Diary

にんしん日記

44歳で妊娠、45歳で出産した神戸 海知代の妊娠・出産・子育てせきらら体験記。
妊娠を知った2014年6月6日からまる1年、1日も休まずつづった記録です。

4月27日、4か月ワクチン。(生後124日)

 朝7時に小児科のウェブ受付をする。きょうは、生後4か月のワクチンを受ける予定だ。ほんとうは土曜日の午前中に行くつもりだったが、7時10分に入力をしようとHPを開いたところ、すでに定員を超えて受付を終了していた。月曜日なら午後も診察をしているから、かならず入れるだろう。それにしてもこの混みぐあい、人気アーティストのコンサート並みだなあ。病院といえばいつも並んでいるイメージがあるが、10分で完売するチケットに置きかえると、どんなアーティストに出てもらえるだろう。需要の高さをあらためて実感する。

 生後4か月には、ヒブ、小児用肺炎球菌、4種混合ワクチンを受ける。前回のワクチンで熱が出たので今回も出るかもしれない。覚悟しておこう。
「なにか気になることはありますか」
「すみません、またわたしが、かぜをひいてしまいまして」
「そうすけくん、元気だね。だいじょうぶでしょう」
「すみません」
「かぜの症状が出てきたら、治しますから」
金曜日の審査会が終わってから、鼻水とせきが出るようになった。またかぜをぶりかえしてしまった。免疫力が弱っているのだろうか。子どもがワクチンを受けにきているのにお母さんがかぜをひいているなんて。たいへん申しわけない気もちだ。3種類のワクチンが手際よく打たれていく。そのたびに数秒おいて、そうすけが泣きだす。左腕と、右腕と、右肩に注射した。やっぱり肩は痛いらしい。泣き声がいちだんと大きい。しかし、すぐに泣きやんだ。
「はい、おしまい。つぎは、5月25日以降ですね」
「ありがとうございます」
5月25日は、出社日になる。ワクチンはその週の土曜日に受けることにしようかな。復帰まで1か月をきっている。まずはかぜを完治させて、体力をつけなければ。このままではまわりに迷惑をかけるだけだ。集中して密度の濃い仕事をしていれば、家族とすごす時間もたっぷり確保できるだろう。いまの症状がおさまったら、からだを動かすようにしよう。ヨガもはじめよう。

4月26日、ジャンプ、ジャンプ。(生後123日)

 親子3人で朝風呂に入りごはんをたべたあと、これまた親子3人でぐうたら昼寝ならぬ朝寝をしていると、ドアチャイムが鳴った。宅配便だろう。きのうの朝にもきて、だんなが通販で買ったトースターがとどいた。うちにはいままでトースターがなかった。そうすけが生まれるまでは、朝はたべずにホットヨガへ行って帰りに外で昼ごはんをたべていた。そうすけが生まれてから、きちんと朝食をとるようになった。パンがすきなので、近所のパン屋さんで焼きたてパンを買っていた。が、そうすけは朝早くから活発なので、パン屋さんが開く前からおなかがすくようになった。サラダに、ウインナーと目玉焼き、パンといったかんたんな朝食だが、パンはフライパンで焼いていたのだ。そうこうしているうちに、シンプルなデザインでインテリアとしてもいいカンジのトースターをだんながこっそり注文していた。ほら見て見てーと、だんながはしゃいでいる。今朝そのトースターでパンを焼いたが、おいしかった。買って正解だった。

 トースターの話が長くなってしまったが、きょう届いた宅配便は、赤ちゃん用のジムだった。ジムといえば、赤ちゃんが寝っころがってあそぶシートタイプのものを想像するが、きょう届いたのは赤ちゃんが立ったままであそべる。もちろん4か月の赤ちゃんは立てないので、3本の支柱の上部から出たのびちぢみするひもで支えられたすわってあそべるシートを吊っている。そこにすわって床をキックするたびにジャンプできる。つまり、ひとりでたかいたかいがすきなだけできちゃうジムなのだ。シートのまわりには、たくさんのかわいいおもちゃがつけられていて、あきずにひとりあそびできそうだ。また、キックをしてジャンプをくりかえすので、足の筋力もきたえられる。まさにすぐれものなのだ。赤ちゃんの首がすわってからつかいはじめられるので、4か月健診で首がすわっているね、のひと言を待ってましたとばかりに、だんなが注文したらしい。宅配便がとどくたびに、こんどはなんだろうとワクワクしている。

