Diary

にんしん日記

44歳で妊娠、45歳で出産した神戸 海知代の妊娠・出産・子育てせきらら体験記。
妊娠を知った2014年6月6日からまる1年、1日も休まずつづった記録です。

10月21日、こども広告教室。(妊娠29週5日)

 午前9時前。小雨がぱらつくなか、千代田区にある小学校の校門前で待ちあわせた。これから、広告の授業がはじまる。ポスターをつくるたのしさやおもしろさを、6年生のみんなといっしょに体験する。これはコピーライターズクラブが企画したボランティア活動で、毎年おこなわれている。わたしが参加するのは、今回が2度めだ。校門の前に立っていると、つぎつぎにメンバーがあらわれた。講師のみんなも、顔がほころんでいる。これからおこる出来事に、胸をわくわくさせているのだ。さあ、今年はどんな子どもたちが待っているのかな。

「みなさん、おはようございます」
「おはようございます」
広告の授業は、元気なあいさつからはじまった。大きな教室に2クラスぶんの生徒があつまって話をきく。広告ってなんだろう。広告ってどんなふうにつくられるんだろう。の、お話からだ。三角座りをしながら、みんなが顔を上げてきいている。好奇心で目がきらきらしている。このコマーシャル知っているよ、とか、この広告だいすき、とか、ぽんぽん感想がとびだしてくる。広告を手がけているわたしたちにとって、これほどうれしいことはない。お話が終わると、クラスにもどってチームにわかれて、いよいよポスターづくりだ。

 わたしの担当したチームは、女の子が2人と男の子が3人、ぜんぶで5人のチームだ。おませな女の子とやんちゃな男の子。このくらいの年齢だと、女の子のほうがぐんと大人っぽい。見ためも女の子のほうが身長が高くて、からだも大柄に見える。2人の女の子は、3人の男の子を小気味いいくらいに尻に敷きながら打合せをすすめていく。男の子のやんちゃ坊主に、どんどん拍車がかかる。おたがいにそうやって、ここちいい関係がキープされている。なんと絶妙なバランスだろう。彼らはこのまま、おとなになっていくんじゃなかろうか。おどろき見まもっているうちに、ポスターがつくられていった。途中で字をまちがえたりもしたけれど、がんばって、もういちど1から書きなおして、5人のチカラをあわせたポスターが完成した。チームのなかでまとめ役をしていたじゅんいちろうくんが、発表をすることになった。うまく説明できなくてうつむいているじゅんいちろうくんを、みんながかわるがわるフォローしはじめた。がんばれ、がんばれ。

10月20日、安産祈願。(妊娠29週4日)

「肌が、がさがさする。日焼け止め、ぬっておけばよかったなあ」
だんなが、うなじをしきりに気にしている。あらら、ホントだ。ずいぶん日焼けしちゃったなあ。乾燥もひどい。週末に泊まりがけでゴルフに行って、一気に肌を焼いたからだろう。ひさしぶりの仲間と夢中になってあそんでいる様子が、目に浮かぶ。きのうは、家に帰ってきてからグラスに注いだビールをひと口ものまないうちに眠ってしまったもんね。こういう息抜きだって、たまには必要だと思う。すっかりリフレッシュできたのだろう、いい顔をしている。

 仲間のサプライズで、安産祈願にも行ってきたそうだ。10月18日が戌の日だから、ということでさっそく、男6人で産泰神社へおまいりに。産泰神社はその名のとおり、安産と子育ての神社として有名だ。だんなはなんと、たくさんの妊婦さんといっしょにならんで男1人で祈願をうけていたという。その様子を中継でいいから見たかった。よろこんでくれる仲間がそばにいて、だんなもわたしもシアワセもんだ。きっと、そうすけも感謝しているにちがいない。だんなが大切にもって帰ってきた安産のおまもりは、玄関に飾っておくことにした。これならいつも見られるし、ずっと安産を意識できそうだ。産泰帯、とよばれる腹帯は、美しすぎて身につけるのはもったいないので、おまもりのかわりに、寝室に飾っておこう。この白い箱を見るたびに、背筋がのびて気もちがしゃんとする。

