Diary

にんしん日記

44歳で妊娠、45歳で出産した神戸 海知代の妊娠・出産・子育てせきらら体験記。
妊娠を知った2014年6月6日からまる1年、1日も休まずつづった記録です。

5月7日、ヨガに復帰。(生後134日)

 ヨガに復帰した。前回のレッスンが去年の12月22日だから、ちょうど4か月半ぶりになる。きょうまでなんにもしてこなかった。思ったとおりにからだは動くのだろうか。レッスンの前にインストラクターさんから説明があり、うつぶせのポーズだけマタニティヨガに変更してくださいとのこと。おっぱいが張ってポーズがとりにくくなるからだそうだ。とくに完全母乳に近いかたちで授乳しているわたしは、痛いほど張るので気をつけてくださいね、レッスンのあとにシャワー室で搾乳するといいですよ、といわれてドキドキした。そんなにかわるんだ、産後のからだって。なるべく負担をかけないようにするため、マタニティヨガとおなじスタジオ後方の入り口付近にスペースをとって準備した。あたためられた部屋のなかでゆっくり水をのみながら、汗の出をチェックした。

 以前よくおなじレッスンを受けていた常連さんが、もともと太っていなかったのにさらにムダな肉を落として、スーパーモデル体型になっていたのでおどろいた。なんとすばらしい緊張感をたもっているのだろう。姿勢がいいのでなおさら美しさがきわだっている。この4か月半、かわらずヨガをつづけてきた成果にちがいない。やる気が底上げされた気もちだ。とにかく、つづけてみよう。

 90分間、長いとは感じなかったが、インストラクターさんのかけ声のテンポにあわせてポーズをとるのが精いっぱいだった。26のポーズの6番め、スタンディング・ヘッド・トゥー・ニーで、すでにひざがぷるぷるふるえてきた。ひざを支えている筋力がこんなに低下しているとは。おなかまわりのぶよぶよがポーズをとるたびにじゃまをする。このぶよぶよがすぐになくなるとは思えないが、気にならなくなる日をめざしていこう。おっぱいの張りは、ヨガをしているときよりも終わってからのほうが強烈に感じた。溜まり乳から差し乳にかわってきたんでしょうね、とインストラクターさんが教えてくれた。だとしたら、すごくうれしい。差し乳は、赤ちゃんがのむときにあわせておっぱいがつくれる。いつでも一番搾りがのめちゃうわけだ。ヨガをつづけることで、おっぱいもきたえられるならウェルカムだ。レッスンのあとシャワー室で搾乳しながら、しばらくこのペースでムリせずにつづけてみようとあらためて思った。

5月6日、新車乗り換え。(生後133日)

 ゴールデンウィークも、きょうで最終日をむかえる。締めくくりにふさわしいイベントをしたいねえ、というわけで、新車を乗り換えるためにベビー用品専門店へ行った。もちろんベビーカーのことだが。いままでのベビーカーは、生後1か月から乗ることができて赤ちゃんを寝かせたままの状態で移動する、いわゆるA型ベビーカーをレンタルしていた。首がすわって腰かけられるようになるとB型ベビーカーに乗ることができる。いよいよそうすけも、B型ベビーカーでデビューできるお年ごろになったんだなあ。

 ベビーカーには、いろいろなタイプがある。安全性を重視したもの。軽量でコンパクトなもの。折りたたみがしやすいもの。デザインが美しく色がきれいなもの。レンタルでベビーカーをつかっているときにつくづく感じたことがある。親の目線でつかいやすさを考えるより、子ども目線で乗りごこちや安全性が高いものを考えて選んだほうが長くつかえる。ベビーカーを押して移動していると、歩道がガタガタしていたり、歩道から車道への段差があったり、赤ちゃんにダイレクトに衝撃が影響する場面が多いからだ。

 スペックずきなだんながすでにいろいろ調べて、どのベビーカーにするかを決めていた。タイヤが太く振動しにくいベビーカーを選んだ。店員のおねえさんに念のため確認をして、その場で購入を決めた。オプションで、背中にのせるシートや荷物掛けのフックもあわせて購入することにした。そうすけはいつものとおり、かわいい笑顔でおねえさんのハートをロックオンしていた。

