2月10日、はじめての復帰。(生後48日)

 社会復帰した、といってもいいだろう。出産してからはじめて電車にのって移動した。18時30分に、銀座へ。こんな時間に外出するのもひさしぶりだ。コピーライターズクラブの集いに参加する。たくさんの仲間たちと会って話をするチャンスだ。あたまは、ゆるゆる。おなかは、びよよーん。けっして本調子とはいえないけれど、すこしずつならしていこう。ふんどしを締めなおす気分で、まゆをいつもよりしっかりめに描く。フルメイクするのは何日ぶりだったっけ。出かける時間が近づくにつれて、ドキドキしてくる。

「ただいま」
だんなが仕事からもどったら、さっそく、そうすけの相手をバトンタッチして家を出た。どうかおっぱいが張って痛くなりませんように。正直、家を出るまでは外に出るのがおっくうになっていた。それでもいったん出てしまえば、思った以上にあっさりとモードがきりかわるものだ。帰路につく人混みの波にもまれながら、山手線にのった。ほんの2か月ほど前、まだそうすけがおなかのなかにいたころにも、毎日こうしていたんだなあ。もう2か月になるのか、まだ2か月になるのか。あれからすっかり生活のリズムがかわってしまった。電車のなかはあいかわらずの人混みで、以前とまったくおなじ景色に見える。いろいろなことがあるけれど、世の中の営みはかわらない。

 会場に着くと、そこに見なれたみんなの笑顔があった。
「わあ、おかえりなさい」
「元気そうで、よかった」
「かわらないねえ」
「でも、母なんだよねえ」
ほっとした。失っていた時間をとりもどした気もちになる。みんなのやさしさに感謝した。はじめての復帰がここでよかった。2時間あまりのあいだに、飲食するのも忘れて、仕事や、プライベートや、さまざまな情報を交換しあった。わたしは、子育てネタ担当だ。いつ仕事にもどるのときかれて、早くても4月だと思うとこたえた。なのに、自分がはたらいているイメージがまったくわいてこない。あんなに仕事にギラギラしていたわたしは、どこへいってしまったんだろう。このまま見失っていていいのだろうか。ギモンを抱くいっぽうで、これはリセットのチャンスだといまの自分を冷静に見つめる自分がいることにも気づいた。時間はある。いまのうちにじっくり見つめなおそう。