Diary

にんしん日記

44歳で妊娠、45歳で出産した神戸 海知代の妊娠・出産・子育てせきらら体験記。
妊娠を知った2014年6月6日からまる1年、1日も休まずつづった記録です。

1月31日、保育園申しこみ。(生後38日)

 1月31日。きょうは、あいさい(愛妻)の日ということで、ひさしぶりにだんなが代筆します。きのうの1か月健診では、先天性疾患の検査も問題もなく、すくすく育っていることがわかって、ほっとひと安心しました。かみさんも安心したようで、いつもよりぐっすり眠っています。この1か月のあいだ、わたしが出かけたあともたったひとりで、そうすけと向きあってしっかりまもってくれたことに大、大、大感謝です。感謝の気もちをこめて、きょうはまる1日、そうすけのめんどうをみていたいと思います。ちゃんとみられるかな。

 と、その前に。認証保育園の申しこみに3人で出かけました。10時10分前に保育園に到着、園内に入るとすでに4組の親子がきていました。約束の10時がすぎると、わたしたちも含めて7組の親子が園内で申しこみをしていました。申しこみの手続きは、A4の用紙を1枚書いて提出するのと、数分間のカンタンなヒアリングのみ。こんなにあっさりと手続きが終わってしまうなんて。子どもをあずける家族の切実な想いと、それを受けいれる側との、意識のギャップを感じざるを得ませんでした。もちろん、保育園のスタッフには何の非もありません。これがこの国の抱える課題かもしれないな、と感じた朝でした。

 さて、あいさいの日。かみさんもびっくりするくらい、そうすけがストンと眠りにつく方法を発見したので、紹介しましょう。名づけて、ブランケットでおくるみねんね作戦、です。まんまるだっこ作戦がすぐに泣きやむ方法だということは、すでにかみさんも書いたとおり。ちょうどその応用です。Cの字をブランケットでつくり、そのうえに赤ちゃんを置いて、胸もとにブランケットをかけて、胸をかるくトントンします。すると、あら不思議、はじめのうちはぐずっていますが、5分ほどすると、すやすや眠ってしまうのです。赤ちゃんが眠っている真横でいっしょに寝ることができるのも、この方法のいいところです。そのうえ、眠りかけた赤ちゃんをベッドに置いたとたん目が覚めて泣きだしてしまった、ということもありません。赤ちゃんをスムーズに眠りにつかせることができて、しかも自分も添い寝できちゃう。一石二鳥の方法なのです。

 とはいったものの、ブランケットでおくるみねんね作戦をしても、ぎゃん泣きがとまらない状況が30分以上もつづきました。そうです。おっぱいがのみたかったのです。残念ながら、わたしにはあげられません。だんながどれだけすばらしいあやし方を開発しても、かみさんのおっぱいにはかないません。母はやっぱり偉大でした。母の偉大さをあらためてかみしめつつ、おっぱいをのむそうすけを横目で見つつ、ちびちびと酒をたしなむ昼下がりでした。

1月30日、1か月健診。(生後37日)

 朝から、雪がふっている。だんだん、はげしくなってきた。まだ地面がぬれているけれど、このままふると午後には積もりそう。きょうは、そうすけの1か月健診がある。朝いちばんに予約を入れておいてよかったなあ。さくっとうけて、さくっと帰ろう。受付を済ませると名前をよばれるまで待つ。小児保健部のロビーにいちばんのりをしたが、10分も経つと診察待ちの親子たちでごったがえしていた。お父さんとお母さんに連れられてやってきた1歳くらいの男の子が、近くを歩きまわっていた。歩くのがたのしくてしかたがない様子だ。わんぱくで、たのもしい。お父さんがあわてて、追いかけている。

「かんべそうすけさーん」
そうすけの名前がよばれた。そうすけの診察カードを出して、そうすけの名前がよばれる。たったこれだけのことにも、胸がじわっとあつくなる。一人前になったもんだ。まずは体重測定から。身につけているものをぜんぶ脱いでくださいと看護師さんにうながされ、服もおむつも脱いだ。デジタル式体重計でチェックする。3940グラム。1日あたり45.9グラム増。とても順調です、といわれて、ほっとした。体重のふえ方は、1日あたり30グラムから40グラム増が目安になる、といわれている。なかなかいいペースだ。

