Diary

にんしん日記

44歳で妊娠、45歳で出産した神戸 海知代の妊娠・出産・子育てせきらら体験記。
妊娠を知った2014年6月6日からまる1年、1日も休まずつづった記録です。

10月11日、悩めるパパへ。(妊娠28週2日)

 9時半から妊娠検診。きょうはいつもより混んでいるなあ。夫婦で検診にきている妊婦さんもたくさんいるようだ。土曜日だから仕事が忙しいだんなさんもスケジュールを調整しやすいのだろう。検尿をとり血圧と体重を測って、ロビーで待つ。だんなとはすこし離れた席に座って待っていた。90分くらいは待っただろうか。そのあいだにだんなはこんな体験をしていたという。
 だんなの横の席に20代後半くらいの女性が座っていた。朝からとてもつらそうだ。うつむいたままぐったりしている。看護師さんが来て声をかけた。
「朝ごはん、たべてきましたか」
女性はだまって、首を横にふっている。
「お水はのんでいますか」
だまって首を横にふったあと、ぽつりとつぶやいた。
「…してください」
看護師さんが近づいて耳をかたむける。
「おねがい、点滴してください」
つわりがひどいようだ。いままでにも点滴をうけたことがあるらしい。
「きょうはベッドが埋まっているので、すわったままでもいいですか」
看護師さんが声をかける。
「なんでもいいです、すぐに点滴おねがいします」
そして女性は、診察室へすみやかに案内されていった。だんなはその一部始終を見ておそれおののいていたらしい。つわりってこわいわ、と、つくづく思ったんだそうだ。そういえば以前、日赤医療センターの妊娠クラスに参加したときにもパパさん同士のなかでこんな話が出ていたんだっけ。奥さんのつわりがひどくて見ていられない。出産はこれ以上つらいのかと思うと、立ち会い出産をする気にもなれないんですよ、と悩みをうちあけていた。つわりになる人とならない人のちがいについてはまだ科学的に証明されていない。ママのからだのなかによどんでいる、ひとつひとつをていねいに浄化してくれるんだ。そう思えば、のりこえることができるだろうか。パパにも立ち会ってもらいたい。

 きょうもそうすけは元気そうだ。推定体重1284グラム。とうとう1キロを超えた。もっともっとつよく大きくなって、みんなをおどろかせてごらん。

10月10日、小さくてかわいい。(妊娠28週1日)

 夜、家に帰ると、宅配ボックスに母からの荷物がとどいていた。重そうなのでだんなに運んでもらうことにした。箱が2つある。たくさん送ってくれたなあ。晩ごはんのあとでさっそく開けてみる。と、出てくる、出てくる。肌着に、べビーウエアに、お風呂グッズに。そのすべてが小さくてかわいい。母が買いものをしながら、ハイテンションになっていく気もちがわかる。赤ちゃんってこんなに小さかったんだね。だんなとふたりで、ひとつひとつ開いてたしかめる。

