Diary

にんしん日記

44歳で妊娠、45歳で出産した神戸 海知代の妊娠・出産・子育てせきらら体験記。
妊娠を知った2014年6月6日からまる1年、1日も休まずつづった記録です。

7月11日、笑うおなか。(妊娠15週1日)

 正午から、表参道で打合せをした。コピーライターによる、コピーライターのための組織がある。きょうは10人ほどがあつまって、これからの活動について話しあった。日ごろから言葉をあつかう仕事をしているからか、とにかく話がはずむ、はずむ。なんどもおなかを抱えて笑う、笑う。あまり笑いすぎるのはよくないんじゃないか。と、不安になってきて検索してしまった。
 妊娠中に笑いすぎるのは、よくないんでしょうか。
おなじ内容で医師に質問をしている、ブログがいくつか見つかった。結論からいえば、腹筋がきたえられそうなくらい笑っても、おなかの赤ちゃんには影響しないようだ。むしろ、ストレスをためることのほうがよくない、といわれている。笑って気分がよくなるぶんには、とくに制限はなさそうだ。くしゃみを連発しても、心配無用らしい。冷静に比較してみると、便秘でがんばっているときのほうが、たしかに、もっと腹筋をつかっている気がするなあ。

 夜、帰宅するとさっそく、超音波ドップラーをとりだして、そうすけの心音をたしかめる。トクトクトクトク。よし、きょうも元気だ。このごろは以前にくらべて、心音がはっきりきこえるようになってきた。成長したなあ。右よりも、左からきこえることが多くなった。左のほうが、居心地がよかったりするのかな。心音のリズムにあわせて指をトントン動かしてみると、心音がもっとはっきりきこえてくる。の、ような気がする。そうすけ、トントンに気づいているのかな。いや、まだ、早すぎるよな。それでも、こうしているだけでも十分、つながっている気もちになる。きょうの心拍数は、152だ。

 便秘にならないように、のタイトルで母からメールがきた。
「便秘は、がまんしたらだめだよ。なにがあっても、すぐトイレに行かないとね。お勤めの人はがまんしがちだから、便秘が便秘をよんで、出なくなってしまうんだよ。もようしたら、すみやかに行くこと。それに朝、野菜ジュースをのむといいと思うよ。家でつくれなかったら、駅ナカやデパートの食品売り場に、目の前でつくってくれるジューススタンドがあるよ。毎日のめば、がんこな便秘もなおるでしょう。りきみすぎないように、気をつけてね」
 笑ったぶんだけおなかが刺激されて、便通がよくなるといいのになあ。

7月10日、遺伝カウンセリング。(妊娠15週0日)

 アルゼンチン対オランダ、しびれる試合だった。両者ゆずらず0対0のまま120分を終え、PK戦の末アルゼンチンが勝利した。だんなは、朝からおおよろこび。ロッベン選手がよろこんでいる姿も、見たかったな。もう3位決定戦を戦う気もちはない、というが、気もちをきりかえてまたガシガシ走ってほしい。この試合で思うぞんぶん走れなかったぶんも、走ってほしい。

 きょうは、遺伝カウンセリングの日だ。恵比寿のクリニックに、10時から予約している。広尾の日赤医療センターでは予約を入れることができなかったため、提携しているところを探して連絡をとった。だんなもいっしょにカウンセリングをうけてくれる。心づよい。受付で健康保険証を提出する。母子健康手帳はなくてもいいそうだ。問診票を記入して、番号札を受けとった。
「2番の方、お入りください」
「あ、はい」
わたしたちの番がきた。カウンセリングルームに入室すると、女性の担当者がひとり座っていた。30代前半くらいだろうか。幼い顔立ちなのに、たいへんしっかりした話し方をしている。信頼できそうだな、と感じた。手もとには検査の目的について説明をするためのシートがおいてある。カウンセリングはこの説明もふくめて1時間みっちりおこなわれた。