 助産師さんによるチェックがひととおり終わったところで、なにかききたいことはありませんか、ときかれた。母乳をあげるタイミングを確認しながらふと思いだした。そうすけの泣いている理由がどうしてもわからないことがある。おっぱいはあげた、おむつはかえた、と消去法でひとつひとつたしかめてみても、こたえが見つからない。どうして泣いているんだろう。
「わからないですよね。わたしも、そうでした」
「えっ」
「わたしも母親になって、いま2歳の娘がいるんですよ。こんな仕事をしているのに、さっぱりわからなくって。なんどもいっしょに泣きました」
「あははは、いっしょに」
「そんなもんです、育児って。こたえが見えないこともしょっちゅう」
「なんだか、気がラクになってきました」

 医師による健康チェックのときにも、おなじアドバイスをもらった。
「おっぱいをあげる回数とか、量とかよりも、赤ちゃんがのみたいかどうかを目安にするといいですよ」
「こたえを探そうとしなくても、いいんですね」
「そう、そう。こたえなんて、もともとないんですよ。だって、機械じゃないからね。ニンゲンだから」
もうひとつ、おもしろい話をしてくれた。
「育児っていう言葉には、自分を育てる、という意味もあるんですよ」
育児は、育自でもある。そうかもしれない。いままでは見まもることばかり考えていたけれど、そうすけといっしょに進化できるかもしれない。

1月29日、快感おひるね。(生後36日)

 はじめての体験をした。そうすけとの、おひるね。いつもは、寝かせたあとにメールを読んだり返信を書いたりして、自分の時間にあてている。この数日間はちょっと様子がちがった。なかなか寝ようとしない。だっこしていると眠りはじめるが、ベッドに寝かせたとたんぎゃん泣きしてしまう。ママ友からきいていた背中スイッチ押しっぱなし状態がつづいている。こうなったら、だっこしたままおひるねしてもらおう。長期戦になることを予想して、リビングにのみものとおやつをもちこみ、ソファにクッションをならべてスタンバイした。

 そうすけはまだ、ぎゃん泣きしている。まんまるだっこをしながら、スクワットをくりかえすと、うとうとしはじめたようだ。よし、よし、いいぞ。それでもまだ、ぐずっている。寝てやるもんか、と反抗期をむかえた少年のようにかたくなだ。だったら快楽攻めはどうだろう。とことん気もちよくなってもらおう。ソファにならべたクッションのなかでもいちばん大きいものをマットがわりに、ベビーマッサージもどきをはじめた。やっているうちにすこしずつリラックスしてきたみたいだ。そう、そう。あなたは、だんだん、眠くなる。そうすけの気もちよさそうな顔を見ていたら、わたしまで眠くなってしまった。添い寝はきけんだからやめようと思っていたけれど、本能に勝てなくなる。安全な添い寝はどんなポーズだろう。などと、ためしていたら熟睡してしまった。

 新生児の赤ちゃんの睡眠時間は、朝、昼、夜に関係なく赤ちゃんがのぞむままでいいそうだ。寝るなら、寝る。起きるなら、起きる。それくらいの心づもりでだいじょうぶ。赤ちゃんはすこしずつ、昼と夜を認識する練習をしている。昼と夜のちがいがわかるように、朝から昼にかけては明るく、夜は暗くするほうがいい。生後3か月くらいまでの赤ちゃんは、1日に17時間ほど眠っている。おとなの3倍もたくさん眠っているんだなあ。4か月から6か月には夜まとめて眠るようになり、1日に15時間ほどになる。それでも半分以上は眠っているんだなあ。なにごとも、マイペース、そうすけのペースをまもろう。

1月28日、風を感じるとき。(生後35日)

