Diary

にんしん日記

44歳で妊娠、45歳で出産した神戸 海知代の妊娠・出産・子育てせきらら体験記。
妊娠を知った2014年6月6日からまる1年、1日も休まずつづった記録です。

8月20日、ミス・サイゴン。(妊娠20週6日)

 午後、大学時代からの友だち3人で、ミュージカルを観に行った。帝国劇場のミス・サイゴン。なつかしい。本田美奈子さんがヒロインのキム役を演じていたころにも行ったことがあるけれど、あれは何年前だっただろう。ネットで調べてみると、1992年から1993年に上演と書いてある。20年以上も経っていたとは。あの日の胸の高まりを、きのうのようにおぼえている。

 ミス・サイゴンは、こんなストーリーだ。
戦争末期のベトナム。両親をうしなった17歳のキムは、陥落直前のサイゴンにある、フランス系ベトナム人の男エンジニアが経営するキャバレーではたらいていた。そこでアメリカ兵のクリスと出会い、恋に落ちる。永遠の愛を誓ったふたりは、サイゴン陥落の混乱のなか、無情にも、米兵救出のヘリコプターにひき裂かれてしまう。クリスはアメリカに帰国してエレンと結婚するが、キムを想い、悪夢にうなされていた。いっぽう、エンジニアと国境を越えてバンコクにのがれたキムは、クリスとのあいだにできた息子タムを育てながら、いつかクリスがむかえに来てくれることを信じていた。戦友のジョンから息子タムの存在をきいたクリスは、エレンを連れてバンコクへ向かった。待ちに待ったクリスがむかえに来てくれた、と、胸をはずませて、クリスが泊まるホテルへ急ぐキム。そこでエレンと会い、現実を目の当たりにする。傷心のキム。彼女は愛する息子タムのしあわせをねがい、最後の決心をするのだった。

 どうして、ミセス・サイゴンではなくて、ミス・サイゴンなんだろう。そのタイトルが、ストーリーのラストを暗示していた。ミスのまま、生涯いちどもミセスになることができなかった、キム。彼女はクリスと結婚式をあげたつもりでいたけれど、現地の言葉が理解できなかった彼には、そのことがわからなかったのだ。その結婚式で、キムはミス・サイゴンとよばれ、キャバレーの仲間たちに祝福されていた。みんながうらやむ、ミス・サイゴン。夢を手に入れた、ミス・サイゴン。なのにキムは、ほんとうの夢をかなえることができなかった。あまりにも、かなしすぎる。愛に生きた女性、キム。タムへの想いをうたった「いのちをあげよう」が胸にささる。なんどきいても、泣けてくるなあ。いま、そうすけといっしょにきいているなんて。なおさら、泣けてくるなあ。

8月19日、おっぱいの味。(妊娠20週5日)

 母からメールがとどいた。タイトルを見ると、今晩からおかゆ、と書かれている。本文を見るとこっちにも、今晩からおかゆ、で文章がはじまっていた。母はよっぽど、ごはんをたべられるのがうれしかったんだろう。
「今晩からおかゆです。きょうのお昼まで絶食でした。待ちに待ったごはんでーす。これで異常がなければ、普通食になります。ごはんをたべたら、もう回復は早いと思うよ。あした、4人部屋に移ります。早くよくなるよう、がんばりまーす。近くにマタニティの専門店があってよかったね。母さんも行けるようになったら、いっしょに行こうね。まだあついから、気をつけて」

 母にとってのおかゆがそうであったように、赤ちゃんにとってのおっぱいが待ちに待ったごはんだったら、うれしい。おっぱいは、どんな味がするんだろう。母乳にも、おいしい母乳とまずい母乳が、あるのだろうか。
 調べてみると、おっぱいにも、おいしいおっぱいとまずいおっぱいがあるそうだ。母乳の味は、ママのたべたものがそのまま出る、と、いっても過言ではないほど、ママの食事の影響をうける。あぶらっこいものをたべていると、母乳もあぶらっこくなる。あまいものをたべると、あまったるくなる。タバコを吸うと、タバコ臭くなる。アルコールをのむと、母乳にもアルコールがまわってしまうそうだ。アルコールをふくんでいる母乳は時間が経つと発酵して、それこそまずーい母乳になってしまう。おっぱいがおいしくないと、赤ちゃんは、足をバタバタさせたり、おこっておっぱいを手で押したり、乳首を思いっきりかんだり、からだをねじっていやがったりして、おいしくない、と、いっしょうけんめいアピールをするらしい。そんなアピール、されたくないなあ。

