Diary

にんしん日記

44歳で妊娠、45歳で出産した神戸 海知代の妊娠・出産・子育てせきらら体験記。
妊娠を知った2014年6月6日からまる1年、1日も休まずつづった記録です。

5月11日、産後ダイエット。(生後138日)

「なんでかな、2キロ太っちゃった」
「わたしも、体重ふえてるよ」
だんなも、わたしも、かるいショックを受けている。ホットヨガに復帰してからだんなはまだ2回め、わたしも4回め。まずはよぶんなものを出しきろうと思っていたら、いきなりからだがたくわえモードに入ってしまった。いままでの経験則では、こうなるとしばらく様子をみるしかない。からだがいつものペースをとりもどすまで、がまん、がまん。だんながおもしろいことをいう。ヨガのレッスン前とレッスン後に体重を計ってみたら、ふえていたのでびっくりしたそうだ。水をのんでいたからじゃないのときいてみると、レッスン中に水は絶対のんでいないといい張る。まるでミステリーだ。空気だけで人は太るころができるのだろうか。このナゾが解ける瞬間は、いつやってくるのだろうか。

妊娠中はとくに、無事に出産を終えるためにホルモンの影響で脂肪や水分をたくわえやすくなっている。しかし出産を終えると、ホルモンバランスもいつもの状態にもどり、脂肪や水分をためこむはたらきは抑えられる。ということは、たべすぎたりしないかぎり、ふつうに過ごしていればある程度までは脂肪が落とせるわけだ。そうなんだ、からだってたのもしい。それでも太ることがあるなら、食事のとり方に問題があるということになる。たしかにカンタンに想像できる。産後はずっと、そうすけの世話で寝不足がつづいている。もともと夜型だから深夜のおっぱいは平気だと胸を張っていたけれど、4か月もつづくとさすがに疲れがたまる。疲れがたまって胃腸が弱っているところにもりもりたべているから、太りやすくなるのもしかたがないだろう。1日の食事の回数を4、5回にわけて、1回の食事量をセーブするといいらしい。

産後ダイエットは、産後6か月までに行うと効果があらわれやすいといわれている。ダイエットをはじめるなら4か月のいまこそチャンスだ。というのも、妊娠中にたくわえられた脂肪はふつうの脂肪とくらべて落としやすい流動性の脂肪だからだ。水分をたっぷり含んだ燃焼しやすい脂肪なので、産後の時間があまり経ってしまうと、落としにくいガンコな脂肪に変化してしまうらしい。なるほど、これは先手を打っておかなければ。と思えば、やる気も出てくるはずだ。

5月10日、リラックスデー。(生後137日)

 きょうは、リラックスデー。だんながヨガに行っているあいだ、そうすけと部屋でのんびり過ごした。ベッドの上に大きめのタオルをひろげると、ごろんごろん。寝返りごっこをしてあそぶ。そうすけは最近これがお気に入りのようで、あきるまでなんども繰りかえしている。赤ちゃんの寝返りは、おとなのわたしたちとはちがっていて、動きが見ていておもしろい。おとなは、あおむけに寝た状態からうつぶせになるときには、腕を大きく動かして上体をひねって、そのはずみで下半身を回転させる。赤ちゃんは、順序がまったく逆になる。はじめに腰を大きくひねって、足を先に寝返りの体勢にして、その反動で上体をくるりと反転させる。下半身から動かすほうがカンタンなのかな。やっとうつぶせになると、こんどは腕をぬくのに苦戦している。上半身の下敷きになった腕を動かそうと、もぞもぞしている。やがて顔は真っ赤になり、泣きだしてしまう。そのぎりぎりのところで手つだってあげると、満足そうな笑顔を見せる。