 ベビーカーの色は、ピンク、オレンジ、グリーン、モカ、グレーの5種類があるそうだ。モカ、ピンク、グレーが人気で品薄だという。あした連休が明けてからメーカーに問い合わせて、取り寄せることになるとのこと。だんなと相談してグリーン、モカ、オレンジの順に希望を入れた。グリーンならすぐに乗ることができそうだ。あしたの電話が待ちどおしい。雨の日にも明るくたのしい気分でおさんぽがたくさんできますように。

 新車を手に入れて満足したのだろうか、そうすけは帰りのベビーカーにゆられながら、くうくう寝息をたてていた。早く新車でおさんぽしたいね。

5月5日、公園デビュー。(生後132日)

 そうすけの熱が36度台に落ちついてきた。気になっていたせきも、鼻水も、あともうすこしのしんぼうだ。本人はいたって元気な様子。部屋のなかにこもってなんかいられないぜ、と気迫さえ感じる。そうだ、きょうは子どもの日。そうすけが主役の日なのだ。いままで行ったことのない公園に出かけてみよう。はじめての体験なので、公園デビューといってもいいかもしれない。

 家から歩いて20分ほどのところに、かいじゅう公園とよばれる、大きな恐竜のオブジェが子どもたちに人気の公園がある。片道20分なら、連休の運動不足にもちょうどいい。さっそくベビーカーで出かけよう。おさんぽできるとわかったとたん、そうすけは大よろこび。わたしが身支度にもたもたしていると、早く出かけようよ、あー、うー、と、だんなといっしょに催促されてしまった。せめて日焼け止めだけはぬっておきたい。ベビーカーをぐいぐい押して二の腕を刺激するようにしながら、やや早足で目黒川の川沿いを歩く。ときどきジョギングをする人とすれちがう。そうすけはさわやかな笑顔であいさつをかわしていた。生まれながらにしてスポーツマンシップを抱いているようだ。

 公園に着くと、たくさんの子どもたちがお父さんやお母さんといっしょにあそんでいた。走りまわってころんで笑っている男の子、ブランコをぐんぐんこいでいる女の子。ほんとうに、たくさんきてるなあ。平日の保育園を見ているみたいだ。これでも少子化なんだろうか、と疑いたくなるほどだ。そういえばきのうのニュースで、日本の15歳未満の子どもの数が34年連続して減少していると報道していた。それでも東京だけは去年よりもすこしふえてきているらしい。そうすけがおとなになったころには、どうなっているんだろう。

 8体ある恐竜のオブジェのどれを見せても、そうすけはあんまりときめかないようだ。だんなが声をかけると、その瞬間はじっと見ているのだが。まだ早いのかも。野球がすきらしい、と、だんながいう。テレビで野球中継、とくにメジャーリーグの中継を見るとき、ものすごく集中しているからだという。でも、公園の隣りにある野球場で少年野球の試合が行われて盛りあがっていたが、それには興味をしめさなかった。メジャー志向なのかもしれない。

5月4日、空気を読む男。(生後131日)

 いい天気だ。そうすけの体調もだいぶよくなってきたので、ちょっと遠出をすることにした。遠出するといっても、大崎から川崎までの電車で15分の距離なのだが。だんなが後輩から、川崎のショッピングモールでかわいいベビー服がリーズナブルな価格で手に入る、ときいてきた。こういうおトク情報には、だんなもわたしも目がない。まずは行ってみないと。午後1時、電車が比較的空いている時間をねらって移動することにした。電車のドアのそばで、そうすけをベビーカーから出してだっこして外の景色を見せると、目をまんまるくして流れゆく風景を見ていた。はじめての体験にワクワクしている。

 ショッピングモールは、たくさんの人でにぎわっていた。ベビーカーで来ている親子連れの多いこと、多いこと。ぶつからないように気をつけてすすむだけでも、せいいっぱいだ。ゆっくり数店まわって、そうすけの夏用の服を何枚か購入した。ちょうどおやつの時間になったので、おっぱいをあげることにした。授乳室も大にぎわいだ。おっぱいをあげて、おむつをかえて、ついでに近くにあった体重計で体重をはかったら、のむ前よりしっかりふえていた。えらいぞ、そうすけ。そうすけも満足そうにベビーカーで昼寝をはじめた。親のわたしたちも小腹がすいたので、おいしいおやつをいただくことにしよう。