 どうして、味にちがいができるんだろう。それは、母乳がママの血液からつくられているからだ。ママの血液がわるいたべもので汚染されると、母乳の味や、質や、においまで、変化してしまうのだ。母乳がおいしくないと、赤ちゃんはのまないでのこしてしまう。3時間以上ほうっておいた母乳は、もっと、おいしくなくなる。そのうえ、たまった母乳でおっぱいが張って、乳腺炎の原因にもなる。いい食材でごはんをつくると、それだけでも立派なごちそうになる。母乳もおなじだ。しっかりたべて、おいしい母乳をつくりたい。

8月18日、将来のパパに告ぐ。(妊娠20週4日)

 きのうのディナーは、おもしろかったなあ。年下の先輩夫婦にアドバイスをたくさんもらった。それだけでなく、夫婦間での育児に対する意識に温度差があることを目の当たりにした。子どもをいとしい、と思う気もちは、パパもママもおなじだ。なのに、パパはわかっていない、とママが感じる場面のなんと多いことか。義理の妹ママが義理の弟パパを叱責しているところを見て、母親になってずいぶんたくましくなったなあ、と思ういっぽう、夫婦間ギャップの大きさにおどろいた。子育て体験をとおして、ちがいがあらわになるのかな。

パパとママにとって、子どもの誕生はこのうえないよろこびでもあり、不安のかたまりでもある。赤ちゃんは、ひとりでは生きていけない。だから、ほぼ24時間見まもりつづける。もちろん赤ちゃんは、親の愛情とか、努力とか、忍耐とかを理解して気をつかう、なんてテクニックなんかもっていない。どんなにあやしても泣きやまない。いっしょうけんめいつくった離乳食をたべない。そんなジレンマもしょっちゅうある。どうすればいいの? どうしてわかってくれないの? と、とめどもなくかなしくなってくる。こうした体験は、子どもに接する時間の長いママのほうが、パパよりもたくさんるにあるにちがいない。

育児がたいへんなのは最初のうちだけだから、だいじょうぶ。と楽観視しているパパの多いこと、多いこと。出産前に妻が夫に抱いていた信頼感も、出産後には夫の家事や育児への無関心によってゆらいでしまった、と、いうことがよくあるそうだ。出産も、子育ても、先が見えないことだらけ。このいちばん不安な時期に、ありのままをわかちあうことができるかどうか。

 年齢的にも、キャリア的にも、目の前にたくさんの仕事を抱えつづけるパパにとって、家事や育児の時間をつくるのがどれだけたいへんなことか。わたしもいま会社につとめているから、よく理解しているつもりだ。さぞかし、ストレスもたまっているにちがいない。だからこそ、たがいにムリを押しつけないように、負担を共有していこう。思ったことは、胸にためこまないですぐに話そう。きっと近い将来、だんなにイライラすることだってあるだろう。それでも、たがいに思いやる気もちは忘れないでいたい。ついつい、忘れてしまいそうだから。

8月17日、家族という社会。(妊娠20週3日)

 だんなの弟夫妻からディナーに招待されて、ホテルのレストランへ。だんなとだんなの弟は、年が7つはなれている。弟夫婦はすでに、10歳と7歳の男の子のパパとママだ。出産も、子育ても、わたしたちの大先輩になる。ふたりの体験談をきいて、これからの参考にしよう。戸越で会ったときにも話していたが、兄弟の性格のちがいは、きけばきくほど、おもしろい。お兄ちゃんは、とっても活発な男の子。学校ではしょっちゅうケンカをして、先生に注意されているそうだ。家でももちろん、わるさをしては、ママにこっぴどくしかられている。それとは対照的に、弟は、まわりをじっくり観察して、どうすればしかられないか、自分に視線があつまるか、と慎重に行動しているそうだ。