 寝返りにあきると、マッサージもどきをしてあそぶ。そうすけは、ゆっくり肌をなでてもらうのがだいすきだ。くるりん、くるりん、と声をかけて足をなでおろしながら、ふくらはぎをさわる。太くなったねえ。おっぱいとミルクだけでもこんなに大きくなるんだなあ。と、いまさらながら実感。そんな感動にひたっているあいだもずっと、そうすけは、きゃっ、きゃっ、と身をよじってよろこんでいる。そのまま寝返りしそうないきおいだ。ほらほら落ちついて。くるりん、くるりん、と声をかけて、こんどは胸やおなかをなでる。きめが細かくてうるおいに満ちた肌をしている。こんなきれいな肌に全身がおおわれているのが、うらやましい。わたしも赤ちゃんのころにもどりたい。45年という歳月は、肌にさまざまな試練をあたえてきた。それだけタフになったという考え方もあるが。そうすけの肌は、あせもになりやすい。わたしの肌は、びくともしない乾燥肌だ。生きていると、からだも、こころも、タフになっていく。

 夕方、だんなと3人でおさんぽに出かけた。きょうから新車、うれしいねえ。ベビーカーにのせたとたん、そうすけはすやすや眠ってしまった。それだけ快適なのだろう。たしかに歩道でもカタカタしない。そうすけが起きるまで、だんなと静かに歩いていた。デートしていたあのころの気分を味わった。

5月9日、パパもヨガに。(生後136日)

 だんなもヨガに復帰した。前回行ったのが去年の12月28日だから、ほぼ4か月半ぶりになる。出産してお休みしていたわたしに気がねして、いままで控えていてくれたのだろう。これからは思うぞんぶんからだのメンテナンスにつとめてほしい。そうすけが成人するまで、あと20年かかる。おたがい健康には気をつけていこう。だんなは体重はあまりかわらないが、おなかまわりのラインがかなり気になる。ほとんどの食事でビールをのんでいるのでそれをやめるか、ヨガをもっとがんばるかだ。もちろん後者を選んだのはいうまでもない。

 だんながヨガを終えるタイミングにあわせて、そうすけといっしょにスタジオへ向かった。このベビーカーでお出かけするのも、きょうがさいごになる。そう思うとしみじみしてくる。そうすけ本人はなんにも感じていないようだが。早めに家を出て授乳してからスタジオへ行こうと、銀座のデパートにある授乳室に立ち寄った。3つある授乳室はどれも使用中だったが10分ほど待ったら入れた。晴れた休日の昼下がりは、店だけでなく授乳室まで混んでいる。そうすけは、おっぱいをのんでおなかいっぱいになると、すぐに眠ってしまった。せっかく銀座にきているのに、4か月の赤ちゃんにとってはまったく興味がわかないようだ。それよりなにより、目の前のおっぱいだ。のんでいるあいだは、おどろくほどの集中力を発揮していた。いったん眠りはじめると、さすっても、ゆすっても、起きない。ヨガが終わって出てきただんなにそうすけをあずけると、こんどはわたしがレッスンに入った。さっき見ただんなの顔が、ゆでだこのようにまっ赤になっていたのを思いだしてポーズをとりながら笑った。がんばったんだなあ。

 そうすけは帰り道も、ずっと眠っていたそうだ。家に着いたときも、眠ったままだったらしい。そのままベビーカーに寝かせて新しくとどいたベビーカーを部屋で組みたてていると、いきなり玄関から火のついたような泣き声がきこえてきた。目の覚めたそうすけが、あたりの状況がかわっていることにおどろいたのだろう。どうしてぼくはここにいるの、お母さんはどこへ行ったの、いまなにが起きているの、教えて、教えて、教えて。わたしが家に戻ったときにはすっかり泣きやんでいたが、ほんとうにたいへんだったとだんなからきいた。

5月8日、効果と達成感。(生後135日)

 全身にかるい筋肉痛を感じる。きのうのヨガで意識して全身をくまなく動かしていたら、ふだんつかわない筋肉をつかってしまったらしい。4か月半のあいだにいかにからだがなまけていたのかがよくわかる。くしゃみをするにも、腹筋が痛くてちからがまったく入らない。1回のヨガでこんなに運動の効果を実感できるとは。きょうもレッスンに行こう。思ったよりも早くおなかのぶよぶよを解決できるかもしれない。ムリをせずマイペースでつづけよう。