 ガレットとクレープの店に入った。ウエイトレスさんが2人がけのテーブルをすこしずらして、隣りのテーブルとのあいだにスペースをつくって、そこにベビーカーを置かせてもらった。隣りのテーブルには、小学1年生くらいの女の子とおじいちゃん、おばあちゃん、ひいおばあちゃんがなかよく座っていた。わたしたちがオーダーを終えるやいなや、かわいいねえーとみんなが話しかけてくれた。そうすけも4人に向かって笑顔をふりまいている。
「いま何か月ですか」
「ついこの前4か月になったところです」
「そうなの。大きく見えるわねえ」
「そうすけっていいます」
「あらホントだ。そうすけくんっぽいお顔をしてるわねえ」
そうすけっぽい顔ってどんな顔なんだろう、とぼんやり思いながら会話をたのしんだ。そのあいだもそうすけは、自分が主役になっていることに気づいているのだろう、みんなに笑顔をふりまいている。そればかりか4人がほかの話題にうつると、こっちを向いてよとばかりに手足をぱたぱたしてアピールした。

 帰りに駅でエレベーターを待っていると、またもや、通りすがりのふたりのおばあちゃんが、かわいいねえーと声をかけてくれた。そうすけは空気を察したのか、またもや笑顔をふりまいた。家に帰ったのは午後6時過ぎで、そうすけ史上最長5時間のおさんぽになった。よくがんばったなあ。家に帰ってからも興奮冷めやらずで、ついには泣きだしてしまった。それは風呂に入るまでつづいて、入ったとたん、ぶりっと放出した。ああ、ほっとしたね。

5月3日、つよく、たくましく。(生後130日)

 かぜというひとつの試練をのりこえたからだろうか。そうすけがおにいちゃんぽくなったように見える。といっても、まだ生後4か月を過ぎたばかりで微々たる変化なのだが。だんなもおなじことを感じていたようだ。きょうも朝風呂に入っているとき、シャワーをかけても泣かなかった。それどころか、シャワーを胸にあててあげると顔をくしゃくしゃにして笑っている。かぜ薬をのませても苦そうな顔をするだけで泣かなくなった。おっぱいのあとでベッドに寝かせてもちょっとぐずるだけで、あー、うー、あー、うー、と、ひとりであそんでいられるようになった。このつよさ、いったいどこから生まれてきたのだろう。

 よーし、この調子ならと、だんなが電動鼻水吸引器をとりだしたが、これはどうしてもニガテらしい。大泣きしながら、身をよじっていやがる。鼻水をとったあとは、けろっとしているのだが。小児科でもらった薬のおかげで、吸引器になれる前に鼻づまりも治まりそうだ。連休のあいだに完治できますように。

 静岡のおばから、釜揚げしらすがとどいた。だんなの酒のつまみにと、母が電話でオーダーしてくれたのだ。大きなパックがふたつ入っている。今夜はしらす祭りだ。大根を2分の1本おろしてスタンバイした。大根おろしをたっぷり小皿にとって、しらすを盛って、まんなかに卵黄をのっけて、しょうゆを少々。これだけで立派なごちそうになる。しらすの栄養がわたしのおっぱいをとおしてそうすけにとどけられる。ますます、つよく、たくましくなれそうだね。

 母からメールがきた。そうすけのことを心配している。
「そうすけ、保育園で食欲がなかったっていっていたけれど、環境がかわったからかもしれないね。いままで親の顔しか見ていなかったものね。大勢のなかにいることがなれてきたら、もうだいじょうぶ。そうすけも、いろんな試練をのりこえて大きくなるんだね。親としては見ていてつらいこともあるけれど、ふんばりどころだよ。みんなこうしておとなになるんだから。気になるときにはしっかり抱きしめてあげてね。子どもはどんどんなれていくから、見まもっていればだいじょうぶだよ。そうすけに会える日がいまからたのしみです」

5月2日、ちょうど一年後。(生後129日)

