Diary

にんしん日記

44歳で妊娠、45歳で出産した神戸 海知代の妊娠・出産・子育てせきらら体験記。
妊娠を知った2014年6月6日からまる1年、1日も休まずつづった記録です。

12月11日、いよいよ正産期。(妊娠37週0日)

 正産期をむかえた。とくにかわったことはない。もう、いつ生まれてきてもだいじょうぶだよ、そうすけ。でも、もうすこしいっしょにすごしていたい。いつものように、マタニティヨガのレッスンに行く準備をはじめた。ヨガのポーズをとっているときにも、ごはんをたべているときにも、ぐっすり眠っているときにも、ずっと、すべてをそうすけと分かちあいながらすごしてきたので、コンビでいるほうが自然になっているのだ。いったん外の世界に飛びだしたら、好奇心の向くままに、どんどんとおくへ行ってしまうんだろうなあ。それはそれでうれしいけれど。まるで、嫁入り前の娘をもつおやじの心境になっている。

 家を出る前、洗面台で髪をといているときだった。右のわき腹、ろっ骨の下あたりに、がつん、と衝撃が走った。あまりに突然のことだったので、その場にうずくまってしまった。ぎゃあ、というよりも、うぐぐっ、とうめきたくなるような深い痛み。そうすけにちがいない。おねがいだから、この角度でキックするのはやめてね。こういうのには、よわいんだから。ずしっ、と重い痛みがつづいている。脂汗まで出てきた。しばらく横になって休むことにしよう。きょうは大事をとってヨガもお休みしよう。どうか、キックがくせになりませんように。しばらくしたら気分も落ちついてきたので、風呂で汗を流すことにした。

 風呂に入っているときにも、またおなじところをけられた。湯船のなかでしばらくじっと耐えていた。反応してよろこばれたら、こわい、こわい。あしたちょうど検診をうけるので、アドバイスしてもらおう。痛みがほんのすこしやわらぐだけでもありがたい。きょうはとにかくリラックスに徹することにした。けられたあたりの肌に蒸気の温熱シートを貼ってみるとぽかぽかして、だんだんラクになってきた。左右シンメトリーに貼ると、さらに気もちよくなってきた。こうして予定日までのりきっていくのだ。そうすけには、ここをキックすると痛くてこまるんだよ、と、なんども話しかけてみた。気分だけでも伝わってくれるとたすかるんだけど。まだまだ保育園の見学会にも出かけたいし、ぎりぎりまでマタニティヨガもつづけたいし。しっかり予定日をむかえられますように。

12月10日、保育園探訪。(妊娠36週6日)

 きょうは、保育園の見学会を3つ入れている。1つあたりに1時間かかるとしても、あいまにゆっくりお茶できるくらいの時間配分。ちょうどいいぐあいに予約がとれてよかった。どんな話がきけるのか、たのしみだ。ネットで事前に調べていても、実際に見ないとわからないことだらけにちがいない。

 1つめの保育園は、昭和49年に開園されたという。歴史と伝統とプライドを感じる。ここを第1志望にしている人も多い。パパとママふたりで見学会にきている家庭も。気合いがちがうなあ。規模が大きくゆとりがあって、園全体におだやかな空気が流れている。子どもたちものびのびと元気そうにあそんでいる。先生の説明がひととおり終わったところで質問タイムへ。パパから熱意のこもった質問がつぎつぎに出てくる。ほかのパパからも。まるでアピールタイムだ。

「急にむかえに行けなくなったときにも、延長してもらえるんですか」
「ケースバイケースですが対応しています」
「延長の手つづきは?」
「なるべく17時ごろまでにご連絡いただけるとたすかります」
「17時までにできなかったらどうするんですか?」
「連絡がきた時点ですぐに先生と相談して対応策を考えます」
ていねいな受け答えを目のあたりにして、この保育園を第1志望にしている人が多いのにも納得した。もともと第1志望ではなかったが、ぐらついてくる。