 きょうのレッスンは先輩ママのインストラクターさんだ。おなじ経産婦だというだけで、うれしくなってしまう。それとは逆に筋肉痛がじゃまをして、からだがいうことをきかない。26のポーズの3番め、オークワードポーズで、透明な椅子にすわった状態をたもっているとひざががくがくになってしまった。まだ3つめのポーズなのに、こんなふうになってしまうとは。それを見たインストラクターさんがすかざず、生まれたての小鹿になっているよ、と美しい表現をつかって指摘してくる。そのあとも、ひざをのばそうとしてものびきれなかったり、背中がつっぱって十分に反れなかったり。とてもバランスがとれたとはいえないポーズの連続だが、気もちだけは平静をじょうずにたもって90分をのりきった。きのうよりもきょうのほうが、筋肉痛のぶんきついと感じた。

 保育園にそうすけを迎えに行くと、先生が笑顔をはずませてきょうの様子を教えてくれた。冷凍母乳とミルクをしっかりのんだこと、床の上でごろごろと動きながら友だちをじっと見つめていたこと、音のするほうへ思いっきり顔を向けて見ようとしたこと、いろいろなことに興味シンシンなこと。よかった。たのしく過ごしているようだ。いま寝返りの練習をしているそうで、先生が手つだってごろんとできると、にこっと笑ってどこか誇らしげにあたりを見まわしていたそうだ。その自慢げな顔をいますぐ見たい。家でもよく寝返りごっこをしてあそんでいるので、テストのヤマがあたったようなうれしさがこみあげてきたのかもしれない。これからもっと、保育園でわたしたちの知らないそうすけを発見するのをたのしみにしている。しっかり見まもっているからね。

5月7日、ヨガに復帰。(生後134日)

 ヨガに復帰した。前回のレッスンが去年の12月22日だから、ちょうど4か月半ぶりになる。きょうまでなんにもしてこなかった。思ったとおりにからだは動くのだろうか。レッスンの前にインストラクターさんから説明があり、うつぶせのポーズだけマタニティヨガに変更してくださいとのこと。おっぱいが張ってポーズがとりにくくなるからだそうだ。とくに完全母乳に近いかたちで授乳しているわたしは、痛いほど張るので気をつけてくださいね、レッスンのあとにシャワー室で搾乳するといいですよ、といわれてドキドキした。そんなにかわるんだ、産後のからだって。なるべく負担をかけないようにするため、マタニティヨガとおなじスタジオ後方の入り口付近にスペースをとって準備した。あたためられた部屋のなかでゆっくり水をのみながら、汗の出をチェックした。

 以前よくおなじレッスンを受けていた常連さんが、もともと太っていなかったのにさらにムダな肉を落として、スーパーモデル体型になっていたのでおどろいた。なんとすばらしい緊張感をたもっているのだろう。姿勢がいいのでなおさら美しさがきわだっている。この4か月半、かわらずヨガをつづけてきた成果にちがいない。やる気が底上げされた気もちだ。とにかく、つづけてみよう。

 90分間、長いとは感じなかったが、インストラクターさんのかけ声のテンポにあわせてポーズをとるのが精いっぱいだった。26のポーズの6番め、スタンディング・ヘッド・トゥー・ニーで、すでにひざがぷるぷるふるえてきた。ひざを支えている筋力がこんなに低下しているとは。おなかまわりのぶよぶよがポーズをとるたびにじゃまをする。このぶよぶよがすぐになくなるとは思えないが、気にならなくなる日をめざしていこう。おっぱいの張りは、ヨガをしているときよりも終わってからのほうが強烈に感じた。溜まり乳から差し乳にかわってきたんでしょうね、とインストラクターさんが教えてくれた。だとしたら、すごくうれしい。差し乳は、赤ちゃんがのむときにあわせておっぱいがつくれる。いつでも一番搾りがのめちゃうわけだ。ヨガをつづけることで、おっぱいもきたえられるならウェルカムだ。レッスンのあとシャワー室で搾乳しながら、しばらくこのペースでムリせずにつづけてみようとあらためて思った。

5月6日、新車乗り換え。(生後133日)

