3月10日、アイドルデビュー。(生後76日)

 12時、表参道へ。所属するコピーライターズクラブのランチミーティングに参加するため、そうすけを連れてクラブハウスへ急いだ。家を出たときには遅刻することがわかっていた。さあ行こうというタイミングで、そうすけがうんちをして泣きだしてしまったのだ。おむつをかえてあやしているだけでも、かるく30分はかかる。こうなると、あせってもしかたがない。しっかりおしりをふいて、長いだっこにも耐えられるように、おむつをていねいにとりかえた。まだ泣いていたけれど、だっこひもを装着してだっこが完了したころには泣きやんでいた。これから出かけるときには、もっと先手先手で準備しよう。

 そうすけ、生まれてはじめての山手線体験。きみがまだおなかのなかにいたころ、毎日のっていたんだよ。思いだしているのかな。電車にゆられながら、じっと目をつぶっている。ここちよさそうな表情をしている。吊り革をもって立っていると近くにいた男性が、すわりませんか、と声をかけてくれた。あとひと駅で降りるつもりだったので、気もちだけありがたくいただいた。日本はやっぱり思いやりの国だ。地下鉄にのりかえるつもりだったが、そうすけがあたまをかくんと下げて熟睡しているのを見てタクシーにのりかえた。クラブハウスに着いたらたくさんのおとなに会って、興奮して眠れなくなるにちがいない。

 クラブハウスに入ったとたん、そうすけはアイドルになった。そのしぐさのひとつひとつが、視線をあつめている。本人も、まんざらではない顔つきをしている。しかしそれは、1時間もつづかなかった。いまにも泣きだしそうな顔をしている。おっぱいがほしくなったにちがいない。事務局のTさんと相談して、奥の部屋を20分ほどかしてもらった。ついでにブランケットもかしてもらった。そうすけと、ふたりきり。あらあら、さっき泣いたからすがもう笑った。たくさんのおとなにかこまれて、気疲れしたんだね。おっぱいをのんでパワーアップしたそうすけは、ひとまわり大きくなったみたいだ。

 打合せのあいだ、そうすけはいちども泣かなかった。よく、がんばって耐えたもんだ。小さなからだで、たくさんのおとなの話につきあってくれて。タクシーで帰ろう。ちょうどきた車にのると、さっそく泣きはじめた。うちの娘も11月に出産する予定なんですよ、と運転手さんが孫をかわいがるようにそうすけを見まもってくれた。娘さんは初産だそうだ。高齢出産だから心配しているんです、というので、年齢をきいてみると、今年37歳をむかえるとのこと。わたし45歳で産んでますしだいじょうぶですよ、と話したら、こちらもびっくりするほどびっくりしていた。娘さんのこころのおまもりに、なれたかな。