 2つめの保育園は、小規模保育事業とよばれている保育園。生後57日以上の0歳児から満3歳未満の子どもまでが対象となる。入った瞬間、暗いなあと思っていたら、おひるねタイムだった。部屋があたたかくて静かでここちいい。ゆったり見まもられている安心感がある。先ほどの保育園とはまったく印象がちがっておどろいた。1人の保育士が3人の子どもを徹底して保育する、家庭的で愛情深い保育が特長だという。基本保育料は月額2万円。給食がないため自分で準備しなければならないのと、延長時間が19時までなのが、わたしにとっては課題だ。

 3つめの保育園は、昭和51に開園。ここも実績のある保育園だ。元気にあそぶ子、をパンフレットの1ページめに掲げていることもあって、とにかく子どもたちが活発だ。見学会にきているパパやママにがんがん話しかけてくる。
「こんにちはー」
「はじめまして」
「きょうは、なにしにきてるのー」
「保育園のね、見学会だよ」
「ふーん、入るんだ」
「入れたら、うれしいなあ」
近くにシルバーセンターやふれあいデイホームがあって、そこのおじいさんやおばあさんとの交流もしているそうだ。だから、おとなと話すのにもなれているのかもしれない。駅から歩くが、園庭がひろくて環境もよさそうだ。

 今週から来週にかけて、あと4つの保育園に予約を入れている。きょう見た3つの保育園だけでもこんなに印象がちがっていたとは。調べればたくさんの口コミがあふれているけれど、まずは先入観をもたずに行って、直接話をきいてみようと思う。そうすけにも感想をきいてみたいんだけどなあ、ほんとうに。

12月9日、ママはしあわせ。(妊娠36週5日)

 12時半、恵比寿駅近くのレストランで待ちあわせる。前の会社でお世話になったボス夫妻と同期のコピーライターと4人でランチだ。うまいもんにくわしいボス夫妻が選んだ、肉がおいしいと評判の店にせいぞろいした。同期のコもわたしもワクワクしっぱなしだ。同期のコピーライターは1つ年下の女性なので、40代だが同期の“コ”とよぶことにしよう。彼女はいま12歳の息子さんがいる立派な先輩ママ、ボス夫妻には子どもはいないが、いつも世話しているおなじ12歳の姪っ子さんがいる。話題はやっぱり子育てのネタになる。

「中学受験、どうするの」
「本人とも話したんだけどまったく興味がないのでやめました」
「そうかー。姪っ子はうけるよ」
「やっぱ、そうですよね」
「えっ、中学受験ってあたりまえなの」
「都内はけっこう多いよ」
「いじめとかこわいし。いい環境で学ばせたいからねー」
「多感な時期だし」
たしかに、おなじ目的をもつ学生があつまったほうが人間関係などのトラブルはすくなそうだ。といっても、まだ12歳。そんなに若いうちにカテゴライズしてしまっていいのかな。選択肢をひろげるために受験するんだ、とボスの奥さんはいう。やりたいことをやるための受験。同期のコもそのつもりで息子さんを塾にかよわせていた。中学受験をやめると決めるまでにも、息子さんとのあいだでいろいろな葛藤があったんだそうだ。
「息子さん、なにがやりたいの」
「ゲーム。いま城をつくるゲームに夢中になっているんですよねー」
「親に似て、クリエイター志向なんだね」
「建築とかデザインとかもいいなあ」
「たのしくなってくるよね」
「いっしょに城を見に行ったりしてるの?」
「このまえ、だんなといっしょに皇居に行ったんですー」
「おおっ、江戸城行ったんだー」
休日に皇居をおさんぽする家族、か。すごくしあわせそう。親になるのはたいへんだ、というけれど。息子さんのことを話している顔は笑っている。

12月8日、ママはつらいよ。(妊娠36週4日)

