5月27日、夜間保育。(生後154日)

 午後8時。遅くなってしまった。電車を降りると保育園へ、急ぐ、急ぐ。こんな時間になったのは、はじめてだ。これからは、夜間保育をおねがいすることもたびたびあるにちがいない。そうすけは、うまくやっていけるだろうか。保育園の前にはベビーカーが3台とまっていた。夕方に迎えにいくと、足の踏み場もないほどにならんでいるから、いかに夜間保育を利用している人がすくないのかがわかる。たたんでいたベビーカーを開いて門のわきにスタンバイしてから、部屋に急いだ。そうすけのいる「いちご組」は、廊下のいちばん奥にある。ドアを開けてあいさつをした。が、部屋は空っぽで子どもたちはいなかった。

「こんばんは。かんべそうすけの母です」
「おかえりなさい。となりの部屋であそんでいますよ」
「あ、そうだったんですか」
「びっくりさせちゃって、ごめんなさい」
いつもは1歳児のおにいさん、おねえさんがつかっている部屋でそうすけはあそんでいた。そうすけのほかにもうひとり男の子があそんでいた。保育士さんのそばで積み木のおもちゃであそんでいた。そうすけに声をかけると、待ちくたびれていたのか、いつものはじけるような笑顔ではなかった。
「そうすけくん、お母さんだよ」
「遅くなって、ごめんね」
「積み木であそんで、たのしかったね」
「そうか、そうか、よかったー」
そうすけをだっこすると、眠そうな顔をしていた。それでも、泣かずに待っていてくれたことが、ありがたかった。おうちへ帰ろう。もうひとりの男の子と目があったので、またあしたねバイバイ、と手を振って別れた。そのときの男の子の目がかなしそうで、さびしそうで、胸がしめつけられる思いだった。子どもを待たせるのはこういうことか、と思った。つぎつぎに帰っていくお友だちを見送っていたそうすけは、あの男の子とおなじ目をしていたにちがいない。