 さっそくだんながジムを組みたてて、そうすけをシートにすわらせた。あららそうすけの反応がにぶいぞ。どうやってたのしめばいいのか、まだコツをつかめていないようだ。メイド・イン・USAのカラフルなデザインで、アメリカンサイズのこのジムは、そこにあるだけで赤ちゃんのにおいで部屋があふれかえるほどの存在感を発揮している。だんなご自慢のスタイリッシュなトースターも居心地がわるそうだ。部屋がそうすけの世界にどんどん染まっていく。

4月25日、うれしい約束。(生後122日)

 朝から、そうすけがぐずっている。あまえんぼモード全開だ。だんなも、わたしも、だっこしたり、歌をうたったり、あそんだり、いろいろやってみるが長つづきしない。おっぱいをあげてものみ終わるとすぐに泣きだす。こんな日には持久戦をたのしむくらいにすごしたほうがいいみたいだ。そうすけがぐずるのはたいてい、横になっているのがいやなときが多い。膝の上にすわらせると、いったん泣きやむ。泣きだしたら、だっこする。鏡に向かって鏡のなかのそうすけに話しかけると、ぴたっと泣きやむ。これでよし。とベッドに寝かせると、泣きだしてふりだしにもどる。つまり、わたしたちが100%そうすけに向きあっていればごきげんでいてくれるわけだ。わかりやすいなあ。

 夕方、おさんぽに出かけることにした。午後早めに出るつもりが、ずるずる遅れてしまった。だんながそうすけをだっこしてわたしが身支度をととのえていると、そうすけはなにか気配を感じたのだろう。さっきまで泣いていたのをぴたっとやめて、まわりの様子をうかがいはじめた。おさんぽできるのが、うれしかったのかな。ベビーカーにのせると、ちんまりすわってにこにこ笑顔になった。エレベーターで1階に下りているあいだも、ごきげん、ごきげん。外に出てここちよい風にあたりながら歩けば、親子もみんな開放的な気分になってくる。そうすけも、あー、うー、あー、うー、とおしゃべりがはずむ。

 きょうはおさんぽがてら、早めの晩ごはんをたべて帰ることにした。近所にできたばかりの焼肉屋さんは、きれいで落ちついたおとなっぽい雰囲気にもかかわらずベビーカーで入店できる素敵な店だ。だんなはビール、わたしはジンジャーエールで乾杯をした。前菜のあと、眼鏡をかけた愛嬌のある店員のおねえさんがお肉を運んできた。そうすけがお肉に興味をもったのか視線を向けた。と思いきや、おねえさんを凝視している。おねえさんもそのアツい視線に気づいて、にっこり笑いながらそうすけに声をかけてくれた。
「はじめまして。ちっちゃくて、かわいいですねえ」
「そうすけっていいます。そうちゃん」
「そうちゃん、おいくつですか」
「4か月です」
「わー、4か月ですか。かわいいなあ」
おねえさんはすっかりそうすけのファンになってくれたみたいで、お肉をテーブルに置いたあとも、そばでずっと語りかけてくれた。テールスープクッパを頼むと、そうちゃんもたべたいよねーとジョークをいいながら、ふたつに取り分けてくれた。おねえさんは、そうすけに約束をかわした。いつか焼肉をたべられるようになったら、ぜひきてね。そのときにはカルビもロースもごちそうしちゃうから。小さな子どものお客さんでも、小さく焼き肉を刻んでもりもりたべているらしい。よかったね、そうすけ。いつかたべよう。そうすけも、あーい、とよろこんでいた。おねえさんとの会話がよっぽどうれしかったのだろう、そうすけは家に帰っておっぱいをのんだあと6時間近くも深い眠りについた。

4月24日、張るが来た。(生後121日)

 審査会の2日め。きょうも、だんながそうすけを保育園に送った。連絡帳に記入をして、冷凍母乳を2パック準備して手渡した。よだれかぶれはすこし落ちついてきたけれど、保育園にいるあいだ、またさわってひどくなるかもしれない。迎えにいったらすぐ皮膚科に行けるようにしておこう。ふたりが出ていったあと、服を着がえてメイクをしながら、あらためて思った。仕事にもどったら、こんな毎日がつづくんだなあ。リズムになれるまでが、たいへんだ。

