Diary

にんしん日記

44歳で妊娠、45歳で出産した神戸 海知代の妊娠・出産・子育てせきらら体験記。
妊娠を知った2014年6月6日からまる1年、1日も休まずつづった記録です。

2月28日、きょうのおさんぽ。(生後66日)

「おむつと、おしりふきは」
「もった」
「帽子は」
「かぶった」
「じゃあ、出発」
午後、天気がいいのでベビーカーでおさんぽに出かけることにした。きのうは家から保育園までの道のりだったので、きょうはちがうルートを歩いてたしかめてみよう。目黒川沿いの歩道を、カタカタ軽快な音を立てながら、ベビーカーが進んでいく。そうすけは目をつぶっている。川の向こう側を見ると、白衣を着た先生と生徒たちのグループが自然観察をしている。科学部かな。なにかを発見したのだろう、みんなの笑い声がきこえてくる。たのしそう。そうすけもいっしょに観察しているところを、つい想像してしまう。公園で休んでいこうよ、と、だんなが押していたベビーカーをとめた。この公園は小さいけれど、富士山のかたちをした立派な噴水がある。いきおいよくわきでる水の音を、そうすけにきかせてみる。が、目をつぶったままだ。気もちいいからなのか、寒いからなのか、ただ眠いだけなのか、よくわからない。
「そうすけ、興味がないみたいだね」
「まだ、たのしむには早すぎるのかもねー」
「なれるまで、待ってみよう」
大通りに出て、お店の前も歩いてみた。行き交う人のなかにも、ベビーカーでおさんぽしている赤ちゃんがいた。ふたりぶんの席がならんでいる。ふたご用のベビーカーだ。あれっ、赤ちゃんがひとりしかのっていない。どうしたのかな。と思っていると、ベビーカーを押しているふたごのお父さんが、赤ちゃんをもうひとりだっこしていた。お父さんは、まいったなあ、という表情だ。ひとりの子はベビーカーがお気に入りで、もうひとりの子はだっこをしないときげんがわるくなってしまうのだろう。ふたごでも、キャラがちがうんだな。

 けっきょく、そうすけは家に帰るまで目をつぶったままだった。いや、そう見えてきっと、うす目を開けていたにちがいない。いまは、家のなかのほうがすきなのかもしれない。帰りのエレベーターのなかで、にっこり笑っているではないか。部屋にもどったらあそぼうよ、と、うす目が誘っていた。

2月27日、入園内定面接。(生後65日)

 12時半、保育園の面接と健康診断に行った。そうすけは、服とおそろいの帽子をかぶってごきげんだ。春の陽ざしのもと、ベビーカーにカタカタゆられながらまぶしそうに目をつぶっている。まだ、太陽の光になれていないのかな。肌にあたる風が冷たくて、気もちいい。いい天気でよかったね。もっとあたたかくなったら、いっぱいおさんぽしよう。保育園の前には、たくさんのベビーカーがならんでいた。ほら、そうすけの友だちがきているよ。

