Diary

にんしん日記

44歳で妊娠、45歳で出産した神戸 海知代の妊娠・出産・子育てせきらら体験記。
妊娠を知った2014年6月6日からまる1年、1日も休まずつづった記録です。

5月31日、ミルク増量。(生後158日)

 さびしい。このごろ、おっぱいの張りがなくなってきたように感じる。以前なら3、4時間もすれば、1分1秒でも早くのんでもらいたいと思うほどカチカチだったのだが。ぱふぱふの手ざわりで、ちゃんとおっぱいが出ているのだろうかと不安になってくるくらいだ。搾れば出てくるので、まだだいじょうぶだろうとは思うのだが。ホットヨガのあとに搾乳しなくてもよくなったのもうれしい反面、こころもとない気もちになる。そういう時期がやってきたのだろうか。

 いっぽう、そうすけにも変化が起こっていた。ミルクをのむ量がふえてきたのだ。もともと1回にのめる量がすくなく、はじめて保育園にあずけたころには、生後4か月だと150ccくらいはのむといわれているところ80ccがやっとだった。家では母乳がほとんどだったが、風呂あがりにだけだんながミルクをつくってのませていた。そのときにも20ccほどしかのまなかった。5月になってから、保育園では1回に100ccのめるようになったが、やっぱり家では20ccがいいところだった。それが、先週の金曜日を過ぎてから120ccをぺろりとのむようになった。そればかりか、今朝の風呂あがりにも、だんなが120ccをのませることに成功したらしい。そうすけの食の細さをずっと気にしていたが、いつのまにか、あっさり解決してしまった。子どもは、子どものペースで着実に成長していくものなんだなあ。もちろん、親がしっかり見まもっていく前提にはなるけれど。

 そうすけは、さらに進化した。ミルクを120ccのんだあとなのに、母乳をあげると、それも貪欲にごくごくおいしそうにのんでいるではないか。いったいどこまでのめるようになったのだろう。きょうの午後は、野菜スープもぺろっとのんでしまった。いまはまだ準備食だから大さじにひとさじだけだが、茶わんに1杯くらいかるくいけそうないきおいだ。ちなみに、母乳のあとにミルクをあげると、ぜんぜんのまなかった。おいしいものはあとでたべたいタイプらしい。

5月30日、ヨガの出会い。(生後157日)

 そうすけは朝から元気だ。心配していた熱も出ず、ジャンプのおもちゃであそんでいる。よかった、よかった。朝ごはんをたべてひと休みすると、だんながヨガへ出かけていった。1時間ほど経ってから、わたしたちも出かける準備をはじめた。だんながヨガを終えるタイミングにあわせて、そうすけとスタジオへ行くためだ。以前、早めに家を出てデパートの授乳室でおっぱいをあげて行こうとしたら、混んでいて10分ほど待ったことがある。家でのませてから出かけることにしよう。そうすけは、時間どおりにのんでくれるだろうか。一気にのめるように哺乳びんにミルクもスタンバイしておいて、おっぱいをあげると、両手で抱えるようにつかんでぐいぐいのみはじめた。この調子なら、遅れずに出られそうだ。と思っていたら、ぎりぎりまでおっぱいをくわえられてこまってしまった。

 つぎのレッスンの30分ほど前に、ヨガのスタジオに着いた。だんなが出てくるまで、ロビーで待たせてもらった。レッスンを終えて帰る人や、これからレッスンに入る人で、ロビーは混雑している。そうすけは、ベビーカーのなかで目をきらきらさせながら、じっと人の動きを追っていた。ヨガウェアに着がえたきれいなおねえさんが、そうすけに近づいてきた。えみさん、だ。わたしが妊娠する前からずっとレッスンにかよっていて、おなかが大きくなっていく様子を見まもりながら、こころのなかでエールを送っていてくれたそうだ。あのおなかからこの子が誕生したのかーと、目をぱちくりさせている。そうすけが、笑っている。えみさんが、かわいい、と声をあげる。ロビーの人の視線が、わあっとそうすけにあつまる。こういうときのそうすけは無敵だ。みんなのアイドルだ。

「握手してあげると、よろこぶよ」
「いや、わたし、手を消毒してないから」
「だいじょうぶだよ」
「じゃあ、足さわってもいいかな」
「どうぞ、さわって」
そうすけが足をにぎられてよろこんでいると、ヨガを終えただんながロビーにあらわれた。きょうも、ゆでだこのようにまっ赤になっている。そうすけをあずけて、わたしがレッスンに入った。いきなりえみさんとのお別れの時間がおとずれたので、泣きそうな顔になっているそうすけ。また、会いに来ようね。