 午前10時。家から歩いて10分ほどのところにある、認可保育園の見学会に参加した。今週から来週にかけて、通園圏内にある保育園の見学会の予約を入れられるだけ入れている。もともとは家からいちばん近い認証保育園にねらいを定めていたが、認可だけではなく認証でも抽選で入園を決めるため、面談に行けばかならず入れるとはかぎらないらしい。それほど激戦だったとは。いまさらながら勉強不足を反省する。でも、ありがたいことに入園の申しこみまでにはまだ時間がある。いまならまだ間にあう。まずは見学会に行こう。

 そもそも、認可保育園と認証保育園のちがいってなんだろう。認可保育園は児童福祉法にもとづく児童福祉施設のこと。国が定めた設置基準をクリアして都道府県知事に認可された施設をいう。設置基準というのは、たとえば施設の広さや保育士をはじめとする職員数、給食設備、防災管理、衛生管理など。区市町村が運営する公立保育園と、社会福祉法人などが運営する民間保育園があるが、認可保育園はすべて公費によって運営されている。いっぽう認証保育園は、東京都独自の制度だ。認可保育園は、設置基準をみても大都市では設置がむずかしく、0歳児保育をしない保育園があるなど、都民のニーズにかならずしもこたえられてはいなかった。そのため東京都では、現状をふまえた独自の基準を設定して、よりたくさんの企業の参入を認めて事業者間の競争を促進しながら、多様化するニーズにもこたえられる新しいタイプの保育園、認証保育園制度をつくった。認証保育園には、A型とよばれる駅前基本型、B型とよばれる小規模保育園の2タイプがある。わたしもつい先日知ったばかりだ。

わたしが住んでいる品川区では、来年の4月から子ども・子育て支援新制度がはじまる。保育園を利用するには、保育の必要性と必要量の認定をうけなければならない、という。必要性と必要量をもとに、基本指数や調整指数を出して、その合計指数を算出する。そこで合計指数の高いほうから、順に内定者を決定するんだそうだ。これをクリアできなければ保育園には入れない。自分の意思とは関係なく、相対的な評価で決まる。だからみんな、いっしょうけんめいだ。実際に問い合わせしたところ、見学会だけでも予約が入れられない保育園もあった。たくさんのママたちがこうした現実とたたかっている。

12月7日、早めのクリスマス。(妊娠36週3日)

 ちょっと早めのクリスマスディナーへ。といいながら、おいしいものには目のないふたり、なにかと理由をつけて、ちょくちょく外へたべに行く。クリスマス当日までにはまだたっぷり時間があるから、これからもチャンスはいっぱいありそうだ。ヨガのあと、東銀座の歌舞伎座の近くにあるフレンチレストランに入った。ワインとフランス大衆料理をカジュアルにたのしめる、と口コミでも人気が高い。ディナーにしては早すぎる時間なのにかなり混んでいる。やっぱり、うまいもんずきの考えることは似ている。女子会をしているテーブルもある。

 この店では、オードブル、メイン、デザートを選べる。メニューを見ながらワクワク会話もはずむ。なんにしよう。鼻歌をうたいたくなっちゃうなあ。
「迷っちゃうなあ。どれにするか決めた?」
「フランス産バイヨンヌ生ハムとチーズの山盛りサラダ」
「いいねえ。メインはどうするの」
「うーん。まだ迷っている。牛ハラミのステーキにするか、吉田豚肩ロース肉のステーキにするか」
「なるほど。じゃあ、わたしは、キャビア自家製そば粉のパンケーキつきと、オマールエビと魚介の濃厚なスープココット仕立てにする」
こういうときにつかう、なるほど、ってどんな意味になるんだろう。と、ぼんやり考えながら話していた。だんなは目をぱちくり、まだ迷っている。
「いらっしゃいませ」
店員さんがやってきた。先にのみものをオーダーして、のみものがくるまでにふたたび迷っていた。迷ったぶんだけ、料理もさらにおいしくなるね。

 けっきょく、だんなは吉田豚、わたしは初志貫徹の魚介でいくことにした。こんなふうにふたりきりで食事をたのしめるのも、あと1か月か。と思っていたけれど、もうふたりではないかもしれない。ほら、そうすけが動いているよ。
「そうすけ、よく動いているよね」
「わかる、わかる。こっちから見てもわかる」
「参加しているつもりかな」
「いっしょにカンパイしているつもりなのかもねえ」