 ゴルフをしているあいだにも、だんなは4人の先輩パパにいろいろ教えてもらっていたようだ。仕事では先輩や同期や後輩だった関係がパパ友になるなんて、いままでは考えたことがなかった。おもしろい。話題は、子どもの運動会で1等賞をとる方法にまでおよんだらしい。生まれる前から、いっしょうけんめいだ。だんなは、加齢による体力の低下を気にしているらしい。そこで6人で勝つための対策を考えた。だんながピンチになったら入れかわって代走する、というシンプルな方法だ。これならいつでも1等賞をキープできる、と豪語する。その自信がどこからくるのかわからないけれど。みんなの気もちがうれしい。そうすけにはたくさんの味方がついている。安心して、生まれてくるんだよ。

10月19日、冷えにご用心。(妊娠29週3日)

 きょうは、からだのメンテナンスデーだ。マタニティヨガでじっくりあたためながらほぐして、鍼灸マッサージで循環をよくして、フェイシャルエステで肌を仕あげる。スペシャルコースだ。じつはたまたま予約がこの日に集中しただけなのだが。まめにかようのがニガテなわたしにはちょうどいい。遅刻しないように気をつけなければ。それだけは心づもりしていた。時間をまもるつもりが逆にハプニングを引きおこすきっかけになろうとは、思ってもみなかった。

 マタニティヨガのあと、カフェでかるくランチをとることにした。なんにしようかな。せっかくだから、からだにいいものを選びたい。たまごと野菜のサンドイッチと、いちごとバナナのスムージーをオーダーした。スムージーはいつもMサイズだが、思った以上に汗をかいてのどがかわいていたので、Lサイズにした。しばらく待つと、スムージーの入ったグラスがきた。ジョッキほどの大きなグラスだ。こんなにいっぱいのみきれるかな。まぁだいじょうぶだよね。スムージーだいすきだし、おいしいし。トレーをもってテーブルへ。
 ひと口のんだら、きゅーん、と、のどにきた。おいしい。でも、思った以上に冷たい。のどから胃へ冷たさがすべり落ちていく。胃のあたりにとどいたところで、おなかのなかのそうすけがおどろいたみたいだ。ぼこ、ぼこ、と、いつもよりもはげしく内側をキックしてくる。あああ、ごめんよお、そうすけ。そうだった。胃と子宮はとても近くにあるため、胃に入ったものの熱が伝わりやすいという。からだが冷えると血流がわるくなり、赤ちゃんへ酸素が運ばれなくなる。だから、赤ちゃんにとっては冷えが大敵なのだ。助産師さんの話によると、冷えで逆子になりやすくなるという。胃に冷たいものが入ってくると、赤ちゃんはおしりがひやっとするのがいやなので、じぶんのおしりをお母さんの胃から遠ざけるようにして逆子になっていく。そうだよなあ。冷たい椅子には長時間もすわっていられない。頭寒足熱にすわりなおしたくなるだろう。

 すこしずつ、すこしずつ、ムリしないように気をつけてのんだけれど。しばらくのあいだ、そうすけのキックはとまらなかった。おなかをあたためようと両手でさすっていると、もこ、もこ、と、おだやかな動きにもどってきたのでほっとした。冷たいものをいつものノリでぱっとのまないように、日ごろから気をつけよう。いまちょうどおなかのなかでウォーミングアップしているであろう、そうすけの姿を想像しながら、あらためて思った。あと2か月半だね。

10月18日、音の世界。(妊娠29週2日)