 ヒトのからだは、小さな、小さな、細胞があつまってできている。その細胞のなかには、両親から受けついだ染色体がある。お父さんとお母さんから23本ずつで23組、合計46本の染色体を受けついでいる。23組のうちの1組は、性別を決める性染色体という。女性はX染色体を2本、男性はX染色体とY染色体を1本ずつもつ。染色体異常は大きく2種類あって、1つは、染色体の数がふえたり減ったりする、数の変化。もう1つは、染色体のかたちがかわる、構造の変化だ。羊水検査では、染色体の数の変化や構造の変化の多くについて、正確に分析することができる。だから、これまでにもたくさんの女性が羊水検査を受けてきたわけだ。
 とはいっても、染色体異常は赤ちゃんの病気のほんの一部にすぎない。羊水検査で、すべての病気を診断することはできない。生まれてくる赤ちゃんのだれもに病気をもつ可能性はあるのだ。赤ちゃんの約3%から5%は、なんらかの治療が必要だといわれている。染色体異常の赤ちゃんは、0.92%。この0.92%を知りたいと思うかどうか、だ。また羊水を採取できても、胎児の細胞をきちんと培養できない場合が、約0.2%ある。さらに、羊水を採取したことがきっかけで流産や死産にいたる可能性も、約0.2%から0.3%あるといわれている。これらすべてをふまえて、羊水検査を受けるのかどうかをしっかり考えて決めましょう、そのためのカウンセリングだったのだ。

 わたしたちの結論は、100%決まっていた。検査をうける。ちゃんと準備をしたいからだ。わたしたちふたりを親に選んでくれた赤ちゃんに、わたしたちができる最高の環境を準備したい、と思う。その気もちは、はじめからゆるがなかったが、説明のなかで染色体異常の例をいくつも見ていると、胸がざわざわしてくるしかった。事実から逃げてはいけない。いままでも受けとめてきたんだし、だいじょうぶ。そう自分のなかで、繰りかえしていた。

7月9日、歴史的残便。(妊娠14週6日)

 7対1。ドイツ対ブラジル戦は、まさかの展開だった。ワールドカップ開催国のブラジルを、ドイツが歴史的大差でやぶった。ブラジルサポーターの泣きさけぶ顔を、朝から山ほど見てしまった。どんよりした気分だ。台風8号の接近で、雨もふっている。転ばないように慎重に足をはこびながら、仕事場へ向かった。きょうは午後1時から、お得意先との大事な打合せがある。気もちを切りかえていかないと。それにしても、あんな試合になるなんて。心外だ。

 打合せの前にゆっくりトイレに入ろうと思いながら、バタバタしているうちに行きそびれてしまった。これがあとでたいへんな事態をまねくことになろうとは、まったく思いもよらなかった。打合せは今朝の試合とは対照的に、すがすがしい展開だった。会話と笑いのたえない、気もちのいい打合せだった。よかった、よかった。仕事場にもどったら、まとめを書いてチームで共有しよう。21時ごろに帰宅した。トイレのことをすっかり忘れていた。

 家に着いたらすぐに、トイレにとびこんだ。どこかで入ろうと思っていたのに、もう、こんな時間か。おなかが、ぽっこりしている。だんなもまだ帰ってきていないし、すきなだけ入れるからいいや。と、最初のうちは楽観的だったけれど。くるしい。かたまりがつっかえている。そこにあることは、わかっているのだが。まったく動かないぞ。シャワートイレのシャワーを、中から強にしてみる。時間をかければ、なんとかなるか。いや、今回のは手ごわいぞ。1時間どころじゃ、どうにもならなそうだ。自宅だし、じっくり待つか。
 2時間が経過した。変化は、ない。からだじゅうに汗が出る。タオルでふきながら、ひたすらチャンスを待つ。動かない。だんなが、帰ってきた。
「すごい汗」
「だめだ、出ない」
「お風呂わかそうか」
「うん」
だんなが風呂をわかしているあいだ、トイレから出て、ぺたぺた歩きまわってみたり、ヨガをしたり、またトイレに入ったり、を、くりかえした。からだを風呂であたためて、またトイレに入る。出ない。また風呂に入る。からだがあたたまったら、トイレにもどって様子をみる。すこし、ほぐれてきたような気がする。ふらふらになって、ようやく解放された。根本的に食生活を見なおしたほうがよさそうだ。予定日の2015年1月1日まで、まだまだ先は長いぞ。