 肌着。肌着には、短肌着と長肌着、コンビ肌着がある。赤ちゃんがはじめて着るものだから肌にやさしいものがいい。母が選んだのは、ソフトで吸水性や通気性のある綿素材のものだ。ブルーの無地にストライプとアニマル柄。男の子っぽくてかわいい。それから短肌着4枚、コンビ肌着4枚。これだけあれば下着は十分足りるでしょう。サイズは身長50センチ。ちっちゃいなあ。
 ベビーウエア。ツーウェイオールは、新生児から6か月くらいまで使用できる赤ちゃんの基本ウエア。新生児のころはドレスタイプにして、足をよく動かすようになったらカバーオールタイプにしてつかう。これも、かわいいなあ。このツーウェイオール、おんなじ柄の帽子とよだれかけがセットになっている。いますぐ着せてみたくなっちゃうなあ。ドレスオールも、新生児から6か月くらいまで使用できる。こちらも新生児のころはドレスとして、活発に動けるようになったらカバーオールとして着られる。うすいブラウンの地にひつじさんのアップリケ。ミトンと帽子もついている。帽子にはくまさんの耳としっぽがついている。かわいい。かわいすぎる。お出かけするならこのセットにしよう。
 アフガン、おくるみは、肌ざわりがよくふかふかのものがいい。肌掛けふとんやおむつ替えシーツにもつかえる。母が選んだアフガンは白地に水色のくまさんのアップリケがついている。寒い日にもしっかりまもってくれそうだ。
 スリーピングは、新生児から6か月くらいまでに着る、寒い日のお出かけの必需品。1か月健診に行くときに着ていこう。うすいブルー地に、またまたくまさんのアップリケ。どうやら母はくまさんシリーズでそろえたみたい。
 スリーパーは、お風呂あがりや寝冷え対策にさくっと着られて、なにかと便利だ。ホックを開け閉めすればカンタンに着せられるし、バタバタあばれてもだいじょうぶ。母が選んだものは車と星の模様だ。夢があるなあ。おんなじ柄のタオルケットも入っていた。これもシリーズだ。お風呂がいまから待ちどおしい。あとはスタイ、よだれかけが3枚に、ソックスが3足。ソックスは7~8センチのサイズ。おとなの手のひらにおさまってしまいそうな大きさだ。

10月9日、赤ちゃんハイ。(妊娠28週0日)

 このごろ、母とメールでひんぱんにやりとりをしている。というか、母から容赦なくメールがくる。そろそろ、そうすけをむかえるための準備をはじめておいたほうがいいんじゃないの、と母はあわてているようだ。まだ27週めだし時間はたっぷりある。マタニティ雑誌には目をとおしているのであとは買うだけだ、と気楽にかまえている。そう思っていたら、また母のメールが。

「きょう、肌着や胴着、ソックスや小物などを買ったよ。とりよせてもらっているものもあるので、とどいたらまとめて送るね。気に入るかどうかはわからないけれど、つかうぶんには十分だと思うよ。これから必要なものがたくさん出てくるから、気がついたときにこつこつそろえておくといいよ。見ているとあれもこれもほしくなってくるけれど、よぶんなものは買わないように。子どもは大きくなるのが早いから、買いかえなくちゃならなくなるからね。台風が近づいているね。雨の日はすべらないように、しっかり気をつけて歩くようにね」
母がいちばんのりで買ってしまった。ありがたいけれど、まいったなあ。無言のプレッシャーを感じる。母はたのしんでやっているんだから、ほうっておいてもいいだろう。と思っていたのもつかの間、またまた母からメールが。

「布団、ベッド、ベビーバスはどうするの。ベビーバスは、むかしはポリでできたバスだったけれど、いまは空気を入れてつかう家庭用プールみたいなものがあるんだって。5,000円もかからないんだって。いるんだったら注文するからいってね。カタログを送るので参考にしてみてね。はじめてだから見ているうちにあれもこれもと目につくけれど、よぶんなものは買わないように。子どもはどんどん大きくなるし、3か月や4か月になるとまた体格にあわせて買わなくちゃならないものも出てくるからね。買う前によーく考えてみよう」
母さん、そんなになんどもいわれると、ほんとうに目うつりしてよぶんなものまで買っちゃいそうだよ。マタニティショップで買いものをたのしんでいる、母の姿を想像した。きっと店員さんとおしゃべりしながら、盛りあがっていただろうな。と、またまたまた母からメールが。さらに行動が進化している。

「そうすけちゃんの上着、下着、その他いろいろ送ったよ。まだまだ必要なものがあるけれど、生まれるまでにそろえようね。おむつもまとめ買いしておくといいよ。おむつカバーも1枚くらいあるといいね。ふとんは、ふわふわしたおとな用はだめだよ。やわらかすぎるとよくないからね。26日までつかえるクーポン券を同封します。あした午前中にとどくので、おたのしみにー」
そうすけちゃん、ですか。母さん、どんどんテンションがあがっているのがわかるよ。ここまで夢中にさせる赤ちゃんパワー、おそるべし。

