1月21日、社会の一員。(生後28日)

「ただいま。はい、これ」
「おおお、これで社会の一員ですな」
 仕事から帰ってきただんながすかさず、キャッシュカードのようなものを差しだした。そうすけの健康保険証。出産したのがクリスマスイブで、正月をまたいで申請したためこのタイミングになっていた。カードを見ると、そうすけの名前がしっかりと刻まれている。生年月日、平成26年12月24日。性別、男。あたりまえのことが書いてあるだけだが、ひとつひとつをかみしめるように見る。

母子手帳、出生届や住民票などでなんども、そうすけの名前を見たことはあるのだが、日常生活でひんぱんにつかうものに名前を入れてもらったのは、これがはじめてだ。もちろん、病院の診察券にも、カンベソウスケ、と書かれているけれど。カンベソウスケ、とカタカナではなく、神戸颯佑、と漢字で書かれているのが感慨深い。そこには、ひとりの人格があるのだ。そうすけが社会の一員になったんだ、とあらためて実感する。この現代社会へようこそ。

 きょうで、生まれてから28日めをむかえる。健診で病院に2度行った以外にそうすけは外出をしたことがない。外の世界とのかかわりは、まだないといってもいいくらいだ。そんな生活がつづいているからか、毎日ぎゃん泣きをするそうすけを見ていると不安に思うことも多い。おっぱいがほしいのか、おむつを交換してほしいのか、気もちわるいことがあるのか、眠いのか、それとも、からだの調子がわるいのか。なにかと困惑してしまうことばかりだ。顔を真っ赤にして手足をバタバタしていることもあれば、おなかのなかにいたときよりも強力なしゃっくりをしていることもある。ひきつけのようなしぐさを見せることもある。そうすけのメッセージを正確によみとることは、まだまったくできていない。

 たった一枚の健康保険証だが、いま、そうすけといっしょに暮らしていることを実感する。ひとつひとつ経験をかさねて、たくましく生きていこうね。なるべくこのカードをつかわなくてもすみますように、と祈りながら。