 審査のなかで、赤ちゃんが出てくる映像を見た。そのたびに、からだが変化してくるのを感じた。ぼーん、と音をたてるくらいのいきおいで、おっぱいが張ってくる。痛い、痛い、痛い。きのうは夕方まで平気だったのに、なれてくるといきなりこうだ。搾乳機をもってくればよかった。がまんできなくなったら、手搾りでなんとか対応することにしよう。張ったおっぱいが下着にこすれるたびにひりひりする。ストレッチをするふりをして身をよじりながら、肌が下着にふれるのをかわした。おかしなポーズを指摘する人がいなくてよかった。なるべく痛みを意識しないように、仲間と会話したりしてすごした。時間がきたら保育園へ急いで向かった。そうすけを迎えたら、そのまま皮膚科に行くつもりだ。まだ家には帰れない。おっぱいを搾りたいけれど、がまん、がまん。

 保育園に着くと、そうすけが窓辺でクッションに寄りかかってすわっているのが見えた。通園にもちょっぴりなれてきたのかな。先生から、きょうの様子を教えてもらった。しっかりお昼寝ができて、にこにこごきげんだったこと。お友だちのまゆりちゃんと並んで寝ているとき、あー、あー、うー、うー、となかよくおしゃべりしていたこと。哺乳びんにもすこしずつなれてきて、最初は舌の先で押しだすようにしていたのが、だんだん先のほうを吸いはじめてちゃんと吸えるようになったこと。ママの味おいしいね、とか、じょうずじょうず、とか、声をかけると、にっこり笑ってうれしそうにのんでいたこと。リラックスしてのみながら、おならをぷー、したこと。そうすけ、がんばったね。よだれかぶれは思ったほどひどくはなかったが、皮膚科に行って薬をもらった。

4月23日、きょうの保育園。(生後120日)

 きょうとあしたの2日間、コピーライターズクラブの審査会がある。運営を手つだうため、そうすけを保育園にあずける。だんなと相談して、朝はだんながそうすけを保育園へ送り、審査会が終わり次第わたしが迎えにいくことにした。2日つづけて保育園にかようのは、これがはじめてだ。朝早めに起きると、そうすけを風呂に入れて、スキンケアをしたあと、おっぱいをたらふくあげた。さぁ気もちよく、いってらっしゃい。スーツ姿のだんながそうすけをベビーカーにのせて家を出た。なかなか迫力のあるスタイルだなあ。

 そうすけとだんなが家を出たあと、急いで服を着がえ、メイクをして、審査会が行われる会場へ向かった。出がけにゴミを捨てるつもりだったが、時間がないのでやめた。先手先手で動こうと思っていながら、いつもぎりぎりになってしまう。電車に乗り遅れそうだったので、駅まで走った。会場に着いたら、審査前の緊張感もあってか、それまでのことがすっかりあたまのなかから消えていた。集中、集中。きのうからきょうにかけてバタバタしていて搾乳をとるのを忘れてしまっただとか、そうすけは保育園でたのしくすごしているだろうかだとか、いま考えてもしかたがないことは、なるべく思いださないようにしていた。そのこともあってか、ランチタイムを過ぎても、おっぱいは張ってこなかった。これなら搾乳しなくても、夕方までなんとかいけそうだ。

 審査が思ったよりも早く終わったので、保育園へ急いだ。電車にのって移動しているあいだ、からだが変化していくのを感じた。おっぱいがガチガチに張ってきた。痛い、痛い、痛い。とにかく保育園へ急いで、そうすけを連れて帰ろう。8時間を経て再会したそうすけは、ほっぺがよだれかぶれでまっ赤だった。自分でいじったり、ひっかいたりしてしまうようだ。保育園の先生から皮膚科に行って診てもらったほうがいいですねとアドバイスをもらったけれど、いつもかよっている皮膚科が閉まっているので、開いているところがないか探した。残念ながら近くには見つからなかった。木曜日の夕方には診察をうけられないから気をつけよう。家に帰ると、そうすけが泣きだした。おっぱいをあげたら音を立ててのみだした。すきなだけ、たっぷり、ゆっくりどうぞ。

4月22日、4か月健診。(生後119日)

「新馬場って、どこだっけ」
「品川から、京急線乗り換えだよ」
「え、電車に乗るの」
品川区の保健センターで、そうすけの4か月健診がある。受付時間が午前9時から10時まで、となっている。早めに行ったほうが待たなくて済む、とママ友からきいていたが、出がけにうんちをしておむつをとりかえているうちに8時を過ぎてしまった。出かけたうんちは、とめられない。9時に着くように行こうと思っていたが、さっそく予定変更だ。受付時間内に着けばよしとしよう。そうすけのすっきりしたおしりと笑顔を見ながら、気もちをきりかえた。