 ゴールデンウィークも、きょうで最終日をむかえる。締めくくりにふさわしいイベントをしたいねえ、というわけで、新車を乗り換えるためにベビー用品専門店へ行った。もちろんベビーカーのことだが。いままでのベビーカーは、生後1か月から乗ることができて赤ちゃんを寝かせたままの状態で移動する、いわゆるA型ベビーカーをレンタルしていた。首がすわって腰かけられるようになるとB型ベビーカーに乗ることができる。いよいよそうすけも、B型ベビーカーでデビューできるお年ごろになったんだなあ。

 ベビーカーには、いろいろなタイプがある。安全性を重視したもの。軽量でコンパクトなもの。折りたたみがしやすいもの。デザインが美しく色がきれいなもの。レンタルでベビーカーをつかっているときにつくづく感じたことがある。親の目線でつかいやすさを考えるより、子ども目線で乗りごこちや安全性が高いものを考えて選んだほうが長くつかえる。ベビーカーを押して移動していると、歩道がガタガタしていたり、歩道から車道への段差があったり、赤ちゃんにダイレクトに衝撃が影響する場面が多いからだ。

 スペックずきなだんながすでにいろいろ調べて、どのベビーカーにするかを決めていた。タイヤが太く振動しにくいベビーカーを選んだ。店員のおねえさんに念のため確認をして、その場で購入を決めた。オプションで、背中にのせるシートや荷物掛けのフックもあわせて購入することにした。そうすけはいつものとおり、かわいい笑顔でおねえさんのハートをロックオンしていた。

 ベビーカーの色は、ピンク、オレンジ、グリーン、モカ、グレーの5種類があるそうだ。モカ、ピンク、グレーが人気で品薄だという。あした連休が明けてからメーカーに問い合わせて、取り寄せることになるとのこと。だんなと相談してグリーン、モカ、オレンジの順に希望を入れた。グリーンならすぐに乗ることができそうだ。あしたの電話が待ちどおしい。雨の日にも明るくたのしい気分でおさんぽがたくさんできますように。

 新車を手に入れて満足したのだろうか、そうすけは帰りのベビーカーにゆられながら、くうくう寝息をたてていた。早く新車でおさんぽしたいね。

5月5日、公園デビュー。(生後132日)

 そうすけの熱が36度台に落ちついてきた。気になっていたせきも、鼻水も、あともうすこしのしんぼうだ。本人はいたって元気な様子。部屋のなかにこもってなんかいられないぜ、と気迫さえ感じる。そうだ、きょうは子どもの日。そうすけが主役の日なのだ。いままで行ったことのない公園に出かけてみよう。はじめての体験なので、公園デビューといってもいいかもしれない。

 家から歩いて20分ほどのところに、かいじゅう公園とよばれる、大きな恐竜のオブジェが子どもたちに人気の公園がある。片道20分なら、連休の運動不足にもちょうどいい。さっそくベビーカーで出かけよう。おさんぽできるとわかったとたん、そうすけは大よろこび。わたしが身支度にもたもたしていると、早く出かけようよ、あー、うー、と、だんなといっしょに催促されてしまった。せめて日焼け止めだけはぬっておきたい。ベビーカーをぐいぐい押して二の腕を刺激するようにしながら、やや早足で目黒川の川沿いを歩く。ときどきジョギングをする人とすれちがう。そうすけはさわやかな笑顔であいさつをかわしていた。生まれながらにしてスポーツマンシップを抱いているようだ。

 公園に着くと、たくさんの子どもたちがお父さんやお母さんといっしょにあそんでいた。走りまわってころんで笑っている男の子、ブランコをぐんぐんこいでいる女の子。ほんとうに、たくさんきてるなあ。平日の保育園を見ているみたいだ。これでも少子化なんだろうか、と疑いたくなるほどだ。そういえばきのうのニュースで、日本の15歳未満の子どもの数が34年連続して減少していると報道していた。それでも東京だけは去年よりもすこしふえてきているらしい。そうすけがおとなになったころには、どうなっているんだろう。

