4月5日、くちびるの誘惑。(生後102日)

 きのうのお食い初めがよっぽどたのしかったのだろうか、そうすけは家に帰ってからもずっとテンションが高めのまんまだ。メリーの音楽にあわせて歌をうたう、うたう。うたうといっても、ああ、とか、うう、とか、おう、とか、うなっているだけなのだが。まるで犬の遠吠えみたいだ。そうすけのシャウトにあわせてだんなも、歌をうたう、うたう。かぜがなおりきらず声の出ないわたしは、ふたりがうらやましくてしかたがない。いいもんね、声が出るようになったら3倍うたってやるんだ。だんながこんどは、絵本をとりだした。そうすけに読んできかせるつもりらしい。う、うらやましい。声が出るってこんなに大切なことだったんだとまたまた実感。のどのかぜをあまく見てはいけない。

 お食い初めを体験してもうひとつ進化したことがある。朝ごはんをたべているとそうすけが泣きだしたので、だんながベビーベッドから食卓に連れてきた。膝の上にすわらせるといつものように泣きやんだが、いつになく目がきらきらしている。好奇心をむきだしにして向かいにすわっているわたしを見ているではないか。いや、わたしではなく、わたしのくちびるだ。手でちぎったパンを口に入れる様子を見ているのだ。ついこの前までは、ふーん、とでもいいたげな顔をしていたのに。ウインクで合図しながら、パンを口に運ぶ。あー、と声が出る。ほらね、おとなってたのしそうでしょう。こんどはだんながビールをのむ様子を下から仰ぎ見ている。それをのむには、あと20年ほど待たないとね。

 実際に離乳食をはじめるタイミングは、まだまだ先だ。これには目安がいくつかあるそうで、たとえば厚生労働省が作成した授乳・離乳の支援ガイドによると「離乳の開始とは、なめらかにすりつぶした状態のたべものをはじめてあたえたときをいう。その時期は生後5、6か月ごろが適当である」とある。いったん離乳食をはじめたら、365日休みなく赤ちゃんのためのごはんをつくる生活が待っている。お母さんにも、それなりの覚悟が必要になるわけだ。