 9時半ちょっと前に到着、受付でもってきたアンケート用紙と母子健康手帳を提出する。まずは問診から。ロビーで順番を待つ。そうすけとおなじ月齢の赤ちゃんばかりだ。大きな子も、小柄な子も。泣いている子も、笑っている子も。生後4か月といっても個性がいろいろあるなあ。そうすけも興味をもったのか、きょろきょろしている。が、それにも飽きたようで眠りだしてしまった。ぐっすり眠っているところで、そうすけの名前をよばれた。泣きだしませんようにと祈りながら、問診を受けた。問診は、アンケート用紙の内容にしたがって行われた。授乳回数をもっと減らしてもいいですね、といわれた。ちょうどトライしているところだったので、アドバイスをもらった。

 ふたたびロビーで順番を待ち、身体測定へ。体重6.62キログラム、身長62.8センチ、胸囲41.0センチ、頭囲41.1センチ。健やかにお育ちですと書かれたハンコが、ぽん、と押された。よかったね、そうすけ。予定日よりも1週間早く生まれたおちびさんだったのが、ここまで大きくなったんだね。このあと別室で診察を受けた。ふくよかでやさしそうな年配の女医さんに診てもらった。とくに気になるところはなさそうだ。逆に、気になるところはありますかときかれて、ほっぺにできた赤い発疹について質問した。これは、よだれかぶれ、とよばれるもので清潔にして保湿をするしか対処法がないとのこと。きちんとスキンケアしよう。あとは、2630グラムで生まれたのでいつも体重を気にしていることを話した。ちゃんとふえていますから心配しなくてもだいじょうぶですよーとあらためていわれて、胸につっかえていたものがとれた。

 問診と身体測定を終えると別室に親子が集められて、生活や離乳食、歯の健康についての短い講義を受けた。保健センターを出るころには、おなかがぺこぺこだった。授乳室でそうすけにおっぱいをあげて、品川駅で寄り道して、お弁当を買って帰った。長い半日だったなあ。でも、ここちよい疲れだ。

4月21日、がんばるおっぱい。(生後118日)

 きのうは仕事関連の打合せで、そうすけを保育園にあずけた。つぎは23日と24日にあずけることにしている。仕事関連、と書いたのは、まだ出社をしていないからだ。完全復帰に向けてすこしずつ地ならしをしておこう、というわけだ。コピーライターズクラブの会合やイベントにもなるべく顔を出すようにしているのだが、まわりの動きについていくのがせいいっぱいだ。以前よりも、からだが疲れやすくなってきている。出産してからずっと寝不足がつづいているので、あたりまえといえばあたりまえだが。妊娠していたころにかよっていた鍼灸マッサージにふたたびかよいはじめたので、しばらくつづけて様子をみてみよう。あとは授乳や搾乳のリズムをいかにととのえていくかだ。

 いま1日あたり9回から11回おっぱいをあげている。昼は2時間おき、夜は4時間おき、のタイミングになる。そうすけも、あと3日で4か月になるので、そろそろ回数を減らしてもいいだろう。昼を3時間おきにできれば、1日あたり7回から8回になる。保育園も3時間おきに授乳しているしちょうどいいリズムになる。夜は間隔が開いてきたので、課題は昼だ。大泣きしているそうすけを、おっぱい以外の方法でとめることができるかどうか。いまはまだわからないけれど、意外と身近なところにきっかけがあるかもしれない。

 そうすけを風呂に入れたあと、鏡に映っている自分のからだをあらためて見てみた。おなかまわりのぶよぶよが気になる。部屋のなかにいてもヨガならできるだろうと思ってマットを準備してはいるが、まだいちどもつかっていない。マイペースのつもりでいても、ペースをつかめないままでいる。こんどの連休がさいごのチャンスだと思ってやってみよう。乳が張っている。このところ、そうすけのいちどにのむ量がふえてきているから、おっぱいが量産態勢に入っているのかもしれない。もういちど鏡に映っている自分を見て、はっとした。乳首に向かって、たくさんの血管が張りめぐらされている。その血管が以前より、青く、くっきり浮かんで見える。栄養を一滴たりとも逃さず、そうすけにとどけようとしているようだ。わたしだけでなく、おっぱいもがんばっているのだ。