7月8日、好みがかわった。(妊娠14週5日)

 あきらかに、好みがかわった。それも、男性の好みが。ワールドカップの特集をなんども見ているうちに、気づいてしまった。いままでなら、ただ見ているだけだった選手を、うっとりしながら目で追いかけている。夢にまで出てくるようになった。その男性とは、オランダのアリエン・ロッベン選手だ。とうとう日記に書いてしまった。今夜も夢に出そうな気がする。オランダに行ったこともないのに、ロッベン選手に会ったこともないのに。夢のなかでは家族のように、とても親しげだ。目黒川のほとりをふたりでジョギングしている。

 もともとは、少年のようなあまいマスクが好みだ。コロンビアのハメス・ロドリゲス選手とか、ポルトガルのクリスティアーノ・ロナウド選手とか。日本人なら、内田篤人選手とか。ひたむきにがんばっている姿を見ると、無条件で応援したくなる。努力している顔は、美しい。そう思って見ていたが、弾丸のごとく走るいきおいに、すべてがふきとばされてしまった。走る、走る、ガシガシ走る。なんてかっこいいんだろう。オランダが準決勝にのこってよかったなあ。これで、また見られる。だんなは、アルゼンチンひいきだけど。

 女心と秋の空。などと、よくいわれるが、女性はホルモン分泌の変化にともなって、こころとからだに変化があらわれるそうだ。たとえば、日ごろ中性的な顔立ちの男性が好みだった女性も、妊娠しやすい時期には、男らしい顔の男性にひかれるようになる。がっしりした骨格、男らしい低い声、シンメトリーな顔やからだ。またそのころは、においに敏感になるため、いいにおいがする男性にひきつけられる。優良遺伝子をそなえた男性はいいにおいの体臭がするからだ。男性の好みがころっとかわるのは、ホルモンバランスによるものだといってもいいだろう。女性は、よりよい遺伝子をもつ男性を本能的に選ぶようにできているのだ。けっして浮気性ではない。と、考えると、前向きな気分になる。いまはロッベンさんをすきでいよう。いっぽう、だんなはといえば、髪形も、身長も、ロッベン選手ではなくアルゼンチンのメッシ選手似だ。

7月7日、雨の七夕。(妊娠14週4日)

 朝から、雨がふっている。きょうは七夕なのに。七夕に雨がふるのは、おりひめとひこぼしが1年ぶりに会って、うれし涙を流すから、とも、いわれるそうだ。台風8号が接近しているくらいだから、号泣しているのだろうか。

 雨の日は、床がすべりやすいので要注意だ。今朝いきなり、きけんな出来事に遭遇した。最寄りのJR駅で下りのエスカレーターにのっていると、ジーンズにスニーカーをはいた女性がかけ足で降りてきた。ずいぶん急いでいるなあ、と心配しながら見ていると、案の定、すってんころりん。しりもちをついたままエスカレーターをすべりおちて、5歳くらいの男の子の目の前でとまった。男の子にぶつかっていたら、たいへんなことになっていたかもしれない。
「すみません、すみません」
ジーンズの女性は、横にいたお母さんにけんめいにあやまっていた。お母さんは無言でゆっくりうなずいていた。が、その右手は、男の子の腕をぎゅうっとつかんでいた。さぞかしびっくりしただろうに、男の子も泣かなかった。えらかったぞ、ぼく。雨の日は、走っちゃいけない。スニーカーでも、ころんでしまうくらいなのだ。それでも走る人には道をゆずろう。ドキドキしながら思った。

 あれ、おかしいぞ。電車にのってからも、ドキドキがとまらない。雨の日で湿気が多いこともあってか、気分がすぐれない。仕事場まで、ドア・ツー・ドアで約40分。着くまでのガマンだ。新橋で地下鉄にのりかえる。いつものように階段で渋滞している。運よく、すぐのりかえることができた。新橋から虎ノ門までのたった1駅が、ひどく長く感じた。改札を出て、階段をのぼって、地上に出る。ふう、無事脱出。あとは、自分のペースで歩いていこう。

