「かわりないですか」
母からメールがとどいた。わたしがはたらいていることもあり、よっぽどのことがないかぎり、母とは電話ではなくメールで連絡をとるようにしている。
「だんだんからだが重くなるけれど、あまりたべすぎて、あなたの体重がふえすぎないように気をつけなさいよ。便秘が気になっているなら、油をつかう料理には、オリーブオイルをつかってみるといいよ。カルシウムも、しっかりとらなくちゃね。静岡の末子おばちゃんに、桜えびとしらすを送ってもらうから。気をつけて、1日1日をすごしなさいよ」
わたしには、つわりらしいつわりがない。母のときはつわりがたいへんだったらしい。どうやら、つわりは遺伝しないようだ。10週めといえば、つわりがピークをむかえるころ、と、きいている。なにをたべても、いつもどおりだ。いままでとくらべて、すききらいがかわってきた、と、いうこともない。ただ、以前よりも、においがよくわかるようになってきた気がしている。
においで、雨の気配に気づくようになった。電車にのっていると、そばにいる人の体臭をかぎわけることができる。アルコールやタバコだけでなく、この人はさっき打合せでコーヒーをのんでいたんだな、とか、クリアに想像できるようになった。この特技をなにかに活かせればいいのになあ。雨の日で電車が混んでいるときには、においが混ざりあって、くらくらするくらいだ。
調べてみると、においにビンカンになるのも、妊娠初期に見られるつわりの症状のひとつらしい。そういえば、まだ妊娠に気づいていなかった6、7週のころ、いつもかよっているホットヨガのスタジオを、汗くさい、と感じていたのを思いだした。インストラクターに、いわなくてよかったな。スタジオの環境がわるいわけじゃなかったんだから。からだの変化だったとは。それにしても、妊娠初期のデリケートな時期に、よく気づかずにホットヨガをつづけていたもんだ。気もちよく汗をかいていたけれど、そうすけにとっては、試練をうけているようなもんだ。ごめんよ、そうすけ。克服してくれて、ありがとう。
においのほかにも、以前とくらべると、いくつか、かわったと感じることがある。ときどき、つよい眠気を感じるようになったこと。おなかを引っぱられるような、キューッとつっぱる感覚があること。おっぱいが張って、バストサイズが大きくなったこと。おっぱいの張りは、妊娠に気づく前から気になっていた。わたしの場合は、この張りがきっかけで超音波検査をした。おっぱいが妊娠を知らせてくれたといっても、いいすぎではないだろう。
おっぱいの張りといえば、そうすけにあやまっておかなければならないことがもうひとつある。ホットヨガでうつぶせのポーズをとるたびに、胸が押しつけられて、くるしくて、呼吸が乱れそうになった。そこで、胸が浮きあがるように恥骨をグーッとつきだしながらからだを支えていた。そうすけには、よけいな負担をかけていたにちがいない、と、いまさらながら申しわけない気もちになる。それをものりこえてくれたことを思うと、感謝してもしきれない。