4月20日、第2のおうち。(生後117日)

 きょうは、2度めの保育園だ。そろそろ、そうすけが本音を出してくるころだろう。保育園をすきになってくれますように。安心して哺乳びんのミルクをのんでくれますように。初日にもっていくのを忘れていたスタイとよばれるよだれかけや、エコバッグ、ビニール袋を準備した。追加の冷凍母乳も多めにつくっておいた。約束の12時ちょっと前に保育園に着いた。ちょうどお昼の時間だ。0歳児の部屋に行く途中で、子どもたちがきちんと椅子に腰かけて食卓に向かっている様子が見えた。みんな、行儀よくたべているなあ。

「かんべそうすけです、こんにちはー」
「そうすけくん、こんにちは」
副園長先生にだっこされてそうすけは、にまっと笑っている。よしよし、その調子。もってきたものをロッカーに入れて、連絡帳を開いて先生に確認してもらった。1日あたりのおっぱいをあげる回数を減らして、いちどにたくさんのめるように練習していること、保育園とおなじ哺乳びんとミルクを入手したことを報告した。家でもおなじようにすごせば、早くなれるだろう。
「おっぱいは、のんだ時間も記入しましょうね」
「睡眠時間は、帯で書いてくださいね」
テキパキと副園長先生のチェックが入る。時間を正確に知ることは、生活のリズムをつかむためにもたいへん大切なのだ。これからは、気をつけよう。
「きっと、すぐになれますよ」
「ありがとうございます」
「お仕事、いってらっしゃい」

 打合せが終わって時計を見ると、おむかえに行く約束の17時までまだ2時間以上もあった。わあっと解放された気分になる。近くのカフェでもってきたノートパソコンを開いた。ああ、こんなことができるのもひさしぶりだなあ。ひとりでのんびり紅茶をのみながら、メールをチェックしたり、ネットをぶらぶらしてみる。たったこれだけのことなのに、ものすごくリフレッシュできた。保育園に顔を出すと、そうすけがいまにも眠りそうなここちよさそうな顔をして、あい先生にだっこされていた。たのしく、すごせたようだ。
「70ccのみましたよ」
「よかった、前よりふえましたね」
「そうすけ、ばんざーい」
よろこびのあまりそうすけの両手をばんざいさせて起こしてしまった。それでも笑っていてくれたのでよかった。これからも、保育園をもうひとつのおうちだと思って、こころから安心して、のーんびりすごしてくれますように。

4月19日、ママっていいな。(生後116日)

 きのうは、午前の保育園の保護者会のあといったん家にもどって、コピーライターズクラブのイベントに参加した。午後2時には家を出るつもりだったがそうすけのおっぱいタイムがずれこんで、30分遅れで家を出た。イベントのあと懇親会にちょっと顔を出すつもりがずれこんで、帰宅したのが午後9時前になってしまった。なにかと、後手後手になってしまった。家に着くと玄関のドアを開ける前から、そうすけの大きな泣き声がきこえてきた。

「ただいま、そうすけ。ごめん、ごめん」
靴を脱ぎながら大声であやまって部屋に入ると、泣き声がとまった。リビングを見ると、だんながソファでそうすけをだっこしながら苦笑していた。
「ママのちからって、すごいよね。いなくなるだけで大泣きだもん」
そうすけにも、だんなにも、申しわけないけれど。なんてありがたいことだろうと胸が熱くなった。はじめて保育園にあずけた日、別れぎわに保育士さんにだっこされて笑顔で見送られたときにはがっかりしていた。でもいま、わたしの腕のなかで、いっしょうけんめいになにかを話そうともがいているそうすけを見ていると、そんなわだかまりも一瞬にしてふっとんでしまった。

