4月4日、お食い初め。(生後101日)

 お食い初めという儀式があることを、いままでわたしは知らなかった。ちょうど生後100日ほど経った時期に、子どもが一生たべものにこまることがないようにと祈願をする。生後100日めにかぎらず、110日めだったり、120日めだったりするところもあるらしいが、多くの家庭では区切りのいい生後100日めを目安にいい日を選んで行っているようだ。ちょうどそうすけは、きのう生後100日めをむかえ、きょうが大安でだんなの仕事も休みだったので、そうすけのお食い初めの日をきょうに決めた。儀式の内容がよくわからず、またいろいろと準備をするのがめんどうなこともあって、目黒雅叙園でお食い初めのランチコースをとることにした。2か月ほど前に、だんなが予約をしてくれた。

 きのうの夜から、そうすけはなんどもぐずっていた。なにかのきざしでも感じていたのだろうか。夜から朝にかけて4度もおっぱいをのんだ。ぱっちり目を覚まして、まったく眠る気配が見られないので、朝6時、いっしょに風呂に入ることにした。風呂あがりにだんながミルクを50ccあげると、ようやく眠りに落ちた。わたしもうとうとしていたら、出かける時間まであと30分に迫ってしまった。そうすけも、だんなも、すでに着がえて待っている。あわててメイクをして妊娠前に買ったよそゆきのワンピースに着がえて出発した。

 予定時間のすこし前に目黒雅叙園に着いた。きれいな着物と桜のディスプレイや手入れのゆきとどいた庭に、眠気もふっとんでしまった。予約をした座敷懐石の店の前で、そうすけくんいらっしゃいませーと、これまたすてきな仲居さんがお出迎えをしてくれた。15畳ほどの広い個室に案内された。いいお部屋がとれてよかったね。そうすけ用の座布団も置いてある。くつろぎやすいように、とブランケットもある。そうすけは、きゃっきゃっとはしゃいでいる。仲居さんも自分の孫のようにそうすけをかわいがってくれた。

 だんなはビール、わたしはジンジャーエールで乾杯。数分後、待ちに待ったお食い初めのお膳が運ばれてきた。赤い漆器で高足の御膳に、子どもの成長を願うさまざまな想いをこめたたべものがならんでいる。赤飯、汁物、焚き物に、香の物に。膳のまんなかに、手のひらにちょこんとのるくらいの大きさの石が置いてある。歯固め石、とよばれるもので、小石のような硬いものでもたべられるほどじょうぶな歯が生えますように、という願いがこめられている。その石に、ちょん、ちょん、と2度箸をあわせて、まずは焼き鯛の身をつまんで、そうすけの口もとに添える。また石に2度箸をあわせて、こんどはお吸い物のハマグリをつまんでそうすけの口もとに添える。さらに野菜のお煮しめや、アワビの煮貝や、赤飯などを、そのたびに石に2度箸をあわせてはつまんで口もとに添えていく。そのたびに、そうすけはぺろっと口をなめていた。

 儀式がひととおり終わると、だんなも、わたしも、懐石のフルコースをいただいた。コースをいただきながら、もってきたデジタルカメラで何枚も写真を撮りまくっていた。そうすけ以上にわたしたちも大はしゃぎしている。そうすけも満足したのだろうか、締めのデザートが出たころにはタオルを敷いた座布団の上で手も足も大の字にひろげてぐっすり眠っていた。きょうはたべるまねをしていただけだったけれど、夢のなかでは、おいしいごはんをもりもりたべているのだろうか。目をつぶったまま、口をもぐもぐ動かしていた。