 受付を済ませて会議室に入ると、お父さんやお母さんといっしょに10人ほどの0歳児がきていた。みんな大きいなあ。0歳児のなかでも、生後2か月のそうすけが、いちばんのちびちゃんだ。月齢がちがうだけで、こんなに印象がちがって見えるとは。見ためより愛嬌で勝負しよう。副園長先生が、パンフレットを確認しながら説明をすすめていく。やさしい声だ。副園長先生の前にいた女の子が、先生のパンフレットをぐいぐい引っぱりはじめる。となりにいる男の子も、目の前にあるおもちゃをかたっぱしからばたばた倒しはじめる。自由な空気を感じてなのか、みんなが思い思いに動きはじめた。そんななか、そうすけはじっと、目をつぶっている。いや、はっきりとは見えないが、うす目を開けているのかもしれない。だんなが笑いながらその様子を見ている。ふと、だんなの若いころを思いだした。似ている。そうすけと、だんなが。大勢のなかにいるときに、そーっと様子をうかがっているようなところがあったなあ。なにを考えているのかが気になって、いつのまにかいつもそばにいた。そうすけにも、そのDNAが受けつがれているのだろうか。おっと、もうすこしで副園長先生の説明をききのがしてしまうところだった。説明がひととおり終わると、個々にわかれて先生と面談をした。提出書類の確認や、保育園にかようときに必要な準備を教えてもらった。面接だと思っていたものは、このことだった。これって入園決定ですよね、と、念のため先生にきくと、もちろんです、と、はずむような声で返事がきた。このあと健康診断と夜間保育の確認をしますね、と案内されて入園が決まったことをあらためて自覚した。健康診断も無事に終わり、夜間保育については、わたしがフレックス勤務のため復帰して落ちついたタイミングでもういちど時間を確認しましょう、ということになった。そうすけは保育園にいるあいだ、いちども泣かなかった。帰ってすぐ、大泣きしていたが。

2月26日、お気に入りの歌。(生後64日)

「そうすけちゃん、元気ですかー」
母から電話がきた。受話器越しにそうすけになんども語りかけている。ここでああ、だとか、うう、だとか、返事らしきものがあればうれしいのだが。じーっとだまっている。おばあちゃんの声にききいっているのだろうか。そうすけを代弁しておしゃべりするのもあきてきたので、用件をきくことにした。
「写真、送ってくれてありがとう」
「どう、いいカンジでしょ」
「すごいね、そうすけくんは。もう、にぎにぎできるんだねー」
写真のなかのそうすけは、義理のおねえさんからもらった木製のおもちゃを手にもっている。泣きやまなかったときにぎらせてみたら、ぶんぶん振りながら泣いていた。その1枚だ。写真を見ていると、現場であれだけバタバタしていたのとはちがってとても知的な印象だ。母はすっかり、そうすけの知性のとりこになってしまった。つぎに出てきたセリフをきいて確信した。
「歌をうたったり、絵本を読んだりしてみたらどう」
「歌、かあ。絵本はまだ早いかもね」
後輩の先輩ママからもらった絵本を読んでみたけれど、ほかのことに興味を抱いているようだった。おもちゃとか、動くものが、いまはすきらしい。
「吹奏楽やっていたんだから、いっぱい歌うたえるでしょう」
「えっ、まあ、そうやけど」
ちょっと強引だなあ。でも、吹奏楽やっていたんだから、といわれると、ついその気になってしまった。どんな歌をうたってあげるとよろこぶかな。
「童謡でしょう」
「ええっと、どんなんだっけ」
「森のくまさん、とか、ぶんぶんぶん、とか」
電話のあと、うたってみた。途中までうたって、歌詞を忘れていることに気づいた。あんなに慣れ親しんだ歌も、おとなになったらすっかり忘れている。もういちどおぼえよう、そうすけといっしょに。思いだせないところは鼻歌でごまかしながら、何曲かうたった。いちばんのお気に入りは、大きな栗の木の下で。手遊びするつもりで、おでこ、ほっぺ、鼻、あごをツンツンしながらうたってみたら身をよじってよろこんでいる。たくさん、うたってあげよう。

2月25日、添い寝しよう。(生後63日)

 そうすけがワクチンを接種してから1日がすぎた。体温36.7度。副作用はなさそうだ。よかった、よかった。きのう家に帰ってからずっと、ごきげんななめがつづいていた。とにかく、よく泣いていた。小さなからだで、よくがんばったもんだ。はじめて行くお医者さんで、はじめて会うおとなたちにかこまれて。泣きたいだけ、泣きなさい。と、いいたいところだが、きょうは平日。夜どおし泣きつづけられては、だんなもたまったもんじゃない。
「そうすけ、こっちで寝よう」
「いっしょのベッドだよ、気もちいいねえ」
けっきょく、3人で添い寝することにした。このごろ添い寝率がどんどん高まっている。ぴたっと寄りそって眠るのは、体温をわけあったり、しあわせな気もちを共有したり、親子のきずなを深めたり、そのここちよさは、かけがえのないものだ。いっぽうで、ベビーベッドばなれが加速度的にすすんできているのが気になる。そうすけにとってはもはや、ベビーベッドは一時休憩所だったりするのかもしれない。いや、おむつ交換所といったところか。とにかく、長居するのをいやがっているようだ。からだが大きくなってきたのも影響しているのだろうか。だんなの腕まくらで、いつものようにすやすや眠りはじめた。