 澄みわたった青空、きれいな冬晴れだ。窓の外の景色を見ると、陽ざしがあかるくてあたたかそう。ホントは、気温が10℃あるかないかくらいだけど。部屋のなかで窓を閉めたまま、そうすけとひなたぼっこをする。ぽかぽかして気もちいいなあ。眠ってしまいそう。と、そうすけを見るとさっきから不機嫌そうだ。あらあら、とうとう泣きだしてしまった。おむつもかえたしおっぱいものんでいるのに、どうしたもんだろう。いつものように話しかけてみる。
「そうすけ、どうしたの」
いつものように返事はない。身をくねらせながら泣いている。
「どうしたのかな」
返事はない。泣きやまない。
「おっぱい、まずかったのかなあ」
泣きやまない。
「おむつが、むずむずするのかなあ」
泣きやまない。おむつが肌にフィットしていないと、わたしだっておこりたくなる。念のためチェックしてみよう。背中側に手をまわしてみて、ようやく気づいた。汗ばんでいる。あつかったんだね。そうすけ、ごめん、ごめん。
「そうかあ、あつかったんだね」
そうすけが、うなずいた。ような気がした。この1か月、ほとんど部屋のなかに閉じこもっているのだ。部屋のなかですごしているとついつい着こみすぎてしまうので、気をつけないと。うす着にしていても、時間帯によってはぬくぬくしすぎるときがある。ちょっと外の空気をあびようか。ベランダの窓をあけて、部屋に風を送りこんでみる。おさんぽに出かけるのは、あさっての1か月健診が終わるまで待とうね。そうすけが、うなずいた。ような気がした。

 そうすけは、風がすきだ。名前のなかにも風という文字があるからかな。窓を開けてだっこしながらベランダに立っていると、気もちよさそうに目をつぶっている。いまにも歌をうたいだしそうな、ほがらかな表情をしている。

1月27日、そうすけプロマイド。(生後34日)

 母から、そうすけの写真を送ってほしい、とリクエストがきたので、厳選10枚をプリントして送った。母はパソコンをつかわないので、写真のデータを送ってもつかい勝手がよくないらしい。すでに、携帯電話の待ち受け画面には、笑顔のそうすけがばっちりおさまっている。これで毎日会えるの、と母は少女のようによろこんでいる。でも、できればもっといろんなそうすけが見たいのよね、プリントがあるといいなあ。と、あまえ声でいわれてさっそく送ることにした。完全にアイドルに恋い焦がれるファンの心理だ。そうすけが生まれる前は、たしか若い5人組のアイドルグループのファンだと話していたんだっけ。あのコかっこいいのよねえ、という。女の子って、やっぱり女の子なのだ。

 せっかくプリントするんだったら、きれいな写真に仕あげたい。データをもういちど見なおして、トリミングや色のバランスを調整した。翌日プリントしてみると、肌の色をよく見せようとするあまり、ちょっとピンクがかった色になってしまった。うーん、どうしよう。このまま送るか、プリントしなおすか。だんなに見せたら、体温が感じられていいんじゃないの、という。なるほど、ものはとらえようだ。よーし、送ることにしよう。お正月にみんなで撮った写真をはじめベビーベッドで眠るそうすけ、お風呂でごきげんなそうすけ、みんなからもらったプレゼントに囲まれてでれでれのそうすけ、など、お気に入りの10枚を選んで送った。すぐに母から、ありがとうのメッセージがとどいた。

「郵便受けを見たら、大きな封筒が入っていました。わぁ写真がきた!と、その場で開けたよ。いろんなそうすけに会えるから、たのしいね。なんども、なんども、見ています。あくびをしたり、お風呂でリラックスしたり、すやすや眠っていたり。いつ見ても、かわいいね。ずっと見ていても、あきないね。赤ちゃんは日に日に表情がかわっていくよ。子育てはたいへんだけど、そのぶんたのしいしこれからもたくさんの発見が待っているよ。そうすけが元気でじょうぶに育ちますように。さむい日がつづくけど、親子ともどもからだに気をつけて。かぜをひかないようにね。また写真を撮ったらまとめて送ってね」

1月26日、泣き声をよむ。(生後33日)