 8体ある恐竜のオブジェのどれを見せても、そうすけはあんまりときめかないようだ。だんなが声をかけると、その瞬間はじっと見ているのだが。まだ早いのかも。野球がすきらしい、と、だんながいう。テレビで野球中継、とくにメジャーリーグの中継を見るとき、ものすごく集中しているからだという。でも、公園の隣りにある野球場で少年野球の試合が行われて盛りあがっていたが、それには興味をしめさなかった。メジャー志向なのかもしれない。

5月4日、空気を読む男。(生後131日)

 いい天気だ。そうすけの体調もだいぶよくなってきたので、ちょっと遠出をすることにした。遠出するといっても、大崎から川崎までの電車で15分の距離なのだが。だんなが後輩から、川崎のショッピングモールでかわいいベビー服がリーズナブルな価格で手に入る、ときいてきた。こういうおトク情報には、だんなもわたしも目がない。まずは行ってみないと。午後1時、電車が比較的空いている時間をねらって移動することにした。電車のドアのそばで、そうすけをベビーカーから出してだっこして外の景色を見せると、目をまんまるくして流れゆく風景を見ていた。はじめての体験にワクワクしている。

 ショッピングモールは、たくさんの人でにぎわっていた。ベビーカーで来ている親子連れの多いこと、多いこと。ぶつからないように気をつけてすすむだけでも、せいいっぱいだ。ゆっくり数店まわって、そうすけの夏用の服を何枚か購入した。ちょうどおやつの時間になったので、おっぱいをあげることにした。授乳室も大にぎわいだ。おっぱいをあげて、おむつをかえて、ついでに近くにあった体重計で体重をはかったら、のむ前よりしっかりふえていた。えらいぞ、そうすけ。そうすけも満足そうにベビーカーで昼寝をはじめた。親のわたしたちも小腹がすいたので、おいしいおやつをいただくことにしよう。

 ガレットとクレープの店に入った。ウエイトレスさんが2人がけのテーブルをすこしずらして、隣りのテーブルとのあいだにスペースをつくって、そこにベビーカーを置かせてもらった。隣りのテーブルには、小学1年生くらいの女の子とおじいちゃん、おばあちゃん、ひいおばあちゃんがなかよく座っていた。わたしたちがオーダーを終えるやいなや、かわいいねえーとみんなが話しかけてくれた。そうすけも4人に向かって笑顔をふりまいている。
「いま何か月ですか」
「ついこの前4か月になったところです」
「そうなの。大きく見えるわねえ」
「そうすけっていいます」
「あらホントだ。そうすけくんっぽいお顔をしてるわねえ」
そうすけっぽい顔ってどんな顔なんだろう、とぼんやり思いながら会話をたのしんだ。そのあいだもそうすけは、自分が主役になっていることに気づいているのだろう、みんなに笑顔をふりまいている。そればかりか4人がほかの話題にうつると、こっちを向いてよとばかりに手足をぱたぱたしてアピールした。

 帰りに駅でエレベーターを待っていると、またもや、通りすがりのふたりのおばあちゃんが、かわいいねえーと声をかけてくれた。そうすけは空気を察したのか、またもや笑顔をふりまいた。家に帰ったのは午後6時過ぎで、そうすけ史上最長5時間のおさんぽになった。よくがんばったなあ。家に帰ってからも興奮冷めやらずで、ついには泣きだしてしまった。それは風呂に入るまでつづいて、入ったとたん、ぶりっと放出した。ああ、ほっとしたね。

5月3日、つよく、たくましく。(生後130日)

 かぜというひとつの試練をのりこえたからだろうか。そうすけがおにいちゃんぽくなったように見える。といっても、まだ生後4か月を過ぎたばかりで微々たる変化なのだが。だんなもおなじことを感じていたようだ。きょうも朝風呂に入っているとき、シャワーをかけても泣かなかった。それどころか、シャワーを胸にあててあげると顔をくしゃくしゃにして笑っている。かぜ薬をのませても苦そうな顔をするだけで泣かなくなった。おっぱいのあとでベッドに寝かせてもちょっとぐずるだけで、あー、うー、あー、うー、と、ひとりであそんでいられるようになった。このつよさ、いったいどこから生まれてきたのだろう。