10月8日、するする元気よく。(妊娠27週6日)

 19時から、マタニティヨガに参加した。きょうで、2回め。まだポーズをぜんぶおぼえていないので、小さなメモを見ながら参加する。マタニティヨガはいつものヨガのポーズちがいなので、いつものメンバーといっしょにレッスンできるが、安全のためにも温度の低いスタジオの入り口付近でおこなうルールになっている。いままでずっと最前列で汗をだらだら流しながらやっていたので、もの足りない気分だ。でも、そのくらいがちょうどいいんですよ、と先生にいわれている。いつもやっているヨガとはまったく別の新しい運動だと思ってください、ともいわれている。妊娠は、そのくらいデリケートなのだ。

 立ちポーズはすべて、足をどっしり開いておこなう。ひざよりも前に腰を出さないように。ふらついたら、壁に手をそえてもオーケー。しゃがみポーズは低く座りすぎないように気をつける。おなかを圧迫するポーズはすべてお休み。うつぶせのポーズもすべてお休みする。わたしがそうすけの存在に気づかなかったころにやっていた、あのポーズもお休みだ。お休みのあいだにとるポーズ、シャバアーサナも、あおむけではなく横向きになる。あれれ、寝ているときの格好とおんなじだ。からだもぽかぽか気もちいい。眠ってしまいそうだな。うとうとしていたら、そうすけが、ぐいっ、ぐいっ、と動いている。気もちいいのかな。後半戦の山場とよばれるウシュトラーサナ、らくだのポーズも、骨盤を前に出しすぎないように気をつけよう。かかとに手をつかないで、おしりにそえて。とにかくやりすぎないことだ。休みをとるところをしっかりおぼえておくこと。ひとつひとつたしかめているうちに90分のヨガが終わった。

 正直なところ、やっぱりもの足りなかった。前回は4か月ぶりにヨガを再開したこともあって、太ももの前側が筋肉痛になったり、からだに手ごたえを感じていた。今回は汗もそれほどかけなかった。たった2回だけでこれほどカンタンに慣れてしまうとは。それでも運動できることが、すごくたのしい。調子がよければ毎日つづけてもいいですよ、といわれているので、スキあらばかよおうと思う。そうすけが、元気よくするするっと無事に生まれてきますように。

10月7日、あまえ上手。(妊娠27週5日)

 産休まで2か月をきっている。できる仕事はなんでもやりたい。とついつい欲が出てしまう。ムリしすぎないように気をつけなければ。11月末に提案予定の案件をするか、しないか、で、きょうも担当者とやりとりしていた。

「おつかれさまです。あらためて、おめでとうございます。11月28日まではだいじょうぶとのこと。そのあとの産前産後3か月くらいはNG、というイメージでよろしいでしょうか。そのへんがよくわからないもので。すみませんが、だいたいでいいので教えてもらえると、たすかります」
そうだよなあ。よくわからないのがよくわかる。わたし自身もイメージできないもの。メールの相手は男性でまだ子どもがいない。なおさらだろう。

「ご連絡ありがとうございます。おさわがせしてすみません。12月1日から産休に入るので、11月28日までは十分対応できます。そこから先についてですが、予定日はいまのところ来年の1月1日といわれています。産後休暇は8週間と法律で決まっているので、予定どおりにいけば、2月いっぱいまで休んで3月からは仕事に復帰してもだいじょうぶ、ということになります。出産が遅れちゃったらそのぶん後ろにズレます。こればかりは読めません、すみません。来年の秋に復帰するつもりですが、そこはケース・バイ・ケースで必要に応じて顔を出せればと考えています。もちろん、12月以降プロジェクトにすべてをゆだねる、まかせるという考え方もあると心づもりしています」
返信をしてから、さらに追記を送った。ここはやる気をみせておきたい。
「追記です。産前休暇は自主申請なので必要に応じて出社できます。打合せもできますし、休みをとりながらメールなどで遠隔対応もできます」