 お宮参りを無事に終えて、自信がついてきたのだろうか。きょうのそうすけはアクティブだ。朝から気合いを入れて、泣くこと、泣くこと。おっぱいがのみたい、おむつをかえてほしい、もこもこのツーウェイオールがあついからきがえたい、くらいまではわかったが、意味がよみとれないメッセージの多いこと、多いこと。赤ちゃん語の翻訳機があったらいいのになあ。高くなければすぐにでも購入したいくらいだ。もうどこかで開発されているのかもしれないけれど、まだ実用化されていないのだとしたら、ヒトのコミュニケーションがそれだけ複雑だということだろう。こたえを見つけよう、などと思わないほうがいいのかもしれない。とはいえ、早く泣きやんでほしい、ついついあせってしまう。

 オーストラリアのプリシア・ダンスタンさんの研究によると、赤ちゃんの泣き声からいまなにをしたいのかよみとることができるそうだ。3か月までの赤ちゃんは、国籍やルーツに関係なく万国共通の言葉をつかっているらしい。5つの泣き声をききわければ、効果的に泣きやませることもできるんだという。

Neh(ネェ)は、おなかがすいた、のメッセージ。おっぱいをのむときの舌の動きとおなじだそうだ。泣くときに舌が見えるので、わかりやすい。
Heh(ヘェ)は、あつい、さむい、おむつがぬれている、汗などで気もちがわるい、快適じゃないことを伝えるメッセージ。
Eairh(エァー)は、おならがたまっている、おなかが張って痛い、のメッセージ。泣くというよりも、うなり声に近い。足を上げたりもする。
Eh(エッ)は、げっぷがしたい、のメッセージ。おなかにたまった空気をなんとかして外に追いだそうとしているサインだ。
Owh(オォ・アォ)は、疲れた、眠い。あくびをするのと似ている。

 うーん、なるほど。こころあたりがあるような、ないような。これほど明確にはききわけられないが、口の動きはヒントになりそうだ。泣いているときにじっくり観察してみようと思う。そうすけが言葉をおぼえるまでは、まだまだ時間がある。読唇術ならぬ読泣術ができる日も、やってきそうな気がする。

1月25日、お宮参り。(生後32日)

 お宮参り。それは、その土地のまもり神である産土神(うぶすながみ)さまに赤ちゃんの誕生を報告し、すこやかな成長を願う行事だ。赤ちゃんを産土神さまの産子(うぶこ)として認めていただく、という意味もある。お宮参りをするタイミングは地方によってちがいがあるが、一般的には、男の子であれば生後31日か32日め、女の子は生後32日か33日めがよいとされている。

 そうすけは、お宮参りでも親孝行ぶりを発揮した。ちょうど週末でだんなが休みのタイミングにお参りできたのだ。出産に立ち会ったときも祝日、産後のつらい時期も正月休みと重なっていたので、ほんとうにたすかった。たまたまだといえばそれまでだが、これだけ偶然が重なると、そうすけが自分の意思で選んだのではないかとさえ思えてくる。いつも、いつも、ありがとう。

 遅めの朝ごはんをたべて、身支度をととのえて、午後から家の近所の神社へ出かけた。まだ首が座っていないそうすけを、おくるみにくるんで、だんながだっこして歩いた。神社まで歩いて10分ほどかかるが、そうすけはまったくぐずりもせず、すやすや眠っていた。まっ白いおくるみのなかで、ほほえんでいるようにも見える。けがれのない寝顔だなあ。と、そのとき、だんながポツリとつぶやいた。そうすけ、重くなったなあ。いつもいっしょにいると成長したのがわかりにくい、と話していただんなが気づいている事実におどろいた。

 5分ほど早く神社に着いたが、事前に参拝の予約をしていたので、待たずに祭殿へ案内された。あいかわらず、そうすけは眠っている。しばらくして神主さんがふたり、あらわれた。ひとりは若い女性の神主さんだ。女性の神主さんがあいさつをはじめると、そうすけはうっすら目を開け神主さんをじいっと見た。が、すぐに眼を閉じてふたたび寝入ってしまった。大きな太鼓の音に泣きだすこともなく、式は無事に終わった。ほっとした。さいごに、だんなとわたしがお神酒をいただくことになり、そうすけにもお神酒を指で唇につけてあげてください、と神主さんにうながされた。だんなが小指の先にお神酒をつけて、滴をそうすけのくちびるに塗ってあげた。すると、たったいままですやすやと眠っていたそうすけが、ニッ、と笑みを見せた。はじめての酒の味を、気に入ったのだろうか。おとなになったら、親子で鍋をかこみながらビールをのんだり、刺身をつまみながら冷酒に杯をかたむけたり、パスタといっしょにワイングラスをまわしたりするだろう。20年後を、たのしみにしていよう。