「このベッド、だいすきだね」
「0歳だからこそ、品質のよさがわかるのかもね」
そう、このベッドにはこだわりがある。たとえ出張や旅行でどんなところへ出かけても、家に帰ったら、ここがいちばん、と思えるようにホテルよりも寝ごこちのいいベッドを選んだのだ。一生もんだから、いままでになく奮発した。わたしが40歳をすぎてはじめて寝ることができた高級ベッドを、そうすけは0歳で体験している。うらやましいかぎりだ。でもいま、こうして、すきなベッドで家族でいっしょに心ゆくまで眠れるからこそ気もちよく感じられるのかもしれない。ぱかっと口を開いたまま寝ているそうすけを見ながら思った。

2月24日、ワクチン記念日。(生後62日)

 きょうは、ワクチン記念日。そうすけ、はじめての予防接種だ。生後2か月になると、B型肝炎、ロタウィルス、ヒブ、小児用肺炎球菌、4種類のワクチンを接種することがすすめられている。これらは同時接種できる。こんな小さなからだでもだいじょうぶなのだろうか。安全だとわかっていながら心配になる。
「生まれたころは小さめだったんですが、だいじょうぶですよね」
「1か月健診をうけたときに、低体重っていわれましたか」
「とくに、いわれませんでした」
「それなら、だいじょうぶですよ。うん、見たカンジもだいじょうぶ」
小児科医の先生は、副作用についてもていねいに説明してくれた。この医院は家から歩いて5分ほどのところにあり、これからもたびたびお世話になるだろう。いい先生にめぐりあえてよかったね、そうすけ。
「熱もだいじょうぶっと。じゃあ、まずはロタウィルスから」
「のむタイプなんですね」
「そう。あまいシロップ状ですね。はい、おしまい」
いよいよ、注射だ。大泣きしてあばれるかも。じっとしていてくれるかな。
「トラウマになったりしませんかね」
「生後2か月は、針がささるところまで見ていないから、だいじょうぶ」
「なるほど。なにをされているのかわからないんですね」
「そう。痛いっていう感覚はあるので、泣きますが」
「理解するから、こわくなるんですね」
あらためて、納得。こどもよりも、おとなのほうがこわがりなのだ。
「腰のあたりを、しっかり支えてくださいね」
看護師さんにうながされて、そうすけの腰を支える。先生は、両腕と肩の3か所に手際よくワクチンを打った。早い。そうすけは、ひゃあ、と泣き声をあげていたが、泣いたのは、注射をしているあいだだけだった。そうすけの初体験はほんの数秒で終わった。これで、またひとつ、たくましくなったね。
「はじめてなので、30分ほど、院内で様子をみましょう」
「はい」
「きょうは、おふろに入ってもだいじょうぶですよ」
家に着いてほっとしたのもつかの間、そうすけが泣きだした。小さなからだでよくがんばったなあ。仕事から帰ってきただんなに様子を話すと、そうすけになんども、よくやったな、と声をかけた。うーん、と喃語で返事した。

2月23日、笑顔と喃語。(生後61日)