 外出しているあいだの様子をだんなが教えてくれた。午後の4時と7時にそれぞれ、80ccのミルクをのんだそうだ。近ごろ風呂あがりには30ccから60ccほどしかのんでいないので、これはたくさんのんだほうだ。外出してからしばらくはおとなのベットでだんなと添い寝をしていたが、いちど起きると、あそんでいてもすぐにぐずってしまうようになった。そこで1度めのミルクをあげた。ミルクのあとなかなか寝かしつけられなかったので、お気に入りのおもちゃでいろいろあそんでみたが、すぐにぐずってしまう。それからというものなにをやっても泣きやまず、でも、ミルクをほしがっている感じでもなく、どうしたものやらとこまっていたそうだ。午後7時に2度めのミルクをのんだあとも、ずっと泣きつづけていた。そこにわたしが帰ってきて、いま目の前で、あー、うー、と息をはずませながら話しかけているわけだ。がんばってミルクをたくさんのんだよ、とか、母さんがいないあいだも泣かなかったよ、とか(実際はぎゃん泣きしているだけなのだが)、父さんがいっしょうけんめいあやしてくれたよ、とか、母さんの帰りを待っていたよ、とか、きっと、いろんなことを報告してくれているのだろう。そのいきいきした表情から気もちが十分に伝わった。報告がぜんぶ終わるまで、母乳をあげられなかった。

 深夜1時におっぱいをのみ終えると、そうすけは、ほっとしたように眠りについた。よかった、よかった。それでもわたしの胸はぱんぱんに張っていたので、搾乳をした。いつもなら60ccもとれたらいいほうだが、きょうはなんと140ccもとれた。そうすけのがんばりに刺激されて、おっぱいもがんばったのだろうか。そうすけは、そのあと6時半過ぎまで5時間以上も眠りつづけていた。睡眠時間もすこしずつ、おとなに近づいてきているようだ。

4月18日、初、保護者会。(生後115日)

 午前9時から、そうすけと、だんなと、保育園の保護者会に参加した。おととい保育園デビューをしたばかりだが、すでにかよいはじめているお友だちもいればこれからかよいはじめるお友だちもいる。とくに入園式もなかったので、0歳児クラスのみんなが集まるのはきょうがはじめてだ。12人のクラスメイトのうち、ひとりの子がかぜをひいてパパだけの参加だった。そうすけは、下から2番めのおちびさん。パパやママにだっこされているのは、1月生まれのお友だちとそうすけだけだ。そうすけと月齢が近いと思って見ていた男の子は、はじめはだっこされて眠っていたが、目が覚めるとすぐにはいはいをはじめていた。おなじ0歳児でも月齢がちがうだけで、こんなにできることに差がでるんだなあ。ふたつ左となりにいる女の子はすでに歯が生えそろっていて、緊張しながら自己紹介をしている先生に向かって、はーいと元気よくエールを送っていた。先生が保育園のルールなどを説明しているときに、はいはいしながらおもちゃに突進するお友だちもいたり、メリーにつかまり立ちをしながらダンスを披露するお友だちもいたり。みんな元気いっぱいだ。

 いっぽうそうすけはといえば、おとなしくほほ笑みながらじっとまわりの様子を観察している。左となりにいる女の子からちょっかいをだされるたびに、えっと振りかえりながらとまどっている。先生の説明が終わると、お友だち同士の自己紹介がはじまった。名前の由来とチャームポイントを、パパやママが順番に発表していった。こんなに愛情のこもった自己紹介をきいたのは、生まれてはじめてかもしれない。つづいて先生が、泣く子もうっとりする上手なあやし方や子どもたちがだいすきなあそび方を教えてくれた。やってみたい人?ときいたとたんわーっとみんなが身をのりだした。そんななかでそうすけは、子どものあそびには興味ないんだよね、といわんばかりに落ちつきはらっているのだった。たいした大物なのか、ただの小心者なのか。

 0歳児のクラス会が1時間ほどで終わると大きな部屋に案内されて、0歳児から5歳児の親子を集めた全体の会が行われた。となりにすわっていたママが、そうすけを見て、かわいいねーと話しかけてくれたので、こんにちはーとあいさつをした。昨年0歳で入園して、今年1歳をむかえた子どもをもつ先輩ママだ。1年前はこんなにちっちゃくてかわいかったんだよねーと、なつかしがっている。先輩ママに、そうすけが保育園の初日に30ccしかミルクをのまなかったことを話したらうちもそうだったよといわれたのですこし安心した。すこしでものんだから立派だよ、ここにかよえばミルクもしっかりのめるようになるし、離乳食もたっぷりたべるようになるから、と太鼓判まで押してくれた。クラス会のときにも離乳食についての質問がでていたが、たべないからといって心配しなくてもだいじょうぶだ。保育園といっしょに子どもを見まもりながら、やっていけばいい。全体の会では、園長先生のあいさつのあと各クラスの先生の自己紹介が行われて、先生が手がけた資料をスライドで見ながら活動報告が行われた。いい保育園にかようことができて、よかった。