12月6日、気になるふっくら。(妊娠36週2日)

 ヨガをしながら、鏡にうつっている自分の姿を見て気づいた。あれっ、股のあたりがふっくらしている。恥骨あたりの肉づきが、よくなってきているようなのだ。さわるとふかふかのクッションみたいになっている。そうすけが無事に生まれてくるように、からだが準備をはじめているのだろう。それはわかっているけれど、やっぱりヘンな気分だ。ユニークな体形だなあ。ふくらみが主張しすぎているじゃないか。そうすけが、まもなく生まれまーす、と、アナウンスをしているようだ。うれしいけれど、恥ずかしい。まぁ産んだらもとにもどるらしいのでそれまでの、がまん、がまん。もしもどらなかったら、そのときに対策を考えよう。しかし、恥骨まわりってどうやったらダイエットできるのかな。などとぼんやり考えながらヨガをしていたら、あっというまに時間がすぎてしまった。しっかり集中できていなかったからなのか、いつもより汗の出がわるかった。まぁなんとかなるさ。いままでもなんとかなったもんね。

「きょうは、けっこう汗かけたね」
だんなが満足げにいった。いいなあ。きのうは忘年会でおそくまでのんでいたんだっけ。それもあっていつもよりリフレッシュできたのだろう。よぶんなものがないってすがすがしい。いまのわたしは、よぶんなものだらけだ。

 ヨガのあと、鍼灸マッサージへ。いまいちばんの課題は、下半身のむくみ対策だ。妊娠中のむくみは、下半身に出ることが多いといわれている。とくに妊娠後期から臨月には、胎児の成長に合わせて子宮も大きくなってくる。大きくふくらんだ子宮は、血管だけでなく足のつけ根にあるリンパ節を圧迫する。圧迫されると、リンパの流れがとどこおって下半身にたまった水分がぬけにくい状態になっていく。それで、むくんでしまうわけだ。ひどいときには、足の甲を見ただけでむくんでいることがわかる。きょうもヨガのレッスンを終えて鍼灸マッサージをうけに移動するわずかな時間のあいだに、むくんできているのがわかった。塩分をとりすぎないようにしたり、からだを冷やさないようにしたり、日常生活でできることは、気をつけていこうと思う。それでも、なかなかすぐによくなるものではないけれど。ストレスをなるべくためないように心がけたい。そう、ストレスも血流をわるくしてむくみをひどくさせる立派な原因だ。

12月5日、巣づくり本能。(妊娠36週1日)

 朝7時すぎに目が覚めた。台所に行って水をのむ。きのうつかっていたマグカップが流しに置きっぱなしだったので洗った。すべての連鎖は、ここからはじまった。いらないモノがたくさんあるなあ。いただきものの箱がそのままになっている。きれいにしようっと。かたっぱしから箱を開けて中身の消費期限をチェックしていく。期限切れのたべものがぞろぞろ出てきた。もったいないなあ。とっておきにするつもりだったのが、とっておきっぱなしになっているものがたくさんある。からだをこわしては元も子もないから、どんどん捨てていく。たべものはおいしそうだと思ったそのときにたべておかないと。