ある心理学者の分析によると、第1子は、いちばんに生まれ、常にいちばんでいたいと思い、責任感のある行動をとるという。まわりの期待に応えて、みんなをよろこばせようとする反面、自分の立場をおびやかす存在には、嫉妬深くなりがちだ。第2子は、第1子に追いつこうと、必死に走りつづける。第1子がいい子だと自分はわるい子を演じ、逆に、わるい子だといい子を演じる傾向がある。中間子は、人をかきわけ、かきわけ、生きていく。いつもどこかに不公平さを抱えているからか、まわりへの適応力には長じているという。末子は、まさに、愛されるべき存在として生まれてきた。王座をうばわれることがないよう注意をはらいつつ、第1子や第2子の立場をおびやかしながら、まわりからのサービスを受けつづけようとするそうだ。単独子は、巨人の世界のなかに住む小人のようなイメージだ。あまえんぼうでマイペース、理想が高く、責任感が強くなる。こうやってみると、家族は、最小単位の社会だといえる。

 だんなは、7つ下の弟がいる第1子、わたしは、9つ上の兄がいる第2子である。ちょうど正反対の環境で、育ってきたんだなあ。だんなも、わたしの兄も、単独子的な育ち方をしたあとに、第1子のもつ安定性や責任感が追加されていったにちがいない。逆に、だんなの弟も、わたしも、第2子であり、末子でもあり、上とは年の差がある。だから、単独子の要素もそなえもっているのだろう。また、おなじ心理学者によると、対人関係がうまくくいかなくなる原因は、ひとりひとりがもっている嫉妬と劣等感によるところが多いそうだ。たとえそれが親子の関係であっても、ふつうに起こりうることだという。

 そうすけが、なにを考えるのか、どんな行動をするのか、どんな価値観をもつのか。いまは想像もつかないけれど、年下の先輩夫婦が教えてくれた体験をお手本にしてみよう。家族という社会を大事に、大事に、育てていこう。

8月16日、ぞうさんの足に。(妊娠20週2日)

 だんなさん、またまたありがとう。この代筆も誕生日の記念になったらうれしいなあ。だんなは終戦の日、わたしはポツダム宣言記念日の生まれ。そうすけの誕生日は、いつになるだろうね。予定どおり1月1日に生まれたら、いそがしくなるねえ。家でカンパイしながら、そんな話をした。おたがい、45歳。これからもいろいろなことによくばりながら、たのしんでいきましょう。

 きのうは夕方まで、撮影の立会いだった。ランチタイムと移動以外はほとんど立ちっぱなしだったけれど、屋外にいて天気もよく、気もちいい風が吹いていたので、快適に仕事をすることができた。と、ふと足もとを見ると、ぞうさんの足になっているではないか。足首がなくなっている。すっかり、むくんでしまっているぞ。家に帰ってから、きちんと手当てをしなければ。バスタイムをのんびりすごせるように、風呂のなかで読むマタニティ雑誌を数冊購入、お気に入りの入浴剤と、CDをスタンバイした。レッツ・バスタイムだ。

女性は妊娠をすると、12週めくらいから体内の血液がふえはじめ、34週めになると、ふだんの血液量の約40~50%もふえるそうだ。しかし、血液がふえるといっても、血液そのものがふえるわけではない。血漿(けっしょう)とよばれる液体が、どんどんふえていく。血漿は90%以上が水で、血球などの細胞をふくんでいない。つまり、水分だけがどんどんふえて、血液さらさらの状態になるわけだ。血液がさらさらしていると、血管のなかをスムーズに流れやすいため、血栓を防ぎ、胎盤の循環もよくなり、おなかのなかの赤ちゃんにも栄養がとどきやすくなる。女性のからだは、ほんとうに、よくできているなあ。血液中の水分がふえれば、もちろん、全身がむくみやすい状態になる。さらに、大きくなった赤ちゃんの重みがかかることで、足のつけ根の太い血管が圧迫されて、むくみやすくなるのだ。妊娠中は赤ちゃんのぶんも、酸素、栄養、老廃物を、せっせせっせと運んでいる。しっかり、いたわってあげよう。

8月15日、ご好評につき、(妊娠20週1日)