 仕事場のデスクでメールをチェックしているうちに、むくむく元気がわいてきた。きょうもぼちぼち、がんばりますか。午後からはじまる打合せの準備をしよう。ものを考えたり書いたりしていたら、だんだん落ちついてきた。

7月6日、子ども先生。(妊娠14週3日)

 髪を切りに行った。1か月ぶりの美容室だ。いつもかよっているところではなく、ホテルに併設されている新しい店へ向かった。いつもお世話になっている美容師さんが、独立したのだ。わたしだけでなくいろいろな人が、変化の時期をむかえている。席につくとまず、妊娠していることを伝えた。
「おーっ、おめでとうございます」
「ありがとうございます」
美容師さんは、二児の父親だ。4歳と1歳になるふたりの娘さんをもつ、お父さんだ。わたしよりもずっと若いが、ずっと先輩だ。きょうは、いろんな話をきいてみよう。きっと、彼ならではの子育て論があるにちがいない。

「子どもには、ホント、日々教えられていますよ」
「子どもに、教えられる」
「そうなんです、子どもは、親の鏡ですよ」
子どもがやっていることすべてが、お父さんとお母さんの日ごろの言動をもとにしている。ここはお父さん、ここはお母さん。と、はっきりわかるくらいだという。だから、子どもをしかっているときには、自分もしかられている気もちになるんだ。と教えてくれた。そんな気もちになるんだなあ。
「だから、自分を反面教師にするんですよ」
「そりゃまた、極端ですね」
「ま、自分がいやだったことは子どもにはしない、とかね」
「なるほど、そういう意味ですかー」
美容師さんは自分の生まれ育った町にいまも暮らしているが、自分のかよっていた幼稚園ではなく、別のところに決めたそうだ。
「母親がすごく反対してね。そこに決めるんだったら、孫の送り迎えはしないからって。手伝わないからって」
「おばあちゃんは、孫にも息子とおなじ幼稚園にかよわせたかったんだ」
「おとなから見ると、環境いいんですよ」
「おとなから見ると」
「そう。清潔にするのがモットーだから」
「きれいな幼稚園、かあ」
「きれいなママもいっぱいですよ」
「なんか、想像できますねえ」
子どもには、いっぱいあそんでほしい。ちょっと汚しただけでも神経質になるような幼稚園ではなく、思いっきり自由にあそべるところにしよう。と考えたそうだ。いま娘さんがかよっている幼稚園では、たとえば、バケツにたっぷり入った絵具に両手をひたして、床いっぱいひろげた紙にペタペタ絵を描いたりしてあそんでいる。たのしそうだなあ。お友だちが誕生日をむかえたら、みんなの手のひらで描いた絵でお祝いするそうだ。おかげで、みんながなかよしなんだそうだ。すきなことができて、友だちもたくさんできる。子どもにとってこんなにうれしい環境はないだろう。

「神戸さんは、仕事つづけますよね」
「そう、ですね」
「そうなると、保育園や、幼稚園も、じっくり考えたほうがいいですよ」
「距離や、時間で、考えていたなあ」
「それも大切ですよね」
「完全に、親の都合で考えてたかも」
「気もちわかりますよ」
「でも、かようのは親じゃなくて、子どもですもんね」
「そうそう、そうなんですよ」
目からぽろぽろうろこが落ちる音がした。わたしよりもずっと若いが、ずっと先輩のお父さんにたっぷり教わった。はい、参考にさせてもらいますよ。

7月5日、指が長い。(妊娠14週2日)

 9時半から、妊娠検診。5時からサッカーの試合を見ていたので、よゆうで準備できる。と思っていたのだが、ぎりぎりになってしまった。婦人科の受付で、健康保険証と診療予約カードを提出する。
「妊婦健康診査受診票はありますか」
「あ、はい」
「1回ぶんだけ切りとって、記入してきてくださいね」
「すみません」
「あと、母子健康手帳も」
そうだ、そうだ、4点セットだ。おぼえておかないと。受付を済ませると、前回とおなじように血圧と体重を測って、名前をよばれるまで待つ。だんなは本を読みながら待っている。わたしも本をもってくればよかった。