 いよいよゴールデンウィークがはじまった。SNSを開いたら、みんな思い思いに連休をたのしんでいる。ダイビング仲間が海で撮った写真をつぎつぎにアップしていた。写真を見るだけで、潮の匂いや光、水温、水圧が、まるでそこにいるかのように、あたまからつま先まで感じられる。海、海、海に行きたい。もちろん、この連休に行けないのはあたりまえだが。いつかそうすけがダイビングをたのしめる年になったら、親子3人でもぐりたい。中性浮力をとりながら手をつないで写真を撮りたいなあ。その日が待ちどおしい。

 去年の5月2日には、まだ妊娠に気づいていなかった。夜、那覇に入り、翌日からの粟国島ダイビングに向けて準備していた。粟国島での体験は、生まれてはじめてだといいきれるほどすばらしいものだった。まるで、海のなかで盛大なお祭りが開かれているみたいだった。ギンガメアジ、ロウニンアジ、イソマグロ、ナポレオンフィッシュ、カマス、カスリハタ、ヤイトハタ。巨大なトルネードが変幻自在に動きながら、わたしたちにすり寄ってくる。まるで、話しかけられているみたいだった。歓迎してくれたのだろうか。いまから思えば、新しいいのちの誕生を祝ってくれたのかもしれない。いや、わたしが気づかずにいたから、おなかに赤ちゃんがいますよと教えてくれていたのかもしれない。けっきょく滞在中はずっとダイビングをしていたが、夜になったら眠くなって、すきなビールもそこそこにぐうぐう眠っていたんだっけ。

 あれから1年。いまこうして、そうすけといっしょに暮らしていることをいまも奇跡に感じている。粟国島で見たトルネードのように、大きな流れのなかにのみこまれている感覚だ。でも、ふしぎといごこちがいい。流れに逆らうことなく自由自在に泳いでいけそうだ。きっと、だいじょうぶ。これからもうまくやっていけるだろう。きょうのそうすけは平熱にもどったが、せきと鼻水はもうちょっと残っているので、大事をとってゆっくり過ごすことにした。あたたかくなってきたので、あせもに気をつけよう。昼間、買いもののついでにすこしだけおさんぽをして、シャチのかたちのバルーンを買った。ふわふわ空を泳ぐシャチを見ながら、そうすけがはしゃいでいた。家に帰ると、バルーンのひもをひっぱってシャチが動くたびに、きゃっきゃっ、と大よろこびしていた。

5月1日、ほめてのびる。(生後128日)

 ママ友だちからつぎつぎと、かぜの情報が寄せられた。いま保育園でかぜが流行っているらしい。それだけでなくインフルエンザも流行っているそうだ。子どもからインフルエンザをもらってダウンしている親がたくさんいるんだとか。たいへんだなあ。しかも、たいていうつった親のほうが子どもより重い症状になっているという。若さのちがいだったりして。調べてみると、子どものころにはまだ免疫の寛容のようなものがあってかるい症状で済んでしまうところが、おとなになると免疫の有無がはっきりしてきてウイルスと真っ向勝負してしまうからたいへんだ、と書かれている記事があった。たしかにおとなになればなるほど、からだもこころも融通がきかなくなってくる。

 そうすけの熱は37.1度まで下がった。鼻水とせきはちゃんと治るまでもうすこしかかりそうだ。あしたから連休に入るので、念のため小児科で診てもらうことにした。14時30分過ぎに小児科のウェブ受付をした。いま受付しておけば夕方には診てもらえるだろう。167番の受付番号をもらって、診察を受けているのが103番だった。これっていまから64人待ちってことになるんですよね、とつい受付で質問してしまった。連休前の診察ラッシュほどこわいものはない。診てはもらえるけれど、夜まで待つかもしれない。のんびり待つことにするか。

 待っているうちに、だんなが帰ってきた。心配だったのか、いつもよりも早めに帰ってきてくれた。ウェブ受付を確認すると、あと7人ほどで順番がまわってきそうだった。ちょうど電話の応対でばたばたしていると、だんなが、そうすけと小児科に行ってくるよと、ぱっと着がえて出ていった。わたしも遅れて小児科に顔を出すと、ロビーにふたりの姿はなく、ちょうど診察を受けているところだった。診察室から出てきたふたりが笑顔だったのを見てほっとした。
「どうだった」
「よくなってきてるよ。抗生剤はいまの薬をのみきればだいじょうぶ」
「よかった」
「のどと鼻に効く新しい薬とあせもにぬるクリームを出しますって」
「胸のあせもまで診てくれたんだ」
「あと笑顔がかわいいねえってほめられたよ。うれしいねえ、そうすけ」
だんなも、そうすけも、顔がにまにましていたのはそれだったのか。ほめられるとのびるタイプにちがいない。そうすけも、だんなも、わたしも。