 キーボードが、ほしいなあ。と思いながら、家電量販店をぶらぶら。独身のころにも電子ピアノを買ったことがあるけれど、大きすぎて引っ越しのときにもっていくのをあきらめてしまった。こんど買うなら、できるだけシンプルで持ち運びがしやすくて音がよくて鍵盤の手ざわりがいい、そんなキーボードがお手ごろ価格で見つかるといいなあ。店頭展示品をためし弾きしていると女性の店員さんが近づいてきた。お買い得の商品があれば教えてもらおう。
「あの、キーボードと電子ピアノのちがいはなんですか」
ああ、ついちがうことをきいてしまった。
「鍵盤のタッチがちがうんですよね。電子ピアノはピアノのタッチ。キーボードは、板バネのようなものをつかっているからかるいんですよ」
「なるほど。値段はどうちがうんでしょう」
ききたいことに、ちょっと近づいた。
「タッチと鍵盤数、あとは音質の差だったり、機能だったり。たとえばこのキーボードには、本体に録音機能がついています」
録音機能か。そうすけに、なんどもきいてもらえるなあ。
「鍵盤数は、目的にあわせて選ぶといいですよ。ロックとかのバンドでつかうなら、61鍵あればだいじょうぶ。クラシック系なら、やっぱり76鍵はほしいところですね。お客さまは、どんな目的ですか」
「クラシック系ですね」
ピアノがわりに弾くつもりなので、クラシック系でしょう。それにしてもあらためて見ると大きいなあ。部屋のどこに置けばいいんだろう。などと、ぼんやり考えていたら、店員さんが日ごろの業務にもどっていった。すぐに買う気はないと察したのだろう。ためし弾きで満足できたのできょうは帰ろう。

 帰りにCDショップに寄って、ピアノ曲集のCDを買った。だいすきな湯山昭さんの『音の星座』と『お菓子の世界』。お菓子の世界は、ピアノを習っていた学生のころになんども練習したなあ。家に帰ると、さっそく風呂に湯をためてつかりながらきいた。なつかしい。自然に鼻歌が出る。そうすけも、ゆっくり動いている。ピアノの音がここちいいのだろう。妊娠28週をすぎたころになると、おなかの壁をとおして外の音や声がきこえるようになる。羊水のなかなのでくぐもった音だけれど、イントネーションや音の質感もわかるようになるという。そうすけは、どの曲がすきなのかな。たしかめてみようかな。

10月17日、いえなかった感謝。(妊娠29週1日)

 地下鉄で、席をゆずってもらった。虎ノ門から銀座まで、たった4分の移動なのに。たいへん申しわけない気もちだ。ゆずってくれたのは、わたしよりも年上の女性だった。あたりまえのように迷いのない行為に、このまま見すごしてはいけない、感謝の気もちをちゃんと伝えて数分でもすわらせてもらおうと思った。小さいころ母からよく、ありがとうをしなさい、と、しかられていたのをおぼえている。気もちはコトバにしないと、なんにも伝わらない。コトバは行動にしないと、なんにもはじまらない。わかったつもりでいてもいままでしてこなかったことだ。やってみよう。いまがそのチャンスなのだ。

 席をゆずってもらったのは、これがはじめてではない。妊娠8か月に入ったころから、急にふえてきたと思う。おなかが大きくなって、あきらかに妊婦だとわかるからだろう。はじめのうちは、そのやさしさをどううけとめていいのかわからなくて、ためらっていたけれど。すぐ降りますので、と、やんわりことわったりしたこともあったけれど。しっかり向きあってありがとうの気もちを伝えていなかったことを、いまさらながら反省している。たまたまのりあわせた電車のなかで、名前も知らない同士なのに、あたたかい声をかけてくれたり、ささえてくれたり。そうやって、ひとつの小さないのちが大事に大事にまもられて生まれてくる。きっとわたしが母のおなかのなかにいたときにも、そうすけとおなじ体験をしていただろう。そうすけ、きみが生まれてくるのをみんなが歓迎しているんだよ。そのよろこびをひとつひとつ、わかちあいたいと思う。いえなかったありがとうのぶんもひとつひとつ、感謝しながら。

 とはいえ、電車通勤はハードだ。人のやさしさにふれながらうっとりしている場合じゃないことも多い。あいかわらず、JRから地下鉄へのりかえるときの混雑ぶりには気おくれしそうになる。いつもどおりのタイミングで電車にのろうとすると混んでいる電車にがまんしてのらなければならなくなるので、よゆうをもって出ることにしている。何本か見送るたびにもったいないと思ってしまうわるいクセをなんとかしなければ。時間貧乏性とのたたかいは、つづく。

10月16日、予定日まで77日。(妊娠29週0日)