 ベッドのある診察室に案内された。だんなもあとからやってきた。これも前回とおなじだ。しばらくして、経腹エコー検査がはじまった。
「分娩の予約、どうなりましたか」
「予約はとれたんですが、初診が7月23日までいっぱいで」
「そうですか」
先生には、ほかにすすめたい病院があったようだ。分娩の予約ができたことを伝えたとたん、会話がとだえてしまった。先生すみません。でも、病院をかえる気はない。いっぽうだんなは、目をきらきらさせてモニターを見ていた。
「おぉ、元気そうですねえ」
「順調ですね」
「大きくなったなあ」
モニターはだんなに向いていて、わたしからは見えない。先生とだんなの会話をきいていた。きょうのそうすけは、どうやら眠っているようだ。
「あ、動いた」
「起きたのかな」
「あ、いま、手を動かしているよ」
そろそろ、わたしも見たいんですけど。ひととおり会話が終わると、こちらにモニターが向けられた。
「順調ですよ」
元気そうで、よかった。でも、わたしのときは、じっとしている。
「おとなしいですね」
「寝てますね」
「子宮筋腫、だいじょうぶですか」
「いくつかありますが、まあ、心配ないですね」
念のため、筋腫のサイズをたしかめてくれた。いまのところ大きさはかわっていないようだ。ほっとした。

「そうすけ、きれいな手をしていたなあ」
ランチをたべながら、だんながうっとりしている。わたしは見ていない。
「どんな手だった」
「指が長かった」
「じゃあ、わたし似だ」
だんなの指は短い。わたしは長い。ついつい、勝ちほこった気分になる。
「グー、パー、していたよ」
「グー、パー」
「そうそう、グー、パー」
ふたりで、そうすけのまねをしてみる。指が長い。やっぱり、わたし似だ。似ていて、よかった。そうすけが生まれたら、3人で、グー、パー、しよう。

7月4日、歯のお手入れ。(妊娠14週1日)

 歯のクリーニングに行った。1か月半おきにかよっている。いつもお世話になっている歯科衛生士さんに妊娠していることを伝えた。
「えーっ、おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「うれしい。すごい。うれしいですねえ」
歯医者でふたり、わっと盛りあがってしまった。歯科衛生士さんはいま30代の前半で、彼氏募集中だそうだ。早く子どもがほしい、という。
「妊活されてましたか」
「してる時期もあったんだけど。そのときはだめで」
「じゃあ自然に」
「そうだね、びっくりですねえ」
「すごい、すごい。とうとう、そのときが来たんですねえ」
「来ちゃいましたねえ」

妊娠中も歯のメンテナンスをつづけたほうがいい。妊娠すると黄体ホルモンや卵胞ホルモンがふえてくる。じつは、これらの女性ホルモンは、歯周病菌の大好物。そのため、妊娠しただけで歯ぐきから血が出やすくなったり、歯周病にかかりやすくなったりする。こまったものだ。また、妊娠するとからだの免疫力が低下する。歯や歯ぐきもおなじで、よわってくる。そのうえ、だ液の分泌量が減るため、酸を中和するだ液のちからも低下してしまう。口のなかが酸性になると、歯のエナメル質が溶けだして、むし歯になりやすくなる。この悪循環をなんとかくいとめなければ。いままでどおり、歯のメンテナンスには定期的にかようことにしよう。先手先手で対応しておくほうが安心だ。
「ホワイトニングはお休みしましょう」
「えっ、なんでですか」
「やっぱり薬品をつかいますから」
妊娠中のホワイトニングがよくないというデータはないけれど、だいじょうぶだというデータもないので、おこなわない。妊娠は、なにかと気づかう。

7月3日、とうもろこし。(妊娠14週0日)