 いま、こうして日記を書いているとなりで、そうすけがすうすう寝息をたてている。両手をバンザイしながら満足げな顔で眠っている。1日のなかで、いちばんすきな時間。あと30分もすればわっと泣きはじめるにちがいないことはわかっている。それでもつい寝顔を見たくて、書く手をとめてしまう。というより、すっかり見入ってしまう。そうしているうちに、夜になってしまうのだ。きょう1日なにやっていたんだろう、と、いつも苦笑してしまう。

 寝ているそうすけもかわいいが、起きているときもさらに魅力がパワーアップしている。まず、笑顔。生後1か月をすぎたころは生理的微笑といわれる対象のない笑顔だったが、2か月ごろになるとまわりの人の笑顔に反応してよく笑うようになる。あなたが笑えばわたしも笑う、といったぐあいだ。この瞬間が見たいがために、なんども、なんども、笑顔のにらめっこをしてあそんでしまう。1日をすごすには、これだけでもあっという間だ。さらに、喃語(なんご)。赤ちゃんがつかう言葉の原型になるそうだ。ああ、とか、うう、とか、シンプルなものからはじまって、だんだんバリエーションがふえてくる。2か月ごろの喃語は声のパターンもすくなく、まるで発声練習のようにきこえる。ときどき、びっくりするほど大きな声を出すこともある。そのたびにひやっとするけれど、そうすけが満足げにしているので、それはそれでよしとしよう。

 赤ちゃんが喃語を話しているときは、おとなもそれにこたえて積極的に話しかけるといいそうだ。おとながかける声をきいてうれしくなって、さらに声を出してくる。こうしておたがいにやりとりをしていくことで、赤ちゃんの言葉のちからがきたえられ、感情もゆたかになっていくんだそうだ。そうすけと話しているときには、こっちまでうれしくなってそんな冷静にはなれないが。
「ああ」
「ああ。ぱいぱい、かな」
「うう」
「うう。ぱいぱい、だね」
「いい」
「いいねえ。おいしいねえ、ぱいぱい」
うなずくようにおっぱいをのむそうすけを見ているとつい、言葉が通じた気もちになる。そうすけが夢中でのんでいるので、それはそれでよしとしよう。

2月22日、ひさしぶりの再会。(生後60日)

 朝、そうすけとおふろに入りながら、きのうの夜のことを思いだす。高校の吹奏楽部でお世話になった先輩が東京で研修を受けるのでこのタイミングに会おうと、近くにいるメンバーで集まった。連絡をくれた先輩がわたしが育休中なのを気づかって、家から歩いてすぐのレストランに予約してくれた。ありがたや、ありがたや。約束の18時が近づくにつれてドキドキ、そうすけとだんなに見送られながら、ちょっと早めに家を出た。これから会う5人にそれぞれクッキーセットを買って、レストランへ。ちょうどみんなも、店に着いたところらしい。

「きた、きた。ひさしぶりやねえ」
「かわってへんなあ」
「ほんまに赤ちゃん、産んだんか」
「産んだ、産んだ。まだ、おなか出てますよー」
「うん、よう出てる」
「それ、いいすぎですわー」
ちなみに先輩の経験によると、母乳をあげていればほんとうに自然に体重が落ちるらしい。たのしみにしていよう。集まったメンバーのなかには、子どもがいる先輩もいれば、独身生活をつづけている先輩もいる。それぞれがしあわせを追求した結果だ。いや、結果ではなく過程だろう。まだこれからの人生にどんな課題が待っているかは、誰にもわからないからだ。わたしは、おたがいを比較したりせずありのままを認めあっている、この関係が気もちよくてすきだ。
「自然妊娠だったの」
「そうなんです。42まで不妊治療したんやけど、うまくいかなくて」
「すごいね。40歳すぎて」
「奇跡に近いからね」
「うちは、人工授精して授かったからね」
「おれんとこも、通院していたで」
「え、そうだったんですか」
「ほしいと思ったときに、できないもんなんよ」
子どもを産んでから、はじめてきいた。集まった6人のうちの半分が、不妊治療を経験していたとは。正直おどろいた。しかし、これが実際なのかもしれない。ほしいと思ったらできるとは、かぎらない。先手を打たないと。

