな検査だろう。NSTルームに入ると、リフレクソロジーサロンのようなリラックスチェアがならんでいた。いやしの空間だ。そばには分娩監視装置とよばれる機械がある。これをつかって、おなかにふたつのセンサーをつける。ひとつは、赤ちゃんの心拍をとるセンサー。もうひとつは、おなかの張りをキャッチするセンサー。センサーをおなかにぺたっと押しつけるようにして、ベルトで巻いて固定する。ゆるすぎるとキャッチできなくなるので、すこしきつめにしてベルトを巻く。あとはひたすら、リラックス、リラックス。30分から40分くらいかけてモニターをチェックする。機械から、トン、トン、トン、トン、とリズミカルにきこえてくるそうすけの心音をしばらくたしかめていよう。

 分娩監視装置から、赤ちゃんの心拍とおなかの張りを記録したグラフがレシートのような紙で出てくる。グラフを見ると上下に2本の波線がならんでいる。上の波線はそうすけの心拍、下の波線はおなかの張り。胎動のグラフも、自動的に記録されているようだ。上の波線でわかる赤ちゃんの心拍は、ギザギザが多いほど元気な証拠。わたしはすっかりカンちがいして、ギザギザが出るたびにびっくりしながら、助産師さんに、だいじょうぶですか、ときいていた。心拍数は、120~160回くらいが正常値。赤ちゃんが動いたときに、心拍数があがりグラフに山ができるのが元気なしるし。おとなも運動したあとには、ドキドキして心拍数が上がる。赤ちゃんだっておんなじだ。下の波線は、おなかの張りをキャッチすると山ができる。張りがないときにはまっすぐになる。赤ちゃんの胎動や妊婦のからだの動きをキャッチして、多少乱れることもある。検査のあいだに1回くらいおなかが張っても、だいじょうぶ。前駆陣痛といって、陣痛の準備なので異常なことではないそうだ。予定日が近ければ、なんどか繰りかえして張ってもいいくらいだ。早産の時期なのにひんぱんにおなかが張ったり、痛みがある場合には気をつけよう。わたしのおなかは、張りもなく心配はなさそうだ。

 NSTのあと、採血の結果が出た。甲状腺ホルモンの分泌が不足しているとのこと。薬をのんで、しばらく様子をみることになった。甲状腺の機能が低下してくると、どんなことが起こるだろう。調べてみたところ、むくみ、お肌の乾燥、さむがりになる、たべてなくても体重がふえる、無気力になりあたまの回転がにぶくなる、など、ストレスがたまりそうなことばかりだ。ここはムリしないでゆっくりすごすことにしよう。家でのんびり風呂にでも入ろう。

11月20日、木曜日のたのしみ。(妊娠34週0日)

 きょうは木曜日。週刊モーニングの発売日である。いつもたのしみにしている連載マンガが掲載されている。鈴ノ木ユウさんの「コウノドリ」だ。妊娠や出産をテーマにした連載で、出産をひかえているプレママやそのだんなさんであるプレパパ、子育て中の親、これから親をめざす人など、たくさんの人のあいだでいま話題になっているという。去年の春から連載されていたので妊娠する前にも読んでいたが、実際に妊娠してから読むと体験したかのように毎回はっとさせられる。電車のなかで読んでいると、いきなりうるっとこみ上げてくるから気をつけないといけない。ただのお涙ちょうだいものではないのだ。

 主人公は、産婦人科医、鴻鳥(こうのとり)サクラ。ベイビー、とよばれているジャズピアニスト、というもうひとつの顔をもっている。児童養護施設で育ったこと以外はナゾにつつまれている。このあたりの設定はマンガらしいなあと思うが、毎回毎回のストーリーが体験したかのように生々しい。無脳症、未受診妊婦、切迫流産、人工死産など、いままであまり語られることのなかった妊娠、出産を描いている。第4話のなかで作者の鈴ノ木ユウさんが想いを語っていた。

出産は病気ではない
だから皆
幸せなものだと思い込んでいる
多くの妊娠出産を見れば見るほど思う
出産は奇跡なんだ
だから人は純粋に喜んだり
嘆き悲しんだりする
その奇跡を前に
産科医など無力なのかもしれない
それでも
たとえそうだとしても
僕はコウノトリだ

 5年前に奥さんが出産して立ち会った経験や、奥さんの幼なじみが産婦人科の先生で話をきいた体験が、きっかけになっているそうだ。おれ描かなくちゃ。おれが描かないでだれが描くんだ、とまで思ったんだとか。妊娠も出産も、奇跡なのだ。なにごともなく無事に終わった妊娠や出産はない。けっしてあたりまえではない、ということを伝えようとしている。まだまだ実感するにはいたらないけれど。体験しながらたしかめていくのだろう、そうすけといっしょに。

11月19日、ゾウさんの足。(妊娠33週6日)

 仕事のあと、マタニティヨガへ。19時からのレッスン。この時間帯は人気があるため、ヨガマットを置く場所の確保がたいへんだ。案の定、10分ほど前にスタジオに着いたら、入り口近くのすずしいところはすべて予約でいっぱいになっていた。後ろの列がまだ空いていたので、よかった、よかった。マットのそばにミネラルウォーターとフェイスタオルを置いて、かるくストレッチをしながらヨガの開始を待つ。と、そうすけが、うねうね元気よく動きはじめる。いっしょにストレッチをしているみたいだ。よく動くのでおもしろがっていたら、となりのおねえさんがびっくりしていた。動きすぎたね、そうすけ。

 このごろとくにむくみやすくなってきているので、要注意だ。ゾウさんの足みたいになっている。足首だけでなく、足全体がむくんでいるようだ。歩いていると、すねの下あたりがジンジンしてくることもある。血圧は、いまのところだいじょうぶだ。妊娠中のむくみは、ホルモンの関係である程度はしかたがないそうだ。むくみがひどかった妊婦さんも産んでしまえばすっきりもとにもどるといわれている。だれでも多かれすくなかれ、むくみは出る。そう考えると、やっぱりからだはよくできている。いまのむくみをすこしでもラクにできれば、あとはあまり気にしなくてもいい。日ごろから風呂であたためたり、ヨガやストレッチをしたりして、なるべくひどくならないように心がけよう。塩分をひかえめに、カリウムを積極的にとるのも、むくみ対策におすすめらしい。

 ヨガのあとシャワーにならんでいると、よくレッスンで見かけるおねえさんから声をかけられた。先輩ママさんで、ふたりの息子さんがいるそうだ。
「いま、何か月なの」
「9か月です」
「わっ、もうすぐだね。たのしみだねー」
「体重のコントロールがむずかしくて、むずかしくて」
「臨月になると、もっとぐわーっとふえるわよー」
「ぐわーっと、ですか」
「わたし、トータル12キロもふえたもん」
「すでに7~8キロまで、きちゃっていますよ」
「だいじょうぶ、だいじょうぶ。母乳育児ですぐもどるからねー」
やっぱり母乳育児がいいんだなあ。おねえさんのムダのない美しいボディラインを見ながら、つくづく思った。おっぱいがちゃんと出ますように。