 いただきものの箱が終わったら、つぎは冷蔵庫だ。つかい切れなくてほったらかしになっている調味料がいっぱいある。ひとつひとつチェックしていくことにしよう。ケチャップは、開封したら冷蔵庫に保管しておけば、だいだい1か月はもつ。すぐに傷むわけではないが、時間が経つと、色が黒ずんだり風味が落ちたりしてくる。マヨネーズも、開封後は冷蔵庫に保管して1か月くらい。しょうゆも開封したら冷蔵庫に保管して、1か月くらいでつかい切ったほうがおいしくたべられる。腐ったり色や味がかわったりしにくいから、実際には賞味期限をすぎても長くつかっている人がたくさんいそうだ。めんつゆも、開封したらかならず冷蔵庫で保存すること。ストレートつゆなら2日から3日、3倍濃縮つゆなら約3週間が目安になるそうだ。意外と短くてびっくり。複数のめんつゆをつかいくらべてたのしんでいたので、気づかずにいるとこわい。お酢は、開封後、冷蔵庫で保管すれば1年くらいはもつ。純玄米黒酢や完熟酢は、約半年以内が目安。味噌は、賞味期限がすぎてもたべられるが、風味に変化が出てくる。しょうゆとおなじ性質だとおぼえておこう。チューブ入り香辛料は、わさびもからしも3か月くらい、しょうがは1か月くらい。ビン入り香辛料は冷蔵庫に保管して、3か月から4か月以内が目安。スパイスや香辛料は、いったん開封すると香りや辛みなどが低下していくので、先手先手でどんどんつかうほうがよさそうだ。

 スカスカになって、冷蔵庫も気分もすっきりした。これからは、必要なときに必要なものだけを買うようにしよう。いままでもこんなふうになんども反省をくりかえしてきた。これからも、産んだあとも、反省をくりかえしながらすごしていくだろう。そうすけがそれを見てなんていうのか、たのしみだ。

12月4日、臨月突入。(妊娠36週0日)

 きょうから臨月。とくに、かわったことはない。45歳のバースデーとおなじように、たんたんとその日をむかえている。あいかわらず恥骨痛には悩まされているし、ペットボトルのふたを落としてしゃがんで拾うだけでも大冒険のようなありさまで苦笑いばかりしているが。電車で席をゆずってもらう立場にもこのごろようやくなれてきた。正産期まであと1週間のんびりいこう。

 臨月ときくと、いますぐにも赤ちゃんが生まれてくるようなイメージがするけれど、臨月と出産月はちがう。妊娠36週0日から39週6日の妊娠10か月のことを臨月とよんでいるが、赤ちゃんがいつ生まれてもだいじょうぶな正産期は、妊娠37週0日から41週6日。1週間ずれている。だから、この1週間のあいだに産んだ場合には早産となる。早産といっても赤ちゃんは十分に成長しているから、心配しなくてもいいそうだが。なるべく予定日までゆっくりくつろいでもらいたいなあ。臨月をむかえた赤ちゃんは体重が2700グラムから3400グラム、身長も48センチから53センチくらいに成長している。いままでおなかのなかで元気に動きまわっていたそうすけも、そろそろ動きにくくなってくるころだ。ときどき、おなか側ではなく足のつけ根側をキックされる。いや、キックではなくパンチなのかもしれない。立っているときに攻撃されることが多いから、気をぬいてはならない。ついよろめいてころびそうになるからだ。このワザのことを、そうすけの腰かっくん、と、ひそかに名づけている。

 まだ十分時間はある、と思いつつも出産準備をすることにした。入院するときに必要なものをカバンにまとめていく。きょう1日でぜんぶをそろえるのはたいへんなので、あるものからすこしずつ。パジャマ、下着、タオル、洗面用具、そうすけの服。保険証や母子手帳、印鑑は、いつものポーチに入れているから、それを携帯していればだいじょうぶだ。そうすけの服をパッケージから出してたたみながら、あらためて赤ちゃんは小さいなと思った。いま、こんな小さないのちがおなかのなかでがんばっているんだ。ああ、また、しゃっくりをしている。へその下あたりにけいれんを感じながらいとおしいと思う。

12月3日、ようこそ恥骨痛。(妊娠35週6日)

 あいたたた。これが恥骨痛か。服を着がえ、タイツを履こうとしているときにピキッと痛みを感じた。ヨガをつづけているからそういう痛みとは無縁でいられるだろうと気楽にかまえていたが、あまかった。そうすけが生まれるまでこの痛みがつづくのかと思うと、ユウウツな気もちになってくる。

