3月23日、気づきの午後。(生後89日)

 おさんぽに出かけたくて、うずうず。そうすけも、わたしも、部屋のなかにいるのがあきてきた。どこに行くのかは決めてないけれど、とにかく外に出てしまおう。きのうほどあたたかくはないが、出かけるには十分だ。そうすけをマリン柄のカバーオールに着がえさせて、わたしも部屋着から授乳口つきワンピースに着がえて、いざ出発だ。ベビーカーをカタカタゆらしながら向かったのは、いつものベビー用品の専門店だった。家から歩いてちょうどいい距離にあるのと、授乳室があるので、安心してぶらぶらできるからだ。ほかにもこういう場所がいくつかあるといいなあ。時間があるときに調べてみよう。

 ベビー用品の専門店に行く途中で、銀行に立ち寄った。ATMの前で、そうすけがじいっと観察している。この巨大な箱のようなものは、なんだろう。なぜお母さんは、この箱のようなものの前に立っているんだろう。あ、箱のようなものがお母さんから、うすっぺらい四角いたべものをもらってのみこんだ。どんな味がするんだろう。こんどはまたさっきとはちがう、うすっぺらい四角いたべものを吐きだした。お母さんが、それをもって帰ろうとしている。さっきより笑っているみたいだぞ。なにをもって帰るつもりだろう。などと考えながら、見ているんだろうか。思いっきりにんまりした顔で、そうすけを見た。

 新しいベビーステテコが出ていたら買おうと思っていたが、気に入ったものがなかったので、またこんどにすることにした。ロンパースを見たり、帽子を見たり、おもちゃを見たりしたが、けっきょくなにも買わなかった。それでも1時間ほど店内をぶらぶらしていたら、いい気分転換になった。平日の午後は混んでいないからすごしやすい。また来ようね。授乳室でそうすけにおっぱいをあげて、帰りにパン屋に寄って帰った。店にいるときも、移動しているあいだも、そうすけは静かにしていた。が、いよいよ家が近づいてきたら、急に泣きはじめた。緊張がほぐれたからだろうか。このまま部屋にもどったら、もっと大泣きしそうだなあ。だっこして泣きやむまで待つしかないか。そのとき、そばにいた小学生の男の子が、そうすけの顔を見ながら話しかけてきた。
「おっぱいだよ」
「おっぱい、だと思いますよ」
親に教育されているのだろう、ていねいな言葉になおして繰りかえし教えてくれた。ありがとう。帰ってすぐに、そうすけがおっぱいをほしがっているのを目の当たりにしてびっくり。男の子は、どうして気づいたんだろう。