 10分ほどして、メールの返事がきた。
「確認しました。結論としては、11月28日以降についてはプロジェクトにすべてゆだねていただく、というかたちでよろしければ、ぜひお願いしたいとのことです。よろしければ、オリエンへの参加をお願いします。どうかからだを大切にしてくださいね。返事をお待ちしています」
できるところまでやって、あまえちゃおう。あまえ上手でいこうと思う。

10月6日、人材育成プログラム。(妊娠27週4日)

 仕事のあと18時半から、会社の人材育成プログラムに参加した。もちろんインストラクターではなく受講生としてだ。40代から50代の参加希望者すべてを対象としている講座だ。わたしのような年齢になっても、学びの場があるのがうれしい。社会人になって長いから、学びなおす、といったほうがいいのかな。募集がきてからのまわりの反応を見ると、思ったよりもネガティブな人が多かったのにおどろいた。配置転換や出向のワナにちがいない、とか、リストラをするつもりじゃないの、とか。ほんとうのところはわからない。でも、これってチャンスになるにちがいない、と信じている。資料には、組織人材の活性化と個人の自律的なキャリア育成、と書かれている。のぞむところだ。まだまだこれから長い人生だもの、後半戦をのりきるためにはスキルとノウハウが必要だ。

 教室には25人くらいの参加者があつまった。男性がほとんどだが、女性も何人かいる。みんな、わたしとおなじように好奇心を抱いて参加しているようだ。これから11月末までの2か月間、このメンバーで研修を受けていく。どんな展開になるのかたのしみだ。きょうは3時間、ふたつのテーマで学んでいく。ひとつめのテーマは、思いこみの鎖を知ること。わたしたちが常識とよんでいることのほとんどが思いこみだったりする。それを客観的に見なおそうという、グループワークだ。ある企業の実例をもとに、チームにわかれてどこに思いこみの鎖があったかをディスカッションしていく。こういったことは、みんな得意分野だ。ふたつめのテーマは、思考フレームをひろげること。この作業でいきなり大苦戦してしまった。あなたの仕事を説明してください、との質問にこたえて、シートにサラサラと記入する。よし、よし。では、それを小学生にわかるように書きなおしてください、と新たなお題がきた。えっ、クリエイティブはどういうの。コミュニケーションってなんだっけ。日ごろからいいかげんにつかっていたことばの多いこと、多いこと。ある人は、ブランド価値、と書いたシートを目の前に置きながら、腕を組んで考えこんでいた。なんとか書きなおしたところで、インストラクターに声をかけられた。ほめてもらえるかな。

「ああ、おしいですねえ」
「えーっ、どこがまずいですか」
「ここに、広告って書いてありますよね。広告じゃあ子どもにはつうじないと思いますよ。もうちょっと考えてみましょう」
広告じゃあ伝わらないか。考えなおしてみる。なかなか、むずかしいぞ。

10月5日、みんなでお祝い。(妊娠27週3日)

 朝からはげしく雨が降っている。台風19号が接近している。日曜日なのにもったいない。きょうは、ゆっくりすごそうと思う。きのうの夜は、ダイビング仲間であつまってみんなで乾杯して、いっぱい笑ったなあ。そうすけも人気者になって、さぞかしたのしかっただろう。きれいなおねえさん4人に、おなかをなでなでしてもらって、そうすけ、そうすけ、といっぱい声かけてもらって。