 腰痛や恥骨痛で悩んでいる妊婦さんはたくさんいるといわれている。妊娠すると、ホルモンのはたらきで骨盤や背骨のつなぎめがゆるみがちになるため、ずれて痛みが出たり、おなかがどんどん大きくなると腰の筋肉がのびてうすくなって傷つきやすくなるため、痛みが出たりする。急激に太ったり、おなかを支える筋力が足りなかったりするのも、腰痛をまねく原因だ。恥骨痛は、臨月になると赤ちゃんのあたまが骨盤のなかに入りこんで感じたり、ホルモンの影響で骨のつなぎめがゆるんでいるとそこに痛みや違和感を感じるそうだ。おなかが大きくなると、足のつけ根が痛むこともある。いままさにその状況だ。

 ヨガに行ったら、ちょっと痛みがやわらいできた。この調子でいけば、あと1か月、なんとかなるだろう。腰痛や恥骨痛を予防するには、腰や背中の筋肉をきたえるといい。赤ちゃんの重みに耐えられるようにすることだ。痛みがかるいうちに運動や体操などで筋力をつけたい。痛みがひどいときには、安静にして筋肉を休ませてあげること。風呂につかったり、遠赤外線をあてたりして、あたためてあげると痛みがやわらいでくる。ずっと休んでいるのは、腰や背中の筋肉が弱くなってしまうのでよくないらしい。ふだんの姿勢を気をつけることで痛みも軽減できる。背中を反らないように意識してみよう。

 腰痛も恥骨痛も、ほとんどの人は出産すれば自然に治ることが多い。出産をしてすぐに治る人と、数か月をかけて治る人がいるらしい。わたしはもともと腰痛もちだったりするので、長い時間をかけて痛みとつきあうことになりそうだ。体力には自信があるけれど、こういうときに45歳という年齢を意識せずにはいられない。これがいまのわたしなんだ、とあらためて実感する。

12月2日、自由をたのしむ。(妊娠35週5日)

 だっこひもを、通販でオーダーした。きのうのプレママランチで話題に出ていたタイプだ。家に帰ってネットで検索をして、ユーザーの口コミを読んで、ますます興味をそそられてしまった。バックルもストラップもスナップも一切ついていない、ラップスタイルのだっこひも。シンプルな一枚生地をからだに密着させてただ巻くだけ。肩や腰にくいこむことがなく、赤ちゃんの体重を均等に分散することができるので、赤ちゃんにもお母さんにも安全で気もちよくつかえるそうだ。新生児からすぐにつかえるのも魅力だ。有名ブランドや、横抱きだっこひもや、むかしながらのおんぶひもや、選択肢はいろいろあるけれど。すこしずつためしてみて、そうすけと相性のいいものを探っていこう。

 産休に入ってから2日め。午前中にメールのやりとりをして、午後はマタニティヨガへ。いつもカバンに入れてもち歩いているノートパソコンを、きょうは家に置いてきた。たったそれだけのことで、ものすごい解放感につつまれている。プレママランチのみんなはわたしより早く産休に入っていた。さぞかし満喫しているでしょう、ときいたら、1週間であきたという。うれしいのも最初のうちだけかもなあ。わたしは産休に入ってからも原稿の管理をつづけているので、時間をもてあますほどのゆとりはなさそうだ。ありがたく、産休をたのしむことができるだろう。そうすけが生まれるまでの期間限定だけど。

 ヨガが終わって、遅めのランチをどこでたべようかな、と、銀座をぶらぶらする。これがいわゆる、銀ぶら、っていうものね。銀座でブラジルコーヒーをのむから、銀ブラ、という説もあるらしいけれど。どっちがほんとうの語源なんだろう。ぶらぶら歩きながら、ぶらぶら考えながら、けっきょくカキフライのおいしい店に入ることにした。またカキだ。3日前にたべたばかりなのにやっぱりたべたい。このこだわりは、どこからきているのだろう。でも、からだがほしがっているのだからよしとしよう。店に入ると、さっそくおねえさんにカキフライ定食を注文した。おねえさんとよんでいるが、還暦をすぎているおねえさんだ。言葉も行動もマイペース。自由をたのしんでいるんだなあ、この人も。