 妊娠29週0日をむかえた。出産予定日まで、あと77日。ハッピーな1日のはじまりだ。朝いちばんに7がならんでいるのを見つけたよろこびもあるけれど。そうすけと会える日が着々と近づいていることがうれしい。29週めをむかえた赤ちゃんは、身長が40センチほど、体重は1100グラムから1500グラムほどにまで大きくなる。脳も順調に発達して、考えたり記憶したりする能力や感情もしっかりめばえてくる。胎内記憶をもつ赤ちゃんもいるという。

 胎内記憶とは、お母さんのおなかのなかにいたときの記憶のこと。もっと具体的にいえば、陣痛から誕生までの誕生記憶。おなかにやってくる前の中間生記憶もあるけれど、一般的には、生まれる前の記憶をまとめて胎内記憶とよんでいるそうだ。言葉を話せるようになると、思いだして話しだすという。

 たとえば、おなかのなかにいたときの記憶。
ぼくは、ピンク色の部屋のなかにいたんだ。あるところをキックしたら、お母さんがあそんでくれるから、そこをときどきキックしたよ。お母さんが眠りそうなときも、もっとあそんでほしいから、いっぱいキックしていたよ。お母さんのおなかのなかに、おもちゃを忘れてきちゃった。長いひもみたいなおもちゃ。引っぱったけれど、ぜんぜんとれなかった。きっと、のりでおなかにくっついていたからなんだろうね。

 たとえば、陣痛から誕生までの記憶。
せまくてくらいところから出たくて出たくてうーんとがんばっていたら、わあって、まぶしくなったよ。あかるいところに出たら知らないおじさんが待っていたよ。あっちとこっちをぎゅうってされてね、ぐいーんぐいーんって、ひっぱられたんだよ。うわあってまぶしくなって、えーんって泣いちゃった。

 たとえば、おなかにやってくる前の記憶。
お空の上にあるふわふわの綿菓子みたいなところで、たくさんのお友だちといっしょにいたんだ。お父さんとお母さんが見えて、お母さんがいちばんかわいくていっぱい笑ってすごくやさしそうだったよ。だから神さまに、この人のところにいきたいって、おねがいしたんだよ。ながーいすべり台をすべってきたよ。すべり台は、にじみたいに光っていてあつかった。地球が見えてきて、もうすぐお母さんのところに行けるんだってわかったよ。途中でわかれ道があったけど、迷わないできたよ。もうひとつの道に行ったら、別のお母さんのところに行っちゃうんだって。

 胎内記憶を話す確率が高いのは、2歳から3歳のころ。リラックスしているときに、おなかのなかにいたときはどうだった、とお母さんからそっと問いかけてあげると、気づいたようにこたえてくれる子どもが多いんだそうだ。そうすけはどんな記憶を抱えて生まれてくるだろう。いっぱい話してくれますように。

10月15日、いいわけしたい。(妊娠28週6日)

 全国吹奏楽コンクールが近づいてきた。高校の部は10月26日。前半と後半にわけて、まる1日かけておこなわれる。吹奏楽ファンにとっては、年に一度の一大イベントだ。わたしも、ほぼ毎年かかさずかよっている。中学から大学のころは出場をめざしていたが、いまは、もっぱら観客のひとりとして参加している。このコンクール、正確には全日本吹奏楽コンクールとよばれるものでアマチュア吹奏楽団体だけが出場できる。中学、高校、大学、職場・一般の4部門にわかれておこなわれる。なかでも高校の部が、わたしはだいすきだ。たった12分の演奏時間にささげる青春。高校生たちのひたむきさを目のあたりにするたび、胸があつくなる。コンクールをめざす彼らを何か月もかけて密着取材しているテレビ番組もかならず録画して見ている。見ながら、泣いている。泣きながら、自分の10代を思いだしている。それを、毎年くりかえしている。

 高校の部のチケットは、手に入れるのがたいへんだ。指定席制でしかも抽選になっている。抽選にもれると、ネットオークションやチケット売買サイトでチャンスを待つことになる。ここ数年、抽選にはずれて、オークションで何倍にも値上がりしたチケットを入手していた。そこまでしても、行くだけの価値があると信じている。それが、わたしにとっての全国コンクールなのだ。ところが、なんと、今年は、前半の部の入場券が抽選に当たった。うれしい。いつもいっしょにかよっている後輩にすぐ連絡をとった。後半の部の入場券だけオークションで入手すれば、だいじょうぶだね。そう話していた。なのに、今年はなぜか思ったとおりに落とせない。これ以上は払えないよ、という金額をかるく超えてしまうのだ。いままでにない違和感。見えざるちからのしわざだろうか。

