4月14日、鏡のなかのふしぎ。(生後111日)

 玄関に、等身大の姿見が置いてある。そうすけがいつまでたっても泣きやまないときには、だっこして姿見の前まで連れていく。そうしていっしょに鏡に映ったりそうすけだけ映したりしながら、鏡のなかのそうすけに向かって話しかけるのだ。こんにちはー、そうすけくん。あっという表情をしながら、じーっと見つめている。そうすけと鏡のなかのそうすけが、見つめあっている。まだいまは大きなリアクションはないようだ。いちどだけ、ぴたっ、と鏡に手をついたことがある。それが自分の意思なのか、たまたまそうなっただけなのかは、まだわからない。そうすけくん、そうすけくん、といいながら、鏡のなかのそうすけにキスをすると、あれっ、という顔をする。そして鏡越しに、ぴたっ、と目が合う。いちど目が合うと離れない。そのまま吸い寄せられそうだ。

 赤ちゃんに鏡を見せてはいけません、という、むかしからの言い伝えがあるらしい。鏡や写真がたましいを吸いこんでしまうから、なんだそうだ。わたしたちが子どものころにも、そんなこわいうわさがあったなあ。これらのうわさは、水面に映る自分の姿に興味をもっておぼれないようにするためにつくられたといわれる。いまよりも川や井戸が身近だった時代に生まれた、赤ちゃんを危険からまもるためのキャンペーンアイデアだったのだろう。 いまでは医学的根拠がまったくないことが証明されている。安心して、すきなだけあそぼう。

 いっぱい見つめあってあそんでいたからか、そうすけの表情がいつもよりしゃきっとしている。またひとつ、おにいちゃんの顔になったね。夜、風呂に入っているとき、だんなが、そうすけの顔を見ながら気づいたように話した。
「そうすけ、左目だけ二重まぶたになってる」
「あれ、ホントだ、左目だけなってる」
目をつかいすぎてしまったのだろうか。両目とも二重まぶたか、一重まぶたにそろったらいいのになあ。赤ちゃんに鏡を見せすぎてはいけないようだ。