 よーし、この調子ならと、だんなが電動鼻水吸引器をとりだしたが、これはどうしてもニガテらしい。大泣きしながら、身をよじっていやがる。鼻水をとったあとは、けろっとしているのだが。小児科でもらった薬のおかげで、吸引器になれる前に鼻づまりも治まりそうだ。連休のあいだに完治できますように。

 静岡のおばから、釜揚げしらすがとどいた。だんなの酒のつまみにと、母が電話でオーダーしてくれたのだ。大きなパックがふたつ入っている。今夜はしらす祭りだ。大根を2分の1本おろしてスタンバイした。大根おろしをたっぷり小皿にとって、しらすを盛って、まんなかに卵黄をのっけて、しょうゆを少々。これだけで立派なごちそうになる。しらすの栄養がわたしのおっぱいをとおしてそうすけにとどけられる。ますます、つよく、たくましくなれそうだね。

 母からメールがきた。そうすけのことを心配している。
「そうすけ、保育園で食欲がなかったっていっていたけれど、環境がかわったからかもしれないね。いままで親の顔しか見ていなかったものね。大勢のなかにいることがなれてきたら、もうだいじょうぶ。そうすけも、いろんな試練をのりこえて大きくなるんだね。親としては見ていてつらいこともあるけれど、ふんばりどころだよ。みんなこうしておとなになるんだから。気になるときにはしっかり抱きしめてあげてね。子どもはどんどんなれていくから、見まもっていればだいじょうぶだよ。そうすけに会える日がいまからたのしみです」

5月2日、ちょうど一年後。(生後129日)

 いよいよゴールデンウィークがはじまった。SNSを開いたら、みんな思い思いに連休をたのしんでいる。ダイビング仲間が海で撮った写真をつぎつぎにアップしていた。写真を見るだけで、潮の匂いや光、水温、水圧が、まるでそこにいるかのように、あたまからつま先まで感じられる。海、海、海に行きたい。もちろん、この連休に行けないのはあたりまえだが。いつかそうすけがダイビングをたのしめる年になったら、親子3人でもぐりたい。中性浮力をとりながら手をつないで写真を撮りたいなあ。その日が待ちどおしい。

 去年の5月2日には、まだ妊娠に気づいていなかった。夜、那覇に入り、翌日からの粟国島ダイビングに向けて準備していた。粟国島での体験は、生まれてはじめてだといいきれるほどすばらしいものだった。まるで、海のなかで盛大なお祭りが開かれているみたいだった。ギンガメアジ、ロウニンアジ、イソマグロ、ナポレオンフィッシュ、カマス、カスリハタ、ヤイトハタ。巨大なトルネードが変幻自在に動きながら、わたしたちにすり寄ってくる。まるで、話しかけられているみたいだった。歓迎してくれたのだろうか。いまから思えば、新しいいのちの誕生を祝ってくれたのかもしれない。いや、わたしが気づかずにいたから、おなかに赤ちゃんがいますよと教えてくれていたのかもしれない。けっきょく滞在中はずっとダイビングをしていたが、夜になったら眠くなって、すきなビールもそこそこにぐうぐう眠っていたんだっけ。

 あれから1年。いまこうして、そうすけといっしょに暮らしていることをいまも奇跡に感じている。粟国島で見たトルネードのように、大きな流れのなかにのみこまれている感覚だ。でも、ふしぎといごこちがいい。流れに逆らうことなく自由自在に泳いでいけそうだ。きっと、だいじょうぶ。これからもうまくやっていけるだろう。きょうのそうすけは平熱にもどったが、せきと鼻水はもうちょっと残っているので、大事をとってゆっくり過ごすことにした。あたたかくなってきたので、あせもに気をつけよう。昼間、買いもののついでにすこしだけおさんぽをして、シャチのかたちのバルーンを買った。ふわふわ空を泳ぐシャチを見ながら、そうすけがはしゃいでいた。家に帰ると、バルーンのひもをひっぱってシャチが動くたびに、きゃっきゃっ、と大よろこびしていた。