5月29日、パパの子もり。(生後156日)

 きょうは、そうすけがワクチンを受ける予定だ。4種混合とBCGを受けることになっている。前回は高熱が出たので今回は大事をとって、週末の金曜日に受けることにした。これなら、熱が出ても土曜日の午前中に小児科へ行けば診察してもらうことができる。だんなも、わたしも、土日は仕事が休みなので対応もしやすい。金曜日、どちらがそうすけを連れていくか。だんなが仕事を休めるというので、お言葉にあまえて、ワクチンを受けに連れていってもらうことにした。いつものかかりつけの小児科では、金曜日にワクチンが受けられない、とのことだったので、先日診てもらったもうひとつの小児科に予約をした。ここからは、だんなの体験談になる。どんな発見があったのかな。

 その小児科では独自の診療方針があるみたいで、BCGは次回6か月健診のときにしましょう、といわれたそうだ。初回のワクチンを受ける時期と、打つワクチンを考慮していれば、きょうBCGを打てたんだけどね、ともいわれたらしい。計画を立てていたつもりだが、配慮が足りなかった。また、ワクチンを肩に打つのはおすすめしないそうだ。その小児科では、肩ではなくおしりに打つ。おしりは肩よりあたまから遠いので、副反応のリスクがすくないからだ。たしかに、前回は高熱が出たがいまも平熱をキープしている。

 まる1日仕事を休むはずだっただんなが、午後、不測の事態で会社に出ざるを得なくなった。いきなり保育園にはあずけられないし、わたしは仕事のまっただなか。そこでだんなは、そうすけといっしょに会社に向かうことにした。平日の昼下がりにスーツ姿で赤ちゃんを連れているだんなは、電車のなかで妙な視線を浴びつづけていたらしい。わたしもその様子を見たかった。そして、父さんかっこいいぞーと声援を送ってあげたかった。

 だんなが会社にいるあいだ、先輩ママの後輩や仲間たちがかわるがわる、そうすけの面倒をみてくれた。そうすけは大よろこびで、みんなに笑顔をふりまいていた。帰るまで、まったく泣かなかったらしい。それを見て先輩ママたちは、すごいね、つよいねーと、ますますかわいがってくれたそうだ。そうすけも全身をつかって、あー、うーとこたえていた。こんなにたくさんの女性とこんなにたくさんのコミュニケーションをとったのは、はじめてにちがいない。

 きょう、だんなが気づいたこと。会社を出るときに何人かの男性とも会話をかわしたが、そこでは、そうすけは笑顔をふりまかなかったらしい。こんにちはーそうすけくんと声をかけてもらっても、相手が男性だとわかるとしらっとしていた。はっきりしているんだなあ。男の子ってそういうものなんだろうか。ほんとうに女の子がすきなんだ。男の子は男の子、とあらためて知った。

5月28日、乳児下痢症。(生後155日)

 下痢がとまらなくてたいへんだ、とママ友から連絡がきた。あまりにひどいので、保育園を休むことに決めたそうだ。保育園を休むほどの下痢って、なにが起こったんだろう。のめばそれだけ出てしまっている状況なんだという。そうすけにも、のんだらすぐに出るときがあった。それとはちがうのだろうか。

「病院で診てもらったら、乳児下痢症だって」
「乳児下痢症」
「いま保育園で流行っているらしいよ」
「ええっ、感染するんだ」
乳児下痢症はウイルス性胃腸炎ともいわれていて、ウイルスなどの病原体が胃腸に感染して起こる。原因となるウイルスには、ロタウイルス、ノロウイルス、アデノウイルスなどがあって、なかでも多いのがロタウイルスによるものだ。ロタウイルスといえば、そうすけは2月と3月に2回ワクチンを受けている。そのおかげで、感染しなかったのだろうか。ロタウイルスに感染した場合には、すっぱいにおいのする米のとぎ汁のような白っぽい水のうんちが1日になんども出る。嘔吐と下痢のために脱水症状が起こることも多く、ひどくなると、ぐったりしたり尿の出がわるくなったりする。ロタウイルスは感染力がつよくて、唾液や排泄物から感染するらしい。かかったら、たいへんなのだ。

 ママ友からきょうの息子さんの写真を送ってもらって、見ると元気そうだったのでほっとした。顔色もいい。わたしだったら、うっかり症状を見すごしてしまいそうだ。見ためは元気で笑っているが、あきらかにいつもとうんちの色と形状がちがっていたという。きのうもうんちを10回していて、おしりがおサルさんのようにまっ赤になっているそうだ。おむつをずっとつけているから、つらいだろう。それでも笑顔で、つよいぞ、えらいぞ。これから離乳食がはじまると、いろいろなものを口に入れるようになるから気をつけなければ。そうすけといっしょにひとつひとつたしかめながら、元気に楽しくやっていきたいものだ。