 また、登場しました。かみさんの誕生日7月26日に45歳ではじめて父になると自己紹介しました、だんなでございます。じつはきょう、ほんとうに45歳をむかえました。たくさんの方からSNSをとおして、おめでとうのメッセージをもらいました。ありがとうございます。
 ほんとうに、便利な世の中になりましたね。
人と人の出会いは、一説では、100万分の1という偶然ともいわれています。その出会いだけでも奇跡なのに、その奇跡の糸をつなぐSNSというテクノロジーのおかげで、ふだんはお会いすることがなかなかむずかしい方とも、つながっていられるんだなあ。うれしいですね。

 そんな便利な世の中ですが、今回の妊娠について、SNSでの発表はかみさんが安定期をむかえたいまもしていません。芸能人でもないので、発表とはおおげさですが。理由はうまく説明できませんが、この妊娠は、100万分の1の偶然でめぐりあったふたりだけの偶然、だけで実ったのではなく、それまでに出会った方々とのなにがしらの必然、も、ふくめて実ったものだと感じているからです。つまり100万×100万×100万×…という、とほうもない偶然、いや、必然だと感じるのです。だから、わたしたちの人生でお世話になったみなさまにはSNSをとおさず、直接会って、話して、伝えたいのです。

 わたしにとってのその日は、8月6日にやってきました。年になんどか、前職の上司や、先輩や、同僚や、前職でお世話になったお得意先の方々と親交を深めていますが、6日は、お得意先の方の還暦祝いのつどいでした。みんなで食事をしているあいだも、いつ話をしようか、と緊張しっぱなしでなんにもいいだせないまま、ずるずる二次会に突入しました。
そして、みなさんがカラオケに興じるなか、いよいよ、チャンスはやってきました。わたしは、奥田民夫さんの「ありがとう」を選曲しました。おやじになります♪ どうもありがとう♪ 子どもができました♪ どうもありがとう♪ 元旦が予定日です♪ どうもありがとう♪…と。ふっと空気がとまりました。元お得意先のふたりも、元上司も、元先輩ふたりも、元同僚ふたりも、そして、お店のママさんまで。そして「マジかよぉ」という歓声と「よくやった」という涙声と「おめでとう」のハイタッチがとびかいました。わたしがうたった奥田民生さんの「ありがとう」は、けっきょくカラオケ採点で54点になっちゃいました。
 元お得意先の方からは、なぜだかわかりませんが、過去きびしく接したことをおわびされて、子どもができてほんとうによかった、と、大粒の涙と痛いくらいの握手をもらいました。元上司からは、これでやっといっちょまえになったよなあ、と、あたまをしばかれました。元先輩は、その場で奥さまを電話で呼びだして、夜遅くにもかかわらずお祝いの言葉をいただきました。

 その後、8月8日には、別の元お得意先の方から、携帯電話に連絡をいただきました。おめでとう!なんかいいことあったようだね、と。きいてみると、なんと6日に行ったお店のママさんから報告がきたんだそうです。この方は、カラオケは替え歌でうたえ!と教えてくださった、わたしの恩人でもあります。
 また、8月11日には、転職を決めたときに快く応援をしてくれた、当時の直属の上司にも、会って報告をしました。彼からは「若いときではなく仕事やプライベートでたくさんの経験をつんできたいまだからこそ、親になるってことは、ものすごい成長になるにちがいない。やっといっちょまえになったなあ」と、先日の元上司とおなじことをいわれました。

 子どもから教わることは多い、と、いわれるけれど。自分の人生や価値観にどんな影響をもたらすだろう、と、いまからワクワクしています。

8月14日、母も赤ちゃん。(妊娠20週0日)