 たくさんお祝いをした。Kさんがじん帯断裂から完全復活した記念、Aさんのダイビング100本達成記念、そうすけウェルカム記念。ダイバーにとってじん帯損傷は、致命的なダメージだ。シーズンまるまる見すごすことになりかねない。Kさんは、完治に半年かかる、と医師にいわれて、ダイビングの予約をすべてキャンセルしたという。つらすぎる。こころが痛むなあ。それでも、ここであきらめないのがKさんのすごいところだ。半年かかるところを3か月で完治させた。はじめの1週間じっとしていたのがよかった、という。さらに感心したのが、奥さんのJさん。治るまでずっとKさんにつきあっていたそうだ。目の前に海が待っていても夫のために行かなかった。半年まるまるがまんをするつもりだったとは。半年がまんする、ということは、来年のシーズンまでまるごとがまんすることになってしまう。わたしにもできるだろうか。だって、バディだから。Jさんの話をききながら、だんなも深くうなずいている。バディ。なんて崇高な言葉だろう。そうすけといっしょにもぐれるようになるまで、ダイビングはしない、と、こんどはだんながいいだす。そりゃ極端でしょうと心配になるような、それでもうれしいような複雑な思いだ。どうかストレスがたまりませんように。

 みんなが、そうすけのめんどうをみるからいっしょにもぐろう、といってくれる。その言葉だけでもありがたい。妊娠をしているとよく孤独な気分になることがある。いってもしかたがないからいわないでおこうのくりかえしが、そんな気もちにさせるのだろう。妊娠は本人でなければわからないことも多いからあたりまえだ。そう自分にもいいきかせながら、ゆるゆるかわしていくつもりだ。そうすけが生まれるまでに、もっとつよいこころをもちたいと思う。

10月4日、マタニティヨガ。(妊娠27週2日)

 ゆっくり風呂に入って、身じたくをして、ヨガのスタジオへ向かった。マタニティヨガのオリエンテーションだ。きょうは、説明をきくだけ。あしたからレッスンに参加できる。だんなも、ひさしぶりにレッスンを入れている。もう何週間休んでいたんだっけ、とだんなが不安そうにいう。けっ、とそうすけがけりを入れてきた。はげましているのかな。そういえば、ドライヤーで髪をかわかしているときにも、そうすけはよく動いている。風を感じているのだろうか。正確にいえば、風を感じているわたしを感じているのだろうか。おなかのなかで気もちよくすごしてくれると、うれしいなあ。きっと子宮筋腫だらけのぼこぼこの部屋だけど、ロッククライミングをたのしむようにたのしんでくれますように。いいものをたべて、できるだけ環境をととのえておこうと思う。

 15時に先生と約束していたのだが、15分経ってもあらわれない。なにかあったんですかねー、と受付のおねえさんが先生の携帯電話に連絡をとってくれた。先生から、わたしに電話をかわってもらえますか、とのこと。おねえさんから受話器を受けとると大きな声がきこえてきた。外にいるのかな。
「みっちゃん、おめでとうございます」
「あははは、どうも、ありがとうございます」
「ちびの運動会に出ていたんだけど予定がくるっちゃって。いま終わったところなのよー。どうしよう」
「それは、たいへんでしたね。あしたもだいじょうぶですよ。午後レッスンを入れるつもりだったんで」
「オリエンテーションのあとですぐレッスンできるようにするから」
「へぇ、そんな手があったとは」
「うん、話すだけだから。あしたの予約入れといて」
「らじゃーです」
といいながらも、先生はあした話す内容をぜんぶ電話で教えてくれた。いつものポーズのなかに、いくつかお休みをするものがあること。たとえば、うつぶせになったり、おなかを刺激するポーズはお休みする。足をどっしり開いて、落ちついておこなうこと。具合がわるいと感じたらすぐに休むこと。汗をかこうとがんばらないでリラックスすること。気もちよくからだを動かそう。

10月3日、けられる快感。(妊娠27週1日)