 22時に解散、家にもどった。すぐにおっぱいをあげよう。そうすけとだんなは寝室にいた。だんなはいつも、そうすけが泣きだすと寝室であやしている。たくさん泣いたんだろう。平気だよと話すだんなの髪に、寝ぐせがしっかりついている。おっぱいをいっぱいのんだら、ゆっくりおやすみしようね。

2月21日、はじめてのおさんぽ。(生後59日)

 ピンポーン。はい、はい。と、だんなが声をはずませて玄関に走った。宅配便がきたようだ。腰くらいまでの高さがある大きな箱。レンタルでたのんだベビーカーがやってきたのだ。さっそく玄関先で箱を開けて確認した。

 ベビーカーには、首がすわってからのることができるタイプと、新生児でもつかえるタイプの2種類がある。だんなは、1日も早く3人でおさんぽにいきたいと新生児用ベビーカーをほしがっていた。もちろんだっこひもでも出かけられるけれど、だんなもわたしも45歳、腰への負担が気になるこのごろだ。いっぽう新生児用ベビーカーは子どもの成長にあわせてつかえる期間が約2年と短いため、レンタルでやりくりすることにした。

 箱のなかには、クルマの部分と椅子の部分がわかれて入っていた。だんなが説明書を見ながらセッティングをする。新生児用ときいていたけれど、こんなに大きかったとは。わたしひとりで組みあわせるのはムリだ。こういうときのだんなは、たのもしい。数分もするとベビーカーが完成した。そうすけをのせてみると最初はじっとしていたが、にっこり笑った。と思ったら、あらあら泣きだしてしまった。大泣きだ。慣れない空間に、おどろいてしまったようだ。

 出かけてみようか、と、だんなに誘われて3人で出発した。そうすけ、はじめてのおさんぽだね。さっきまでの泣き顔もどこへやら、ベビーカーの動きにあわせて目をぱちぱちさせている。100%好奇心のかたまりだ。カタカタと音をたてながら元気よく、ベビーカーが進んでいく。カタカタと音が鳴るのは、歩道の上にも小さな段差がたくさんあるからだ。いままでなんども歩いていたのに気づかなかった。そうすけといると、こんな発見もあるんだね。

 段差に気をつけながら、ゆっくり進んでいくと、10分ほどで、内定の通知をもらった保育園の前にきた。たくさんの子どもたちがあそんでいた。土曜日もにぎやかだなあ。4月入園予定の神戸です、とインターフォン越しにあいさつをすると、保育士さんが封筒を片手にやってきた。入園手続きの書類が入っている。さむいですから建物のなかに入ってくださいね、と保育園のなかに案内してもらった。そうすけは眠っている。と思ったら、うす目をあけている。やっぱり気になるんだなあ。提出書類の説明をしてもらった。

「いま説明したところを記入して、来週の金曜日そうすけくんの健康診断のときにもってきてくださいね」
やさしい声で、保育士さんが説明してくれた。そうすけはあいかわらず、目をつぶって眠っているように見える。
「じゃあね、そうすけくん。来週、待っているからね」
にっこり笑って、保育士さんが話しかけている。いい保育園にめぐりあえた。

2月20日、認可保育園内定。(生後58日)

「保育園、決まったよ。4月末から、仕事復帰です」
ママ友からメッセージがとどいた。申しこんでいた保育園から、内定の通知をもらったそうだ。しかも、認可と認証の両方から内定が出たという。認可は4月からの通園が条件になっているが、認証は夏からかよえる。どっちにするのかすごく迷ったけれど、せっかく認可に内定をもらったからちょっと早いけれど4月復帰に決めた、と教えてくれた。よかった、よかった。と、いうことは、そろそろそうすけにも返事がくるころだ。認可は封書、認証は電話で結果がくることになっている。認証からの電話はまだない。ポストはまだ確認していない。もしかするととどいていたりして。そうすけにおっぱいをあげて寝かせたあと、ダッシュで見にいった。いくつかの郵便物にまぎれて、品川区保育課入園相談係からの封筒がとどいていた。きた、きた。胸が高鳴る。

