9月11日、巣ごもり本能。(妊娠24週0日)

 ひさしぶりに、中学時代の後輩とごはんをたべに行った。彼女とはおなじ吹奏楽部でいっしょにコンクールをめざした仲間だ。高校はとなりどうしの学校にかよって、おたがい吹奏楽部に青春をささげていた。彼女が就職活動をはじめたころには、わたしはすでに東京で暮らしていたので、宿泊や食事などの面倒をみていた。そんな彼女もいまは、編集者としての道を立派にすすんでいる。おとなになったいまも、吹奏楽コンクールはふたりで欠かさず観に行っている。

 彼女とは、新橋で会う予定だった。だが、わたしのわがままで五反田に変更してもらった。五反田なら、家まで歩いて帰れる距離だ。筋肉痛が気になっていたのもあるけれど、仕事場からなるべくはなれた場所にいたかった。彼女と会うまでの時間を、ぼーっと、ひとりで過ごしていたかった。もともとひとりでいる時間がすきだったが、その傾向がこのごろますますつよくなってきた気がする。もしかするとこれが、巣ごもり本能、といわれるものだろうか。

巣ごもり本能を抱くようになると、家で静かに過ごしたいとか、ひとりになりたいとかの感情がわいてくるそうだ。おなかの赤ちゃんをまもりたい、という本能がはたらく。すると、まわりにきけんがあるかも、という信号を発信しつづけるようになる。そんなことはありえないとわかっているのに、見ず知らずの通行人がいきなりおなかを攻撃してくるかもしれない、と身がまえてしまうことさえあるらしい。ふだんはなにも気にならなかったことが心配になり、結果的にひとりの時間を好むことが多くなる。たしかに、そういう感覚はあるのかもしれないなあ。仕事をしている妊婦さんが予定より早めに休職に入ってしまうのも、巣ごもり本能が関係しているといわれている。体調を万全にして出産にそなえたい、安心してゆっくり休みたい、と思うのは自然な成りゆきだ。

 後輩との話は、ほとんどが仕事のことばかりだった。まあ、いつもとかわらずだ。ただ、いつもとちがっていたところは、ほとんど後輩の聞き役になっていたことだ。明らかにかわった。あれほど、ああだこうだとさわいでいたあのパワーは、いったいどこへ消えたのか。仕事がすくなくなったぶん、ネタが減っただけなのかもしれない。出産後にどうなるかは、まだわからない。