4月30日、ちがいは吸引力。(生後127日)

 きのうは朝風呂に入っていったん熱が下がったが、午後にまた38.5度まで熱があがったので座薬も入れた。これがよく効いてきたのだろうか、するすると熱が下がった。熱が下がると、そうすけがあそびたいモード全開になる。ちゃんとかぜを治してからね、といっても伝わらない。気分転換に、近くのベビー用品専門店で買いものをかねて、おさんぽに出かけた。そうすけは、いつも以上にごきげんで元気そうに見える。まるで、かぜをひいていないみたいだ。

 ベビー用品専門店で、だんながなにかを探していた。電動鼻水吸引器がほしいという。たしかにあると便利だ。きのうはまる1日、そうすけがくしゃみをするたびに鼻水をティッシュでふきとり、シューシューと息苦しそうにしているとこんどはティッシュでこよりをつくってくしゃみをさせて鼻水をふきとっていた。それでもなかなか追いつかなかったので、吸引器の出番というわけだ。チューブを子どもの鼻に差しこみ、親が反対側のチューブを口で吸って鼻水をとりだす、アナログタイプのものもある。が、保育園にかよってかぜをしょっちゅうもらうようになると鼻水がたくさん出るため、奥のほうまですっきりとれにくくなる。とネットのレビューに書いてあるよと、だんなが熱心に語っていた。よく調べているなあ。だったら、口コミで支持されている電動のものにしよう。値段はちょっと高いが、長い目で見ればいい買いものになるだろう。体温計も新調した。いま持っているものは耳のなかに体温計の先端を入れて測るタイプだが、左右の耳でちがっていたり、おでこをさわると高熱を感じるのに34度と出たりするので、精度の高い電動のものでこめかみで測る非接触体温計を選んだ。家に帰ってさっそく測ってみると、かぜをひいているそうすけは37.2度、わたしは36.6度、だんなは37.3度。3人のなかで、だんながいちばん高熱だった。それを知ったとたん、だんなはがっくりと肩を落とした。

 さっそく電動鼻水吸引器をつかって鼻水をとろうとすると、そうすけは音の大きさにびっくりして身をよじっていやがった。いやがり度数でいうと、薬をのむことのつぎくらいだろうか。しかしいったん鼻水をとりのぞくとすこぶるごきげんで、すとんと眠りに落ちてしまった。すやすやと眠る顔を見ながら、たまった鼻水のストレスは相当のものだったんだなあとあらためて感じた。小さいからだでいっしょうけんめい、かぜとたたかっている。

4月29日、はじめての投薬。(生後126日)

 そうすけは、もっている男だ。生まれてくるときにも天皇誕生日の祝日に産気づいて、だんなが立ち会うことができた。はじめてのかぜは、昭和天皇の誕生日である昭和の日。またまただんなの休日で、まる1日いっしょにすごすことができちゃうわけだ。まずは小児科からもらった薬をそうすけにあげることにした。ピンク色の粉薬を手のひらで少量の水と混ぜてだんご状にすると、それをわたしの指にのせてそうすけの口の奥に入れる。じょうずに入れることができなくて、そうすけの口のまわりが薬のピンク色に染まっている。だんながそれを口におしこみ、白湯をそうすけの口に流しこんだ。そうすけは大泣きだ。でも薬をもうひとつのまなくてはならない。さっきの薬は抗生物質で感染症を治すもの。こんどの薬はせきや鼻水をとめるもの。スプーンにのせて水で溶かして、そうすけの口に流しこんだ。こちらのほうが苦いのか、もっと大泣きしている。すぐにおっぱいをあげた。鼻水をぐじゅぐじゅさせながらいっしょうけんめいにのんでいる。ほんとうにごめんよ、そうすけ。