5月27日、夜間保育。(生後154日)

 午後8時。遅くなってしまった。電車を降りると保育園へ、急ぐ、急ぐ。こんな時間になったのは、はじめてだ。これからは、夜間保育をおねがいすることもたびたびあるにちがいない。そうすけは、うまくやっていけるだろうか。保育園の前にはベビーカーが3台とまっていた。夕方に迎えにいくと、足の踏み場もないほどにならんでいるから、いかに夜間保育を利用している人がすくないのかがわかる。たたんでいたベビーカーを開いて門のわきにスタンバイしてから、部屋に急いだ。そうすけのいる「いちご組」は、廊下のいちばん奥にある。ドアを開けてあいさつをした。が、部屋は空っぽで子どもたちはいなかった。

「こんばんは。かんべそうすけの母です」
「おかえりなさい。となりの部屋であそんでいますよ」
「あ、そうだったんですか」
「びっくりさせちゃって、ごめんなさい」
いつもは1歳児のおにいさん、おねえさんがつかっている部屋でそうすけはあそんでいた。そうすけのほかにもうひとり男の子があそんでいた。保育士さんのそばで積み木のおもちゃであそんでいた。そうすけに声をかけると、待ちくたびれていたのか、いつものはじけるような笑顔ではなかった。
「そうすけくん、お母さんだよ」
「遅くなって、ごめんね」
「積み木であそんで、たのしかったね」
「そうか、そうか、よかったー」
そうすけをだっこすると、眠そうな顔をしていた。それでも、泣かずに待っていてくれたことが、ありがたかった。おうちへ帰ろう。もうひとりの男の子と目があったので、またあしたねバイバイ、と手を振って別れた。そのときの男の子の目がかなしそうで、さびしそうで、胸がしめつけられる思いだった。子どもを待たせるのはこういうことか、と思った。つぎつぎに帰っていくお友だちを見送っていたそうすけは、あの男の子とおなじ目をしていたにちがいない。

5月26日、ハーレム状態。(生後153日)

「おかえりなさい」
いつも保育園へ迎えにいくと、こんなふうにあいさつされる。さすがに、ただいまとはいわずに、こんにちはとこたえるが、気もちがいい。第2のおうちだと思ってくださいね、という保育園の心づかいを感じる。きょうは予定よりも早く迎えにいくことができたので、大崎駅で保育園に電話をかけた。

「こんにちはー。かんべそうすけの母です」
「そうすけくんのお母さん、こんにちは。きょう、延長保育ですよね」
「それが、早く迎えにいけることになって。15分くらいで着けます」
「あっ、そうですかー。気をつけていらっしゃってくださいね」
「ありがとうございます」
電話ではこんな会話をしていても、保育園に着くと、おかえりなさいで迎えてくれる。アットホームだなあ。そうすけは、お友だちのまゆりちゃんの横でくつろいでいた。まゆりちゃんは、そうすけよりも1か月おねえさんで、ふたりはとってもなかよしだ。そうすけがよく、指を2本口にくわえていることがあって、なぜ2本だろうと思って観察していると、まゆりちゃんのまねをしていたことがわかった。生後5、6か月でどこまで意思の疎通ができているのかはわからないが、見ているとたしかな友情が育まれているようだ。保育士さんがそうすけをだっこしてつれてくると、まゆりちゃんが、じーっと、こっちを見ている。その目は別れを惜しんでいるように見えた。まゆりちゃん、そうすけをうばってしまって、ごめんなさい。あやまらずにはいられなかった。それを見ていた保育士さんがくすっと笑いながら、モテモテですよーと教えてくれた。

「なぎさちゃんとも、なかよしなんですよ」
「えっ、そうなんですか」
「よく3人でならんで、なかよく寝ているんですよ」
「まゆりちゃんと、なぎさちゃんと」
「ね、そうすけくん」
ハーレム状態じゃないか。勝手に想像しながら見ると、まゆりちゃんは保育士さんとあそび、なぎさちゃんはベビーベッドで眠っていた。ベッドは数がすくないため交代でつかっているそうだ。帰り際にそうすけは、なぎさちゃんをちらっと見てから、まゆりちゃんとあつい視線を交わしていた。

5月25日、張りきるおっぱい。(生後152日)