 歯のクリーニングに行った。診察室に入ると、観葉植物がふえている。緑のいやし空間だ。歯科衛生士さんが、いつも患者さんに接するようにていねいに世話をしているんだろうな。葉の先っぽまで青々と元気よく育っている。
「ちょっとでも、気分がよくなるといいなあって」
「ステキ。いい気づかいですねえ」
「もともとは、自分のためだったんですよ。朝から晩まで、ずっとここにいるでしょう。だから、ちょっとでも気もちよくしたいなあって」
「それ、大事ですよね。自分が気もちよくなくっちゃ、相手も気もちよくなれないもん。わたしも忘れないようにしようっと」
「そういってもらえると、うれしいです」
「ここにやってくる患者さんも、みんなよろこんでいるでしょう」
「リラックスできるよ、っていってくれますね」
毎日を気もちよくすごすためのコツって、ほんとうに身近なところにあるんだなあ。グリーンがそこにあるだけでこんなに環境がかわるとは。お気に入りの花を飾ったり、部屋をつかいやすく整とんしたり。どんなにいそがしくても心がけていたいものだと思う。そうすけも、元気に動いている。笑っていないのに、笑っているみたいにおなかがゆれている。よく動いているなあ。

 1日のなかで、そうすけがよく動くタイミングがある。朝、山手線にのっているとき。なぜかわからないが山手線だ。地下鉄にのりかえると、おとなしくじっとしている。午後、パソコンで文章を書いているとき。自分も考えているつもりになっているのだろうか。打合せをしていると、ツッコミを入れてくれるときもある。つまらないことを話していると、けっ、とけりを入れてくる。話が理解できるとはとても思えないが。けられるたびにニヤニヤしてしまうおかげで、いつもにこやかに対応できるようになった。そうすけ、ありがとう。帰りの山手線もお気に入りだ。座っているときのほうが、よく動いているみたいだ。明け方の午前4時ごろにも、よく動く。夜ふかしがすきなのか超朝型なのかどっちだろう。わたしに似ているとしたら、きっと夜型にちがいない。

10月2日、パパもマタニティ。(妊娠27週0日)

 仕事の帰りにスーパーへ寄った。晩ごはん、なににしようかな。ヘルシーな湯どうふにしようかな。きのこと野菜でかさ増しすれば、たくさんたべてもいいよね。えのき、しいたけ、ぶなしめじ、まいたけ。きのこもいろいろあるけれどどれにしようかな。いくつかを組み合わせたらおいしそう。ふと横を見ると、スープの素がならんでいる。へえ、きのこ鍋の素があるんだ。いいなあ。これにしよう。まんまとスーパーの戦略にはまっている。でも、これでいいのだ。たべたいと感じたものをたべるのだ。帰ったらすぐ鍋の準備をしよう。

 だんなも早く帰ってきた。わたしよりも先に帰って家にいた。めったにないことだ。入れていた予定がキャンセルになったという。ラッキー。いっしょに鍋をつつきますか。だんなはビール、わたしは麦茶で乾杯だ。ところが、15分も経たないうちに、だんながごちそうさまをした。まだ、鍋はたっぷりあるのに。まんぷくだからいいという。からだの調子がわるいのかな。リビングのソファーでくつろいでいる様子をみておどろいた。おなかがぽっこり出ているではないか。妊娠3か月といったところだ。いつのまに太ったんだろう。

「おなか大きくなったね」
「体重はかわらないんだけどね」
「このごろずっとヨガを休んでいたもんね。また、行ったほうがいいね」
「行く気がなくなっちゃって」
「週末、いっしょに行こうか」
「えっ、じゃあ妊娠検診はどうするの」
「いずれは日赤医療センターに行くわけだし。早めにスイッチしてもいいかなあって。大崎の先生にはつぎに会ったとき話そうと思っているよ」

わたしが妊娠して、だんなもかわった。週末はできるだけ家にいてつきあってくれている。知らず知らずのうちにストレスがたまってきているのだろう。いまならいっしょに運動をはじめられる。妊娠生活のリズムをきりかえるチャンスがきているのかもしれない。思いたったら、迷わないではじめてみよう。