 仕事帰りに、駅前のスーパーでとうもろこしを2本買った。じつはこの数日ほど、ずっとたべたくて気になっていたのだ。レトルトではなくて、あっつあつのゆでたてがたべたい。その気もちにこたえるかのように、あつあつゆでたてのとうもろこしが売り場にならんでいた。あつすぎて、手にとるのもためらうくらいだ。うれしい。ありがとう。お持ち帰りさせていただきます。だんなのぶんもあわせて、2本。の、はずだったのに。それも、あとでだんながたべるから、と別々にしまっておいたのに。2本ともたべてしまった。
 以前から、とうもろこしはすきだったけれど。一気に2本たべてしまうほどではなかった。なのに。もう1本買っておけばよかった、と思う。あしたのぶんも買っておけばよかった、とさえ思う。こんなにたべたくなるなんて。そうすけがほしがっているのかな。そういえば母は、つわりがひどかったころ、スイカととうもろこしばかりたべていたという。スイカととうもろこしだけは、どれだけたべても平気だったそうだ。その様子を見た兄が、わたしのからだの半分はすいか、半分がとうもろこしでできている、と、よく笑っていたもんだ。

 とくに妊娠5か月から8か月になると、たべものに対して、偏食的な欲求がはげしくなるらしい。いままですきだったものが突然きらいになったり、たべたこともなかったものを急にたべたくなったり。からだが本能的に、ほしいものとほしくないものを仕分けるようだ。健康的なものばかりではないから、ふしぎ、ふしぎだ。たとえば、フライドポテトやポテトチップス。これをたべてつわりがラクになったと話す妊婦は多い。フライドポテトが無性にたべたくなるママには男の子が産まれる、という、うわさもある。科学的根拠はないといわれているが。たとえば、トマト。わたしもすき。きゅんとした酸味がちょうどいい。このごろトマトにもいろんな種類があるから、あきることなくたのしめる。フルーツのようにあまいものから、ザ・野菜と呼びたくなる青味と酸味がつよいものまで。たとえば、ソーダ。炭酸水のあのしゅわしゅわが、つわりのときにものみやすいと人気だ。げっぷが出てラクになるところもいい。わたしも、ノンアルコールビールにノンアルコールカクテルに、ほぼ毎日、炭酸系のお世話になっている。ほかにも、フルーツだったり、チョコレートやアイスクリームだったり。ふしぎ、ふしぎ、子どものだいすきなものばかりだ。

7月2日、通勤の心得。(妊娠13週6日)

 いつもより30分早く家を出て、仕事場へ向かう。5時からワールドカップのベルギー対アメリカ戦を観ていたので、時間によゆうができたのだ。キックオフのタイミングにあわせて起きるようになってから、すっかり朝型の生活がつづいている。いい傾向だ。あしたとあさっては試合がないんだっけ。寝坊しなければいいのだが。遅刻と無縁の生活になるのはいいが、朝型をキープできるかどうか。できないだろうな。まずはいま、健康的な朝をたのしむことにしよう。
 30分早く出たからといっても、電車はやっぱり混んでいる。JRから地下鉄へ乗りかえるときに、注意ポイントが2か所ある。1つは、改札から改札へ移動するときの下り階段だ。ここは、みんなが急いでいる。歩く速度がちがうと、あやうくぶつかりかねない。もう1つは、地下鉄の改札からホームへ移動するときの下り階段。ここは、人が渋滞している。押し合いへし合いに巻きこまれると、たいへんだ。ゆとりをもって、慎重に歩こう。もちろん、駆けこみ乗車はしない。混んでいる電車は見送るくらいが、ちょうどいい。
 このごろ、マタニティマークをつけている女性をよく見かけるようになったと思う。気をつけて見ているからかもしれないが。たしかにマタニティマークを活用する機会がふえてきているように感じる。きっとこのマークがそれなりに効力を発揮しているのだろう。後輩の先輩も話していたが、おなかがめだたないときにこそ、マタニティマークをつけるといいそうだ。妊娠初期につわりがひどくても、見ためでは妊婦中だと気づいてもらえなかったり、気分がわるいので座らせてください、と、いえなかったりするからだ。わたしはそのタイミングをすぎてしまったけれど、これからも必要に応じて、マタニティマークのちからを借りたい。いつだって、自分のからだは自分じゃなければまもれない。
 マタニティマークは、母子手帳といっしょに配布されている。もしなくしてしまっても、首都圏の駅でもらうことができるらしい。改札にいる駅員さんに話すと、すぐ新しいものをくれるそうだ。世の中、やさしくなったなあ。