 午後2時28分。大きなゆれを感じた。携帯電話の緊急地震速報のアラーム音が一斉に鳴りはじめた。仕事場にいたメンバーがあわててテレビをつけて、ニュースを確認した。茨城県南部で震度5弱、と出ている。東京も震度4だった。けっこうゆれたね、などといいながら、10分もしたらみんななにごともなかったかのように仕事をつづけていた。そのとき、わたしはある異変を感じていた。おっぱいだ。おっぱいが張って、痛くてたまらない。危険を察知すると、大切ないのちをまもろうとおっぱいもがんばるのだろうか。いまそうすけは保育園にいるのであげられないのだが。搾乳をしようかどうか迷いながらも、けっきょく仕事場を出るまでの時間をだましだましでのりきった。帰りがきつかった。おっぱいの痛みのあまり、電車の吊り革を握りながら歯を食いしばり猫背になっていた。きょうはだんなのほうが仕事の帰りが早いので、だんなが保育園へ迎えにいってくれたのでたすかった。家に着いたらすぐ、おっぱいをあげよう。

「ただいま。そうすけ起きているかな」
「うん、いまちょうどミルクをのみ終わったところ」
「そっかー。じゃあ、おっぱいいらないよね」
「あげてみれば」
「かけつけおっぱい、か」
「とりあえずおっぱい、だ」
そうすけをだっこすると、ちょうだいという顔をしている。その上目づかいがうれしくて、かわいくて、ぎゅーっとした。おっぱいをあげたら、やっぱりおなかがいっぱいだったのだろう、のんだまま眠りはじめてしまった。首がぐらんぐらんするほど深く眠りはじめてしまったので、ベビーベッドに運んで寝かせた。それでもまだ、おっぱいが張っている。搾乳して出しきることにした。さっきそうすけがのんだあとなのに160ccも出たのでびっくりした。以前ならがんばっても60ccくらいしかとれなかった。おっぱいも成長しているんだなあ。

 おっぱいが張って痛いとついつい、自分でぜんぶ搾りだしてしまいたくなるけれど、搾りすぎには気をつけたほうがいいらしい。しぼり出したぶんも赤ちゃんが必要としているんだと、おっぱいがカンちがいをしてしまう。そうするとよけいに母乳がつくりだされて、張りかえしがきてしまうことも多いそうだ。おっぱいが張りすぎて赤ちゃんが吸いづらいときにすこし搾乳してやわらかくする場合や痛みがとまらないとき以外は、がまん、がまんだ。

5月24日、5か月の誕生日。(生後151日)

 そうすけは12月24日生まれ。きょうが5か月の誕生日だ。きのうは10倍かゆのうらごしをたべた。というか、のんだのだが、きょうはお祝いだから、もうすこし手の込んだメニューにしてみよう。昆布だしの野菜スープをつくることにしよう。そうすけは、はじめてのスープを気に入ってくれるだろうか。

 つくり方はシンプルだ。じゃがいも、たまねぎ、にんじん、キャベツなどの野菜を大きめに切る。昆布に切れめを入れ、水といっしょに鍋に入れて15分ほどつけておく。15分経ったら、昆布をつけた鍋を中火にかける。沸騰する直前に昆布をとり出して、切った野菜をすべて入れる。野菜がやわらかくなったら、できあがり。そうすけがたべるのは、野菜ではなくスープだけ。具材を味わうのは、離乳食に慣れてからのおたのしみだ。おとなのお父さんとお母さんが、かわりにおいしくたべてあげるからね。人肌に冷ましたスープをひとさじ、そうすけにあげた。あーん。たべるまねをして誘導しながら、あげてみる。ごっくん。するにはしてくれたけれど、今回もあっという間に終わってしまった。たったひと口なので味わうまでにはいたらず、そうすけはきょとんとしている。

 おとなのだんなとわたしは、鍋に残っている野菜スープに固形コンソメとウインナーを加えてポトフにしてたべた。はじめて、そうすけとおなじごはんをたべた気分になる。そうすけの目の前でゆっくり噛んでたべてみせるが、いまはまだ他人ごとだと思っているみたいだ。おいしいねーとか、いっしょに話しながらたべられるように早くなりたい。お父さんも、お母さんも、たべることがだいすきだから、早くそうすけといっしょにいろんなものをたべてみたいなあ。

 バスタイムのそうすけは、いつも以上にごきげんだった。カメラを向けるとさらにごきげんで、手足をバシャバシャさせている。両足のバタつかせ方がまるでフィンキックのようだ。このままスノーケリングやスクーバダイビングも、できそうだなあ。お父さんも、お母さんも、たべることがだいすきなうえに、ダイビングもだいすきなんだよ。早くいっしょに海へもぐりにいきたい。