「そうすけが、ムリしないでね、って、おねがいしているんじゃないの」
と、だんながいう。え、そうなの。そうなのか。そうだったりするのかも。冷静に考えると、だんだんそんな気がしてくる。コンクールがおこなわれる名古屋国際会議場に9時に着こうとすると、6時には家を出ることになる。終わってから夜ごはんをたべずに新幹線にのったとしても、帰りは22時をすぎるだろう。やっぱりきついかも。このところ、おなかが大きくなってきて、背中がすぐに痛くなるのも気になる。あのシートに、ずっと座っていられるかな。しかも週明けにはコピーライターズクラブのイベントがひかえているじゃないか。運営係を手つだう約束をしていたよなあ。コンディションをととのえておいたほうが、いいんじゃないの。1日かけて考えた、結論はこうだ。チケットは、この秋に華麗なる転職を決めた後輩にプレゼントしよう。お祝いにすれば、あきらめがつくはず。

10月14日、背中の痛み。(妊娠28週5日)

 いたたたた。また、たべすぎてしまった。満腹になると背中が痛む。こればかりは、ヨガや鍼灸マッサージをしていても解決できずにいる。おいしいものに夢中になるたびに、いつもこうなってしまう。もちろん、たべすぎなければいいことはわかっているのだが。8か月めのいまがこんな状態だと、2か月後の臨月にはどうなっているんだろう。背中の痛みを想像するだけでもぞっとする。

 妊婦の約2人に1人が、妊娠の後半に入ってから背中の痛みを訴えるようになるらしい。そのおもな理由は、3つある。出産が近づくにつれて赤ちゃんが骨盤のなかをスムーズにとおれるように、靭帯(じんたい)がゆるみはじめる。靭帯は背中の筋肉につながっていてそこがぐいっと引っぱられるため、背中に痛みを生じる。さらにのびきったおなかの筋肉をサポートしようとして、また背中に負担がかかる。そのうえ、おなかが大きくなったぶん重心が前にかかるようになるためバランスをたもとうとして、またまた背中に負担がかかるのだ。

 背中の痛みをかるくするためには、どうするか。マタニティエクササイズやマタニティスイミング、マタニティヨガなどで、筋力をつける。ストレッチや妊婦体操などで、循環をよくする。椅子に座るときには、できるだけおしりがしずまない椅子を選んで深めに座る。おしりの下や背中にクッションをはさんでバランスをとる。荷物をもつときには左右対称に。おなじ側ばかりにバッグをかけないようにする。靴は5センチ以下のかかとのあるものを選ぶと、背中に負担をかけないでからだを支えられる。すこしずつたしかめてみよう。

 いちばんの対処法は、だんなのマッサージだ。妊娠中はうつぶせの姿勢ができないので、横向きに寝た姿勢になって親指や手のひらでぐいぐい押してもらっている。ときどき指圧がつよすぎて文句をいったりもするけれど、それでも十分ラクになれる。からだの左側を下にしながらもんでもらっていると、リラックスもできるし、赤ちゃんにたっぷり血液を送りこんであげることもできるし、まさに一石二鳥だ。だんなとのスキンシップもできるから、一石三鳥だよね。

10月13日、体育の日。(妊娠28週4日)

 きょうは、体育の日。じつは、結婚記念日でもある。ちょうど16年前の体育の日、平成10年10月10日に結婚した。この日にしたのは、ぞろ目でおぼえやすいからだと思っていたけれど、だんなはちがった。この日にプロポーズをしたからだという。わたしの記憶があいまいで、この話をするたびに不穏な空気が流れるので、なるべくそっとしている。とはいえ、大切な記念日であることにはまちがいない。そうすけといっしょに結婚記念のお祝いをしよう。

