11月25日、右手の中指が。(妊娠34週5日)

 出血した。それも、大出血だ。指先にぽつりと、赤いおできのようなものができていたので引っぱったらこうなった。痛みもなかったので、しばらく気づかなかったのだが、ぽたぽたしたたる血を見ておどろいた。ばんそうこうをきつめに貼っても、血はなかなかとまらない。仕事場へ向かう電車のなかでも、吊り革をもつポーズで指を上げたままキープした。それでもとまらない。ばんそうこうが真っ赤に染まっているのを見て、ぞっとした。このままとまらなかったら、どうしよう。仕事場に着いたら、とにかく健康管理室に急ごう。と、こんなときにかぎって、トラブルはつきものだ。田町駅で停車信号が押されているとかで、しばらく待つことになった。混雑もあって電車は13分遅れて新橋駅に到着した。地下鉄へのりかえようと急ぐが、こちらもたいへんな渋滞がつづいている。雨の日はいつもこうなる。もう自然にまかせるしかない。いまにも血がしたたりおちそうな指先を気にしながら、急いで仕事場に向かった。

「わっ、どうしたの」
「包丁で切った?」
「おできをつぶしたら血がとまらなくて」
健康管理室で、さっそく手当てをしてもらう。指先を消毒して、ガーゼで吹きだす血をふきとる。まだとまらない。いちど冷たい水で指を洗いましょう、といわれて、手についている血をていねいに洗い流した。ちょっと気もちがおだやかになった。傷口をおさえてしばらく様子をみてから、ばんそうこうではなく包帯をきつめに巻いた。指が大きなマッチ棒のようになってしまった。大げさに見えるけれど、がまん、がまん。血がとまっても油断しないでね、傷口を刺激するとまた血が吹きだすかもしれませんから。と先生に念を押すようにいわれた。きょうは1日、おとなしくしていよう。のんびりすごそう。

 からだを流れている血液の量、循環血液量は、体重の約12分の1リットルだといわれている。それが妊娠をすると、約1.5倍にふえる。お産のときに1リットルほど出血しても平気なくらいふえるという。血清のふえる量が血球のふえる量よりも多くなるために、実際には血液全体が薄まりながらふえている状態だ。だから、どんどん、さらさら血になる。それで止血しにくかったのだろう。