5月23日、生後150日。(生後150日)

 きょうで、生まれてからちょうど150日が経つ。ジャンプのおもちゃにのってびょんびょん跳びはねているそうすけを見ながら、たくましくなったもんだ、とつくづく思う。いまこの日記を書いているあいだもびょんびょん、休みなく跳んでいる。ときどき、こっちを見る。目があうと、いひゃあい、と声をあげて大よろこびしている。まだ言葉は話せないけれど、意思の疎通ができていると思われているように思えてくる。まあ、親の思いこみにすぎないのだが。

 そうすけにとってきょうは、人生ではじめてごはんをたべる日だ。6月1日から保育園で開始する離乳食へ向けて準備食をはじめる。1日1回1さじからスタートする。たった1さじから食生活がはじまるんだなあ。慣れてきたら、徐々に量をふやしていく。まずはアレルギーの心配がすくない、おかゆから。米を炊いてうらごしをして、なめらかにすりつぶした状態にする。はじめてたべるんだから、いい米にしよう、と南魚沼産コシヒカリを入手した。いつもは玄米をたべているので、この米はそうすけ専用だ。はじめてたべるんだから、おいしくつくろう、と離乳食用の調理器をだんなが購入した。そうすけのことになると、だんなは金に糸目をつけない。このままだと、やがてたいへんなことになるだろう。と確信しながらも、便乗しちゃえばいいか、と思っている。

 そうすけのはじめてのごはん、南魚沼産コシヒカリのとろとろ10倍かゆができた。ではさっそく、たべてみよう。たべさせ方にも、コツがある。ひざに抱いた赤ちゃんの姿勢を、すこし後ろに傾けるようにする。スプーンのかたちは、浅く幅が広すぎないものがいい。スプーンをちょんちょんと下くちびるにあててサインを送り、舌の先にのせ口が閉じるのを待ってスプーンを抜く。上くちびるに押しつけたり、口の奥まで入れないように気をつけること。赤ちゃんの食事、と書かれたパンフレットを見ながらやってみる。スプーンを差しだしたとたん、そうすけの顔がこわばった。薬をのむときにスプーンをつかっていたので、カンちがいをしているようだ。あわわわ、ネガティブになる前にたべてもらわないと。ぱくん。一瞬にして、人生最初のひと口が終わった。

5月22日、さわってごらん。(生後149日)

 左目が痛い。そうすけが指を突っこんできて、かわしきれなかった。ふれた直後は平気だったがしばらく経つうちに、ズキンズキンと熱をもった痛みが出てきた。まぶたも、すこし腫れているようだ。ものもらいになったのかな。ひどくなる前に眼科で診てもらおう。そうすけはいま人の顔に興味があるようで、目だろうが、口だろうが、おかまいなしにつかみにくる。それもいきなりガッとくるので、気をつけなければならない。だんなも寝ているときに、口のなかに指を入れられたらしい。びっくりするとなおさら、反応をおもしろがってエスカレートしてくるからやっかいだ。

 そうすけにとっては、目、耳、鼻、口、髪の毛、ひとつひとつが、めずらしくてしかたないのだろう。ぎゅっとしてみたり、にぎにぎしてみたり、ペタペタしてみたり。その感触を、なんども、なんども、たしかめてくる。夢中になるあまり、ちからをがっと入れたり、爪を立てたりすることもしばしばだ。それにしても、握力がつよくなったもんだ。つかまれた肌が真っ赤になるほど、ちからを入れてくる。あらためて鏡を見ると、首のまわりや、腕や、乳房にも、あちらこちらに小さなあざができているではないか。お母さんの齢でできちゃうと、一生跡がのこりそうだ。

 そうすけはいまあそびながら、どんどん学んでいる。目の前にあるものの感触をたしかめたり、手指の運動をしたり、ちからの加減をためしたり、相手の反応を見たり。痛くて叫びたくなることもあるが、怒ったり叱ったりしないで、そこをゆるゆるかわしながら見まもっていくほうがいい。と、保育士さんもいう。そうそう、とは思っていても、これがなかなかむずかしい。かわりにおもちゃをもたせるといいとアドバイスをもらって手渡してみるが、ばんばん叩いたり、べろべろなめまわしたり、その破壊力にはたじたじになってしまう。

 さて、眼科で左目を診てもらったところ、原因はそうすけの指ではなく逆まつげだった。目の炎症を抑える副腎皮質ホルモンの目薬と細菌による感染症を治療する目薬をつかって、しばらく様子をみることになった。すっかり、そうすけのせいにするところだった。というか、していた。ごめんよ、そうすけ。