 夜が明けて、そうすけの熱を測ると37度にまで下がっていた。ロンパースが汗でびっしょりだったので、風呂に入れることにした。小児科の先生からも37度まで熱が下がってきげんもよければ風呂に入れてもいい、とアドバイスをもらっている。だいすきなおふろで気分転換しよう。鼻水もとってきれいにしよう。そうすけはすっかりごきげんで、にこにこ笑顔を見せるまで回復してきた。風呂から出てベビーベッドに寝かすと、あー、うー、あー、うー、とはしゃいでいた。いつものそうすけにもどってきた。いつもとすこしちがうのは、鼻水が出ることくらいだ。ただこれがやっかいで、くしゃみをするたびにどさっと出る。しかもそれはすぐに、そうすけの鼻のなかに吸いこまれてしまう。そのままにすると、ふが、ふが、と息苦しそうなので、くしゃみのたびにティッシュでふきとらなければならない。鼻水をふきとるとうれしそうな顔で、あー、うー、あー、うー、とこたえてくれる。かぜが治るまでもうすこしのがまんだ。きょうは1日そうすけとゆっくりすごそう。

4月28日、熱が出た。(生後125日)

 やっぱり、そうすけに熱が出てしまった。前回のワクチンのあとにも38度を超える熱が出たが、今回も38度をかるく超えてしまった。午後1時から大事な打合せが待っている。相手はこのためにきょうの朝、新幹線で京都から移動してきているのだ。体温が37.5度を超えると、保育園ではあずかってもらえない。病児保育をたのむにも生後6か月からなので、いまのそうすけをケアしてもらうことはできない。当日で申しわけないけれど打合せを延期してもらおうか、などと考えあぐねていると、だんなが12時半から4時までだったら家にもどって世話することができるといってくれた。だんなが神さまに見えた。

 熱が出てごきげんなななめのそうすけを、あやしたり、おっぱいをあげたりしているうちに、時間がすぎていく。そろそろ身支度をしなければとあせっていたら、12時半には帰るといっていただんなが12時前に帰ってきてくれた。ありがたや。そうすけはまだ高熱のままだったが、わたしが出かけるときにはにんまり笑顔で見送ってくれた。ごめんね、そうすけ。うしろ髪をひかれる思いで打合せに向かった。移動中の電車のなかでちょっと気がかりなことを感じていた。前回のワクチンのあとの高熱とは、ちがうところがある。すこし鼻水が出てせきもしていたのだ。わたしのかぜがうつっているかもしれない。

 午後4時10分ごろに帰宅した。だんなを待たせてしまった。わたしが不在のあいだ、そうすけはミルクを2回に分けて180ccのんで、おしっこを2回、うんちも1回立派なのをして、元気そうだった。だんなはそれだけ話すと、すぐに仕事へ向かった。しかしそれからのそうすけは、鼻水がとまらなくなり、せきもよく出るようになった。いまなら小児科も開いている。さっそくウェブ受付をした。祝日前ということもあるのか、なんとこの時間でも30人待ちになっていた。診療時間は午後7時までなのだが、ほんとうにそうすけは診てもらえるのだろうか。待っているうちにだんなが帰宅した。クリニックから携帯電話に呼び出しの連絡がきたのは、午後8時を過ぎたあたりだった。そうすけは眠っている。だんなにそうすけをだっこしてもらってクリニックにかけこんだ。

 やっぱり、わたしのかぜがうつっていた。念のため、感染症やインフルエンザにかかっていないか検査しておきましょう、と小児科の先生がそうすけの鼻に長い綿棒を挿しこんだ。そうすけが泣き叫んでいる。綿棒は鼻水を吸いこんで、うどんのようにふくらんでいた。さらに検査をするため、看護師さんが足の裏から採血をした。そうすけが激しく泣いた。結果がでるまで5分ほどお待ちくださいといわれたが、その5分が、5時間にも、50時間にも感じられてくる。看護師さんによばれて診察室へ入ると、先生から検査結果が伝えられた。アデノウイルス、インフルエンザ、RSウイルス、ヒトメタニューモウイルス、すべて陰性ですよとのこと。ほっとした。重篤な疾患はないが炎症反応を示すCRPの数値が高い。抗生物質をのんで様子をみることになった。