 8時ちょうどの、のぞみにのって、京都に向かった。母が入院している滋賀医科大学に行くためだ。兄はきのうから、滋賀にもどってきている。病院の最寄りの駅で、兄夫妻と合流した。母は、自分が入院してしまったことで、ひどく落ちこんでいるそうだ。こんなはずじゃなかったのに、と。きのうから点滴だけで、一食も口にしていないので、いらいらしているのもあるだろう。本調子にもどるには、しばらく時間がかかる。しっかり、じっくり、治さないと。
「こんにちはー」
わざとらしいヘン顔で登場した。ベッドで母が笑ってくれた。思ったより顔色もよさそうだ。よかった。腕には点滴をしているけれど、それ以外は、いつもとほとんどかわらないようだ。ちょっぴり、顔がむくんでいるくらいかな。
「からだの調子はどう」
先に母から、きかれてしまった。
「ちゃんと、たべてるよ。最近は体重がふえすぎて、こまってるよー」
「おなか、小さいじゃないの。見せてごらんよ」
「ちゃんと、出てるでしょー。ほら、ね」
はいていたパンツを下ろして、マタニティショーツ姿になったところで、医師があらわれた。タイミングがわるすぎる。パンツをもどして、話をきく。
「えー、点滴と抗生物質で、容態も落ちついてきました」
「ありがとうございます」
「腸のまわりの細胞が、治ろう、治ろう、と、はたらきはじめています。このまま、様子をみていきましょう」
「先生、いつになったら、ごはんがたべられますか」
せっかちな母のくいしんぼうな質問に、医師はおだやかに答えてくれた。
「まずは、腸の炎症をおさえます。炎症がおさまったら、つぎに、炎症の原因になるばい菌をやっつけます。ごはんがたべられるようになるのは、その先になります。しっかり治すためにも、もうちょっと、がまん、がまんです」
こんなふうにいわれると、つい、がまんしてしまいそうだ。先生、話すのがうまいなあ。79歳の母が、赤ちゃんに見えた。ごめん、ごめん。

8月13日、見えざるちから。(妊娠19週6日)

 おかしな夢を見た。夢のなかで、わたしは出産をしている。どうやら安産のようだ。すぽんっ、と、いきおいよく赤ちゃんが生まれた。夢なのに、はっきりエコー音まできこえる。元気な男の子ですよ、と助産師さんに声をかけられて、ひと安心。と思って見ていたら、なんと生まれてきたのは、赤ちゃんではなく小学生だった。ど、どうやって、おなかのなかにいたの。その子がわたしをじいっと見て、話しかける。びっくりした? ぎゃああ。まるでホラーだ。

 気分転換に、朝風呂に入った。ジャスミンの入浴剤に、お気に入りのCDでゆっくりくつろいだ。風呂からあがると、携帯電話に着信があった。はじめて見る番号だ。留守番電話にメッセージがのこっている。だれからだろう。
「滋賀医科大学、救急・集中治療部の〇〇〇、と申します。松本美代子さんの娘さんで、いらっしゃいますでしょうか。本日、美代子さんが、こちらの病院にいらっしゃいまして、腸炎のため入院いただくことになりました。くわしくは追ってご連絡いたします。それでは、失礼いたします」
母が、入院した? 朝の7時すぎに? なにが、あったんだろう。あわてて医師に連絡をして、状況をきいた。深夜2時ごろ、急に胸がくるしくなったらしい。病院に運ばれてきて診たところ、胸は異常なし。ただ、大腸にひどい炎症が見つかったそうだ。大腸の腸壁がはれて、血管のなかにまでガスが入りこんでいる。このままほうっておくと、大腸に穴が開いて、さらにひどい状態になるという。まずはごはんをやめて点滴で栄養をとりながら、抗生物質で炎症をおさえること。それから、ばい菌に対する薬を投与していくことになる。なぜか母はおなかをさわっても痛がらない。腸炎があることにもまだ気づいていない。母はいま79歳だ。高齢で体力がないぶん、時間をかけてじっくり治療をしたほうがのぞましい。となると、母のモチベーションをたもちながら、いまの状況に向きあっていかなければならない。さっそく兄に電話をした。つながって、ほっとする。ちょうどいま羽田に着いてメッセージをきいたばかりだよ、と、あわてていた。
「おれ、このまま、滋賀医科大学に行くわ」
「あしたのお昼ごろに合流するね」
「からだ、ムリするなよ」
ひさしぶりに家族であつまるのはうれしいが、こんなかたちで会うことになるとは。でも、母の腸炎に兄とわたしを気づかせてくれた、見えざるちからには感謝してもしきれない。1日でも早く、母の笑顔が見られますように。

8月12日、おっぱいケア。(妊娠19週5日)