 神社の帰り道、杖をついた小柄なおばあさんに、お宮参りですか、と声をかけられた。はい、そうすけといいます。と、だんなが話して、おばあさんにそうすけの顔を近づけると、とてもよろこんでくれた。さむいから気をつけてね、元気に大きくなるんだよ。と、おばあさんはわたしたちに言葉をプレゼントしてくれた。眠っていたそうすけが、もういちど、ニッ、と笑みを見せた。

1月24日、生誕1か月。(生後31日)

 そうすけがこの世に生まれてきて、きょうでちょうど1カ月をむかえる。出産予定日の2015年1月1日よりも1週間早い2014年クリスマスイブを選んできたのにはびっくりしたけれど。暗くてせまいおなかのなかから突然、音と光が満ちあふれたこの世界にとびだしてきて、そうすけもさぞかしびっくりしたことだろう。生まれたてのそうすけは、まだ首もふにゃふにゃで、さわったらこわれてしまうんじゃないかとだっこするだけでもドキドキだった。いまもわからないことだらけでおっかなびっくりの毎日だけど、とにかく1か月がすぎたんだなあ。あっという間だったなあと思ういっぽうで、ようやく1か月だとも思う。

 退院後3日めの健康チェックで、そうすけの体重増をもうすこしがんばりましょうとアドバイスされて、そのあとの健診までの1週間で軌道修正にはげんだ。まさに、24時間おっぱい祭りウイークだ。このところ、すこしずつ授乳のペースも落ちついてほっとしている。おっぱいをごくごくのんで、すやすや眠って、毎日をいっしょうけんめい生きているそうすけを見ていると、あっという間に1日なんてすぎさってしまう。友人の先輩ママが、朝からいっしょにいるだけで午後になっちゃったよ、と笑っていたがその気もちがよくわかる。いっぽうで、1日になんども授乳をくりかえしていると、ほんとうにゴールはあるのだろうかと不安な気もちにもなる。おっぱいをあげても、あげても、おむつをかえても、かえても、そうすけをあやしても、あやしても、いったん泣きだすとすべてがリセットされるのだ。たくさんのことはできなかったが、密度の濃い1か月だった。

 午後、テレビをつけると、トンガの海にいるザトウクジラの親子の暮らしを特集していた。はじめのうちは、海がきれいだなあと思って見ていたが、母クジラが子クジラをまもる姿に目をうばわれていった。ザトウクジラの赤ちゃんは、いつもサメなどの天敵にいのちをねらわれていて、3頭に1頭しか翌年まで生きのびることができない。そんな子クジラのために、母クジラは24時間365日そばに寄りそって、おっぱいをあげて、泳ぎ方を教えて、生きぬくために育てつづけるそうだ。それも、たった1年の期間限定で。1年をすぎたら、親ばなれしなければならないという。ニンゲンの親子には、できないことだ。

1月23日、1・2・3だっこ。(生後30日)

 きょうは、1月23日。ちょうど1か月前のきょう、出血、破水をしてそのまま病院に入り、陣痛とたたかっていた。あれほどつらかった痛みも、いまはほとんど忘れている。いまいちばん痛みを感じるのは、乳首だ。きのう助産師さんからもアドバイスがあったが、上唇が内側に巻きこまれたままおっぱいを吸うと、摩擦や刺激で乳首を傷めてしまうそうだ。気をつけなければ。

 吸われるのが痛いからといっても、おっぱいを痛くなくなるまで吸わずに待ってもらうわけにはいかない。乳頭の先を見ると、水ぶくれのようなものができている。乳管がつまりかけて、出口のあたりがすこし炎症をひきおこしているようだ。痛みがひくまで、搾乳してしのぐことにする。こんなときにも、母乳はしっかり出るのでほっとする。それでも痛みはおさまらない。熱をおびているようにも感じる。陣痛や出産、産後の下腹部の痛みなど、さまざまな痛みを体験してきたけれど、ようやく下腹部の痛みがなくなってきたこのタイミングに、乳首の痛みに悩まされているとは。どうして神さまは、出産にあわせてたくさんの痛みをあたえるんだろう、と叫びたくなる。それくらいどうってことない、と思えるほどのしあわせが待っているからだろう、きっと。