 いま大型の台風19号が近づいているが、昼間は外にいてもだいじょうぶそうだ。さっそく、マタニティヨガのレッスンに出かけることにした。おなじことを考えてやってきた人が、たくさんいるようだ。いつもよりもスタジオが混んでいる。と、わたしの前にいる女性が声をかけてきた。
「マタニティですか」
「はい」
「わたしもです。いま6か月なんです」
このスタジオには4人がマタニティヨガのレッスンにかよっているときいていたけれど、実際にマタニティの人といっしょにレッスンをうけるのははじめてだ。心づよい気もちになる。入念にストレッチをくりかえす後ろ姿を見て、なんてきれいだろう。と、うっとりした。いままでかよっていた人のなかには、出産の前日にもふだんどおりにヨガをして、当日もレッスンを予約していたスーパーウーマンもいるという。身につけた呼吸法のおかげで初産にもかかわらず安産だったそうだ。9か月も、10か月も、ずっとかよいつづけるつもり、と彼女はいった。わたしももちろん、臨月になってもかよいつづけるよ、と胸を張った。

 マタニティヨガをしている時間は、そうすけとのコミュニケーションの時間にもなる。お休みのあいだにとるポーズ、シャバアーサナのときにそうすけはよく動く。ぐいっ、ぐいっ、と元気よくからだを動かしている。そうすけの動きをいちばんはっきりと感じる瞬間だ。あたまのなかをからっぽにして、からだのちからをぜんぶ抜いて。この一瞬一瞬をからだの記憶に残しておきたいと思う。

10月12日、居場所を確保。(妊娠28週3日)

 とうとう買ってしまった。ベビーベッドとベビーふとん。マタニティ専門店がセールしているのを見て、店員さんにも話をきいてその場で、えいや、と決めてしまった。そのいきおいにだんなもびっくりしていた。もう、あともどりはできない。買っておいていまさらあともどりってなにいってるんだよー、と笑われそうだけど。それくらいの覚悟をしている。とにかく、そうすけの居場所は確保できた。あとは元気に産むだけだ。ぼむっ、と、おなかがひとまわり大きくなった気がする。ベッドとふとんは、11月1日に家へとどけてもらうことにした。それまでに、部屋のレイアウトをどうするか考えておこう。

 ベビーベッドを買う前に、ほんとうに必要かどうか、でかなり迷った。調べてみると賛否両論だ。ベビーベッド必要派はこんな理由をあげている。
・首がすわっていない新生児のころは、ベビーベッドのほうが安心。
・ちょっと目をはなすときにも、ベビーベッドにいれば安心。
・おとな用の寝具は赤ちゃんのことを考えているかたさではないので、からだに負担をかけることもある。
・添い寝をすると、寝相がわるくてケガをさせてしまいそう。
・ベッドの下にいろいろなものがしまえるから便利。
・ひとりで寝られるようにしておかないと、ひとりじゃ寝られない子になってしまうから。
・おひるねにもちょうどいい。
・ほかの子どもやペットがいると、赤ちゃんにけがをさせてしまいそう。
・腰痛もちなら、適度な高さがあるベビーベッドのほうがおむつ替えのときに負担もかからないしつかいやすい。
ベビーベッド不要派はこんな理由をあげている。
・ベビーベッドをつかったが、なかなか寝ついてくれなくてけっきょく添い寝ばかりしていた。
・スペースをとりすぎる。つかい終わってからも置き場所に困った。
・寒い日にベッドまで移動して授乳をするのは、正直つらい。
・お金のムダづかいだと思う。ほかにもいっぱい出費がかさむのに。
だんなもわたしも寝相がわるいので、添い寝をするには勇気がいる。やっぱりベビーベッドをつかったほうがよさそうだ。レンタルをするか、購入するか。これもずいぶん迷ったが、2歳までつかうと仮定してレンタルをした場合と購入した場合のコストを比較してみて、買うことに決めた。

 ベビーふとんは、母がすすめていたセットをセールで購入した。ふとんも高額なものから安価なものまでいろいろな種類がある。店員さんの説明をきいて、手ざわりと肌ざわりで選ぶことにした。生まれたばかりの赤ちゃんの睡眠時間は、1日に16時間から20時間。1日のほとんどをふとんのなかですごすことになる。赤ちゃんにとっては、世界の中心がふとんになるわけだ。そう考えると、母があんなに素材にこだわっていたのも納得だ。いいものを選ぼう。