 待ちきれず、玄関に着くまでに封を開けてなかを確認した。保育所等利用可能通知書、と書かれた紙が目にとびこんできた。合格発表みたいだ。

保育所等利用可能通知書

申請のありました下記児童の保育所等利用希望について、次のとおり、利用調整したことを通知します。

子ども  氏名 神戸 颯佑
   生年月日 平成26年12月24日
     年齢 0歳
       …
施設・事業所名 〇〇保育園
       …
利用調整結果 利用可 
       …

内定だ。内定が出た。なんども見返した。封筒には、ほかにも子どものための教育・保育給付支給認定証や、保育園入園にあたっての連絡や注意事項が書かれた資料が入っていた。まずは来週の金曜日、保育園で面接と健康診断を受けることになる。それまでに書類をもらって、記入しておくこと。急にいそがしくなった気もちになる。ここは落ちついて準備をしよう。部屋にもどると、だんなと母にメールを送った。前向きな返事がきたところで、会社の人事にも連絡をする。面接と健康診断が無事に終わったら、仕事復帰の手つづきを開始しましょう、とのこと。そうすけも、わたしも、始動のときがやってきた。

2月19日、ビギナーズラック?(生後57日)

 だんなが通販で購入したベビーラックを、さっそくつかってみた。正しくいえば、そうすけにつかってみてもらった。ブルーとグリーンの色づかいがさわやかだなあ。雨の日もたのしい気分になれそうだ。このベビーラックは、子どもの成長にあわせて3タイプのつかいかたができるらしい。新生児のころはリクライニング、首がすわったらアップライト、歩けるようになったらロッキングチェア。もうすぐ2か月をむかえるそうすけは、アップライトの段階だ。ちょうど視線の先にあるトイ・バーには、赤、青、緑のカラフルなおもちゃがぶらさがっている。さわるとゆらゆら、リングを引っぱるとメロディがきこえる。ちょっぴり残念なことに、まだそうすけの手にはとどかない。もうすこし大きくなってからの、おたのしみにしようね。手前のボタンを押すと、ドライブをしているときのような振動がおしりに伝わる。ふーん、これで眠くなるのか。

 さっそく座ってもらおう。3点でとめるシートベルトがついていて、バタバタしても安心だ。だんながベルトを装着すると、そうすけがにっこり満足げに笑っている。ドライバーになった気分なのかな。両手をぎゅっとにぎって、ハンドルをまわすようにぐるぐるまわしはじめた。ぶーん、ぶーん。手がとどかないそうすけのかわりに、リングをそっと引っぱってみる。メロディが流れる。ゆかいな音楽だ。ほんとうにドライブしているみたいだね。赤いぶらさがりおもちゃが気に入ったようで、じっと見つめている。ゆらゆらゆれるたびに、にっこり笑っている。ごきげんですねえ。これなら、大泣きしたときにもすぐに泣きやんでもらえそう。ベビーラック、買ってよかったね、と、だんなに話しかけたら、だろ、と満足げにうなずいた。ベッドにおそるおそる置いた瞬間泣きだしてしまう、あの恐怖からもう解放されるんだ。よかった、よかった。

 ベビーラックを気に入ってもらえて、だんなはほんとうにうれしかったのだろう。足どりもかるく、キッチンへ向かった。だんなが晩ごはんの準備をしているあいだ、そうすけはベビーラックであそんでいた。しかしどうしたことか、10分もしないうちに手足をバタバタしながら泣きだしてしまった。えーっ、もしかして、あきちゃったの。リングを引っぱると、ゆかいな音楽のリズムにのせて大泣きしはじめた。最初の反応がよかっただけに、ざんねんだなあ。