 きのう助産師さんから教わった、まんまるだっこをためしてみる。両腕で輪っかをつくり、片方の腕で赤ちゃんの後頭部から首を、もう片方の腕で膝の裏をささえるようにする。自然に背中がまるまって、おしりがすこし突きだすように姿勢をキープ。だっこしながら両手でたがいの手首を握りあうようにすると、さらに安定する。これで赤ちゃんが泣きやむんですよ、ときいたのでためしてみると効果てきめん。さらにスクワットをプラスすると、最強だ。

 赤ちゃんは生まれる前、お母さんのおなかのなかで、からだをまるめた姿勢をとっている。そのとき背骨はCの字のかたちにカーブを描いている。おとなは背骨をまっすぐのばすことが正しい姿勢だと思いがちだけれど、生まれたばかりの赤ちゃんにとってはこのC字型が正しいわけだ。おなかのなかにいるときとおなじだから、からだがリラックスできて気もちよく眠れるという。あらら、そうすけもうっとり目をつぶっている。ふしぎ、ふしぎ。

1月22日、すくすくチェック。(生後29日)

 午前10時。来客用のハーブティーをスタンバイして待つ。きょうは、すくすく赤ちゃん訪問の日。品川区では、子どもが生まれた家庭に助産師や保健師などの専門指導員が訪問して、相談にのってくれる。なかなかいいシステムだなあ。子育てについてなんでも相談できる家族や友人が近くにいないわたしには、ほんとうにありがたいことだ。なにからきこうかな。ききたいことがいっぱいある。助産師さんがやってくるタイミングを見計らって、訪問の10分前、そうすけにおっぱいをあげた。これでお昼まで、ぎゃん泣きしないでつきあってくれるといいんだけど。泣きだしてしまったら、そのまま授乳の仕方を教えてもらってためしてみよう。とにかくいまは、そうすけの要求にこたえることが最優先だ。

 助産師さんは、わたしよりも10歳以上は年上に見える。テキパキとしているけれど、ていねいで落ちついた口調。保育園の園長さんのイメージだ。いろいろアドバイスしてもらえそう。きょうは、赤ちゃんの健康チェック、お母さんの子育て相談、健診などの保健サービスや、品川区で活用できる社会サービスについてお話しましょう、とのこと。ききたいことであたまがいっぱいになっているわたしを見て、まずは質問をさせてもらえることに。入院中に病院で記録したシートをまねてエクセルでつくった、うんち&おしっこの回数と授乳のタイミングを記したグラフを見てもらいながら、気をつける点や改善方法をきいた。そうすけの場合は、いまのペースをつづけてだいじょうぶ、このまま様子をみましょう、とのことだった。この、様子をみながら判断する、というのがとっても大事だという。数字にとらわれないこと。おとなとおなじように赤ちゃんも、からだのコンディションは日に日にかわっていく。ダイエットをしているときの自分を思いだせば、ピンとくる。食欲にも、体重にも、波がある。一喜一憂したって、なんにも意味がない。大きな流れをつかむことが大切なのだ。万年ダイエッターのわたしにはよくわかる。もっとそうすけと向きあおうと思った。

 ひととおり話したところで、助産師さんがもってきたはかりで、そうすけの体重測定をした。3600グラム。1日あたり49グラム増だ。生まれたころから、ほぼ1キログラム大きくなっている。そうすけ、がんばったなあ。成長がうれしい。でも、数字にとらわれない、とらわれない。体重測定が終わったとたん、泣きだしたので、そのまま授乳のレッスンに突入。上唇に吸いダコができているのは、吸い方がよくないらしい。内側に巻きこまれがちな唇を指でそっとめくってアヒルちゃんのお口になおしてあげましょう、とアドバイスをもらった。きょうできなくても、あした、あさって、そのうちできればいい。たしかめながら、たのしみながら、といわれて気もちがラクになった。時間はたっぷりある。