 おっぱいが、大きくなった。姿見の前で、あらためてそう思った。ポーズをとりながら、さまざまな角度から検証してみる。前に突きだす、というよりも、全体的にふっくらまあるくなった。実際、妊娠5か月になると皮下脂肪がどんどんふえてくるそうだ。母乳をつくるための乳腺が、発達している証拠だという。母になるための準備が、からだのなかで着々とすすんでいる。自分の意思とは関係なく、母親化はすすむ。気もちは、からだにどこまで追いつけるだろう。

 乳腺が発達すると、初乳が生成されはじめる。なかには、なにもしていないのにいきなり母乳が出る人もいるそうだ。わたしはまだ母乳が出てきたことはないけれど、乳首の先に白い垢のようなものがついていることがときどきある。風呂に入っているときにそっと洗って、とれるものはとるようにしている。いままでこんなにじっくり手入れしたことはなかった。そうすけは、ここから栄養をとるんだなあ。乳房を、乳首を、乳頭をケアしておこう。締めつけすぎないで、やさしく包んであげよう。きつくなったブラジャーで大きくなったおっぱいを締めつけるのはやめよう。仕事から帰ったら、ブラジャーをはずしてあげよう。

 乳首にも、赤ちゃんが吸いつきやすい乳首があるそうだ。やわらかくて弾力のあるほうがいい。長さと直径は0.8センチから1センチが、いちばん吸いつきやすいサイズらしい。わたしの乳首は、どうだろう。サイズよりも大切なのは、やわらかさだ。理想は、耳たぶくらいのやわらかさをキープすること。顔とおなじように、おっぱいにも毎日のケアが必要になる。乳首の汚れをとる。おっぱいマッサージをする。お風呂でくつろいでいるときに、ためしてみよう。

 人間が口のなかにものを吸いこむときにもっともおいしいと感じられるスピードは、母乳を吸うスピードだ。と、読んだことがある。赤ちゃんは、ファーストフードのできたてシェイクをのめるほどのつよい吸引力をもっている。

8月11日、寝不足解消法。(妊娠19週4日)

 寝不足だ。3時15分から全米プロゴルフ選手権を見ていて、そのまま朝をむかえてしまった。眠くなったら寝るつもりだったんだけど。選手たちのスーパープレイを見ているうちに、つい興奮して時間を忘れてしまった。試合のなかで、わたしはロリー・マキロイ選手を、だんなはリッキー・ファウラー選手を応援している。ふたりは、同世代のライバルだ。その設定を想像するだけでも、ワクワクしてしまう。ちょうど出勤時間とかさなって、最後まで試合を見ることができなかったのが残念。でも、マキロイ選手が優勝してくれてよかった。いまごろだんなは、うんとくやしがっていることだろう。それにしても、寝不足なのだ。

 妊娠すると、睡眠不足になりやすい。理由は、いくつかある。仕事や通勤による疲労がたまって、深く眠れない。つわりで横になるとつらくて、快適に眠ることができない。おなかの張りや足のむくみで、睡眠があさくなる。妊娠や出産への不安がつのって、ゆっくり眠れない。わたしの寝不足は、とくに1つめと3つめがおもな理由だろう。たしかに、妊娠前とくらべて疲れがとれにくくなったように思う。夜中にこむら返りになったことも、なんどかある。ふくらはぎの筋肉がぎゅっとつかまれたように、かたく、痛くなる、アレだ。いったん、こむら返りがはじまると、治まるまでどうしようもなくなってしまう。こむら返りを防ぐためには、足のむくみをその日のうちにしっかり解消すること。眠る前にふくらはぎをかるくマッサージするだけでも、発生する確率をおさえられるそうだ。足湯で足首から下をあたためたり、ぬるめの風呂でからだ全体をあたためるのも効果的。足を心臓より高くして血行をよくするのも、むくみ対策にいいそうだ。あおむけに寝ころんだ姿勢で、足や手などむくみの気になる部分をまくらやクッションなどの上にのせれば、心臓より高くたもてる。

 さっそく、先日マタニティショップでゲットした抱きまくらを、足まくらにつかってみよう。と思ったら、抱きまくらがいつものところにない。どこに消えてしまったのだろう。ふと見ると、だんなが気もちよさそうに眠っているではないか。抱きまくらをだっこしながら。だんなも寝不足を解消しようとしているにちがいない。抱きまくら、やっぱり効果的だ。